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第14話/懊悩/そわそわ

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 二月末、日記をつけおえた私はノートに作ったチェックリストを眺めていた。

「あと何が残ってるの?」

 後ろからぐいっと美希が覗きこんでくるものだから、思わずノートをパタンと閉じてしまった。残った内容がほぼほぼピンクなイベントだったものだから、流石にそれを見られるのは……ね?

「隠すってことは不埒なことなんでしょ? 文緒は分かりやすいねぇ」

 美希には隠し事できないなぁ。お見通しって感じ。
 不埒じゃないものも、無いこともないのだけれど……例えば膝枕とか。でも、メインはそれこそ同衾というか……ね? ディープキスの時に知ってしまったあの舌使いで、下の口に吸い付かれたらどうなってしまうのだろうかと妄想が捗ってしまってもう、夜も眠れないくらいなのだ。昂ぶってしまって、しょうがない。美希に隠れてひっそり鎮めてからやっと眠れるのだ。

「次の週末なんだけど、私ちょっと実家に用があるから寮を空けるの。だから……その、呼んでいいよ。小春ちゃんだっけ? その、恋人ちゃん」
「ふぇええ!? いいの!? そっかぁ、お泊まりできるんだぁ……」

 初めてのお泊まりでいきなり迫ってもいいのかな? お互いに桜花寮生だし、そういうことするならウワサに聞くひなびたカラオケ店になるのかなぁなんて思ってたけど、もしチャンスがあるのであれば……私は! 大人の! 階段を! 上るぞ!!

「あ、私のベッド使わないでね」
「同衾確定じゃないですかぁ!!!」

 待て、落ち着け……今日が木曜日だから後二日しかないのか。もう自分でするの我慢する。夜の大運動会があろうとなかろうと、これから我慢する。取り敢えず週末までは、ってつくけど。

「まぁ、恋人ちゃんが嫌がったら文緒は床で寝ることね」
「もう、そんなこと言っちゃってぇ。私と小春ちゃんの仲だよ? シングルベッドで夢と彼女を抱くわけですよ」

 カラオケはカラオケでまた行きたいな。この前の週末は、泊まれないラブホと話題の古びたカラオケ店とは別の、大手の新しくて綺麗なカラオケ店に二人で歌いに行ってきた。楽しかったし可愛かったし、本当に良かった。

「ちなみに、実家には何の用事で?」
「ん? あぁ、実はね……お見合いをちょっと」
「……え?」

 よほどのものでもない限り驚かないだろうとは思っていたけれど、まさかのよほどのものだったわぁ。

「冗談だよ。曾おばあちゃんの法事で、毎年このタイミングで一度帰るの。ついでに小学校の頃の友達にも会うし、他の子は恋愛してるのかなぁなんて思いながら、あれこれ聞いてみるつもり」
「そっか、驚かさないでよ……もう」

 美希は中学の頃から星花に通っているのかぁ。そう言えばその辺りの話を聞いたことなかったな。実家は藤沢の辺りだということしか知らないや。しかもそれを聞いたのもつい最近、年始恒例の駅伝を見ながら教えてもらったくらいだ。
 ルームメイトでありファーストキスの相手である彼女のことを、全然知らないという事実をつきつけられ、自分が底の浅い人間に思えてきてしまった。
 私はどれだけ、小春ちゃんのことを知っているだろう。理解しているだろう。
 お泊まりに浮かれて、彼女の気持ちも考えずに不埒な気を起こしているのではないだろうか。不意に拒絶された場合の光景が脳裏をよぎる。些細なことで怒らせて、帰ってしまったらどうしよう……。

「なーに深刻な顔してんのさ」
「あ、ごめん。お泊まりに誘って、拒まれたらどうしようってなっちゃって……」
「さっきまで自信満々だったのにどうしちゃったのよ。一度拒まれたからって心の折れる女じゃないでしょ、五百旗頭文緒は」

 そう、かな。でも大丈夫だよね……小春ちゃんにお願いして断られたことないし、キスに関しては先に彼女からしてきたわけだもの。
 あぁでも体調面は……いや、生理の周期は私とほぼ一緒なくらいだって言っていたし、その方面はクリアしている。体調が悪ければ明日誘った時点で断るはず。というか既に連絡があってもおかしくない。

「よし! とにもかくにも明日誘ってから考える!」
「ふふ、いいんじゃないかな文緒らしくて。さ、今日はもう寝よう」
「うん、おやすみ」

 決意を胸に、今日はよく眠れそうな感じがする。
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