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第5話

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「ん、……んぅ?」

 唐突な接吻に声にならない驚きを上げるドロワだったが、次第に彼女の傷口が淡い光を帯び始める。次第に出血は止まり、傷口が少しずつだが時を巻き戻すかのようにふさがっていく。舌を絡ませ、伝わった唾液を嚥下する頃には傷はほとんどなくなっており、スカートの裾に散った血痕くらいしか、それがあったことを示すものはなかった。

「は、初めてだったのに……。ていうか、い、今のは一体どういうことなの?」
「えっと、治癒術には内氣功と外氣功があるんですけど、それは知ってますか?」

 双子はそろって首を横に振る。そもそもそういったことを学ぶ場こそが教導会なのだから、双子が知らぬのも当然ではある。ルーナは周囲をひとしきり警戒した後、説明を始めた。

「外氣功は治癒の光を照らすことで傷を修復します。即効性はありますが、傷痕が残ったり失った血はそのままなので継戦能力は落ちます。一方で内氣功は人本来の治癒力を高めるものなので、傷痕も残りませんし、すぐ戦闘に復帰できます。ただし、治療に時間がかかるのと、密着する必要がありますね。聖女の治癒力を内側から使うものなので」
「つまり、今のはルーナちゃんの内氣功でドロワの傷を治したってことなの?」
「はい」
「でもさっき、内氣功での治療は時間がかかるって言ったのよね? すぐ直ったじゃん」

 ドロワが傷のあっと場所を撫でながらルーナに尋ねた。ルーナは薄い胸を張って答えた。

「それは私の魔力量が為せる技ですね。……逆に、外氣功で治療しようとすると一瞬すぎて後遺症が残ってしまうんです」

 最初は自慢げに、しかしその声はすぐにしぼんでしまう。ルーナが外氣功で治療しようとすると。身体が治ったことを認識するよりも早く治療してしまい、結果として傷口がずっと痒かったり、揉み返しのような症状が起きてしまうのだ。

「なるほどねぇ。……ひょっとして、聖女様ってみんな内氣功を使う時はキスをするの?」
「まさか。私にとって一番効率がいいやり方だからです。人によっては指を治療相手の口に入れたり、顔全体を手で覆うような人もいますね」
「休憩室でルーナが指定した条件が分かるような気がするわ」
「別に、胸の大きさは関係ない気がするけどね」
「そこはせっかくなのでってことです。目の保養に」

 ゴーシュは納得したような表情、ドロワは少しだけ不満げな表情を浮かべる。

「初めてだったのになぁ」
「人工呼吸みたいなもんだと思っときなよ」
「そう言うんだったらゴーシュもルーナとキスしとけば?」

 ドロワの言葉にルーナが目を輝かせる。治療うんぬんの前にルーナはキス魔なのだ。

「また今度ね。取り敢えず、ゴブリン討伐を終わらせちゃいましょ」
「むぅ、躱されちゃいました」

 グラスハイエナ討伐と治療の説明で時間を取りすぎてしまったが、三人は再びゴブリンを探し始めるのだった。
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