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第1話
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「たのもー!!」
冒険者ギルドに少女の明朗な声が響く。少女の名はルーナ・ティアムーン。純白のローブに木製の杖を持つ一目見て魔術師だと分かる姿だ。年の頃は十四かそこらといった感じだが、無垢なその笑みはより幼くも見える。そんな彼女は、まるで道場破りのごとく威勢よく扉を開け放ったのだ。
「…………」
当然のように、ギルド内の視線が集まる。
ルーナはキョロキョロと周囲を見回すが、すぐに受付嬢のいるカウンターへ駆けていった。
「冒険者になりたい!!」
「うーん……お嬢ちゃん、明らかに教導会の学生さんよね? 学生冒険者はそこそこいるけど、そういうのって騎士学校の生徒さんなわけで……」
この世界の女神アリシア・ハートロードを信奉するハートロード教は治癒術の素養を持つ少女達に教育を施す、教導会という学校を運営している。ルーナのまとう純白のローブはその学校の制服であり、心臓のマークが刺繍されていることからもそれは明らかだ。
「学校はやめたわ!! 聖女になるつもりなんてさらさらないし、治癒術が使えるなら傷つく人の多い冒険者を癒すべきだわ! あと、私の魔力は強すぎて数多の光を生み出し、そして大爆発しちゃうもの!!」
「……そ、そう」
受付嬢の顔には困惑の色がありありと浮かんでいた。
(な、何言ってるのかしらこの子?)
教導会の優秀な生徒達が集うエリート中のエリート。それが聖女候補である。聖女候補たちは聖女になることを目指すわけだが、ルーナはそれを拒んだ。しかし受付嬢は確かにルーナから滲む強い魔力を感じていた。
「えっと、じゃあ冒険者の登録をしてみる? よいしょっと、この石板に手をかざしてみて?」
受付嬢は水晶のように透き通った石版を取り出してカウンターの上に置く。ルーナは言われた通り手を伸ばし、その石版に触れる。すると淡い光が放たれ、ルーナの名前とそのランクが表示される。
「え、このステータスは……!」
名前:ルーナ・ティアムーン
年齢:14歳
性別:女性
種族:人間族
レベル:5
体力:128/128
魔力:6500/6500
筋力:25
耐久力:20
魔力制御:70
精神力:80
敏捷性:30
運 :75
武装:樫の長杖 教導会制服
属性適性:光 治癒
称号:聖女候補
「すっごいじゃない! あなた教導会でもトップクラスの成績だったんじゃない!?」
「ふふん! もっと褒めてくれても構わないわよ!」
ルーナは得意げに未成熟な薄い胸を張る。
「それにしても……この年齢でこれだけの魔力を持ってるなんて……」
「すごいでしょう!」
「ええ、本当に……」
受付嬢は感心したように何度もうなずく。
「でも、本当に学校をやめたの? 貴女ほどの素養があれば聖女だって……」
「何度も言わせないで。学校はやめた。聖女になったって……救えない命だってある。教会に来ることすらままならない重傷者を癒すには、在野の治癒術士になるしかない。それなら、冒険者になるのが一番だわ」
ずっと自信満々で溌剌としていた印象のルーナが一瞬だけ陰った。受付嬢はその姿を見て本気なんだと理解する。
「分かったわ。じゃあ、冒険者としての登録をしましょうか。これが七級冒険者のカードよ」
簡素なカードだが、偽造防止のための術式が組み込まれているため実は高価な魔道具だ。ギルドは依頼者からの報酬を一部差し引いて冒険者に支払っており、買い取った素材の売却など利益を上げているからこそ、ギルドカードの交付ができるのだ。
そんなカードを見ながら、ルーナは愕然とした表情を浮かべる。
「え、な……七級? もっと実力あるわ! あなただってわかるでしょう!?」
ルーナが抗議の声を上げるが、受付嬢は首を横に振る。
「あなたの実力は認めるわ。けれど、それはレベルの割にはってこと。レベル一桁の新人なら七級でちょうどいいのよ」
冒険者のランクは七級が最低で一級まであり、そこから名誉職として特級がある。ルーナの魔力量には目を見張るものがあるが、それだけで上級冒険者にはなれないのだ。実際、攻撃性能というところでは彼女の実力を証明する術が今ないのだ。
「むぅ……」
「取り敢えず今はパーティを組むことをお勧めします。どのみち、回復役なのだからソロってわけにはいかないでしょう?」
「……それは、そう。できれば旅するパーティに入って、この街から離れたい」
「それは構いませんけど、路銀はあるんですか?」
「ぐぬぬ……3000アインしかない」
この街の宿で最安値を探しても一泊一食つきで500アインというところだろう。しかしここは冒険者ギルド。
「300アインで一泊できます。大部屋で食事もありませんが、一応男女別にはなってますから」
「な、なるほど! そこでついでにパーティメンバーを探すのも……」
「可能ですね。……って、判断が早いですね。300アイン受け取りました。どうぞ、奥が休憩所ですから」
こうして、ルーナ・ティアムーンは冒険者としての一歩を踏み出したのだった。
冒険者ギルドに少女の明朗な声が響く。少女の名はルーナ・ティアムーン。純白のローブに木製の杖を持つ一目見て魔術師だと分かる姿だ。年の頃は十四かそこらといった感じだが、無垢なその笑みはより幼くも見える。そんな彼女は、まるで道場破りのごとく威勢よく扉を開け放ったのだ。
「…………」
当然のように、ギルド内の視線が集まる。
ルーナはキョロキョロと周囲を見回すが、すぐに受付嬢のいるカウンターへ駆けていった。
「冒険者になりたい!!」
「うーん……お嬢ちゃん、明らかに教導会の学生さんよね? 学生冒険者はそこそこいるけど、そういうのって騎士学校の生徒さんなわけで……」
この世界の女神アリシア・ハートロードを信奉するハートロード教は治癒術の素養を持つ少女達に教育を施す、教導会という学校を運営している。ルーナのまとう純白のローブはその学校の制服であり、心臓のマークが刺繍されていることからもそれは明らかだ。
「学校はやめたわ!! 聖女になるつもりなんてさらさらないし、治癒術が使えるなら傷つく人の多い冒険者を癒すべきだわ! あと、私の魔力は強すぎて数多の光を生み出し、そして大爆発しちゃうもの!!」
「……そ、そう」
受付嬢の顔には困惑の色がありありと浮かんでいた。
(な、何言ってるのかしらこの子?)
教導会の優秀な生徒達が集うエリート中のエリート。それが聖女候補である。聖女候補たちは聖女になることを目指すわけだが、ルーナはそれを拒んだ。しかし受付嬢は確かにルーナから滲む強い魔力を感じていた。
「えっと、じゃあ冒険者の登録をしてみる? よいしょっと、この石板に手をかざしてみて?」
受付嬢は水晶のように透き通った石版を取り出してカウンターの上に置く。ルーナは言われた通り手を伸ばし、その石版に触れる。すると淡い光が放たれ、ルーナの名前とそのランクが表示される。
「え、このステータスは……!」
名前:ルーナ・ティアムーン
年齢:14歳
性別:女性
種族:人間族
レベル:5
体力:128/128
魔力:6500/6500
筋力:25
耐久力:20
魔力制御:70
精神力:80
敏捷性:30
運 :75
武装:樫の長杖 教導会制服
属性適性:光 治癒
称号:聖女候補
「すっごいじゃない! あなた教導会でもトップクラスの成績だったんじゃない!?」
「ふふん! もっと褒めてくれても構わないわよ!」
ルーナは得意げに未成熟な薄い胸を張る。
「それにしても……この年齢でこれだけの魔力を持ってるなんて……」
「すごいでしょう!」
「ええ、本当に……」
受付嬢は感心したように何度もうなずく。
「でも、本当に学校をやめたの? 貴女ほどの素養があれば聖女だって……」
「何度も言わせないで。学校はやめた。聖女になったって……救えない命だってある。教会に来ることすらままならない重傷者を癒すには、在野の治癒術士になるしかない。それなら、冒険者になるのが一番だわ」
ずっと自信満々で溌剌としていた印象のルーナが一瞬だけ陰った。受付嬢はその姿を見て本気なんだと理解する。
「分かったわ。じゃあ、冒険者としての登録をしましょうか。これが七級冒険者のカードよ」
簡素なカードだが、偽造防止のための術式が組み込まれているため実は高価な魔道具だ。ギルドは依頼者からの報酬を一部差し引いて冒険者に支払っており、買い取った素材の売却など利益を上げているからこそ、ギルドカードの交付ができるのだ。
そんなカードを見ながら、ルーナは愕然とした表情を浮かべる。
「え、な……七級? もっと実力あるわ! あなただってわかるでしょう!?」
ルーナが抗議の声を上げるが、受付嬢は首を横に振る。
「あなたの実力は認めるわ。けれど、それはレベルの割にはってこと。レベル一桁の新人なら七級でちょうどいいのよ」
冒険者のランクは七級が最低で一級まであり、そこから名誉職として特級がある。ルーナの魔力量には目を見張るものがあるが、それだけで上級冒険者にはなれないのだ。実際、攻撃性能というところでは彼女の実力を証明する術が今ないのだ。
「むぅ……」
「取り敢えず今はパーティを組むことをお勧めします。どのみち、回復役なのだからソロってわけにはいかないでしょう?」
「……それは、そう。できれば旅するパーティに入って、この街から離れたい」
「それは構いませんけど、路銀はあるんですか?」
「ぐぬぬ……3000アインしかない」
この街の宿で最安値を探しても一泊一食つきで500アインというところだろう。しかしここは冒険者ギルド。
「300アインで一泊できます。大部屋で食事もありませんが、一応男女別にはなってますから」
「な、なるほど! そこでついでにパーティメンバーを探すのも……」
「可能ですね。……って、判断が早いですね。300アイン受け取りました。どうぞ、奥が休憩所ですから」
こうして、ルーナ・ティアムーンは冒険者としての一歩を踏み出したのだった。
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