14 / 18
第14話/懊悩/そわそわ
しおりを挟む
二月末、日記をつけおえた私はノートに作ったチェックリストを眺めていた。
「あと何が残ってるの?」
後ろからぐいっと美希が覗きこんでくるものだから、思わずノートをパタンと閉じてしまった。残った内容がほぼほぼピンクなイベントだったものだから、流石にそれを見られるのは……ね?
「隠すってことは不埒なことなんでしょ? 文緒は分かりやすいねぇ」
美希には隠し事できないなぁ。お見通しって感じ。
不埒じゃないものも、無いこともないのだけれど……例えば膝枕とか。でも、メインはそれこそ同衾というか……ね? ディープキスの時に知ってしまったあの舌使いで、下の口に吸い付かれたらどうなってしまうのだろうかと妄想が捗ってしまってもう、夜も眠れないくらいなのだ。昂ぶってしまって、しょうがない。美希に隠れてひっそり鎮めてからやっと眠れるのだ。
「次の週末なんだけど、私ちょっと実家に用があるから寮を空けるの。だから……その、呼んでいいよ。小春ちゃんだっけ? その、恋人ちゃん」
「ふぇええ!? いいの!? そっかぁ、お泊まりできるんだぁ……」
初めてのお泊まりでいきなり迫ってもいいのかな? お互いに桜花寮生だし、そういうことするならウワサに聞くひなびたカラオケ店になるのかなぁなんて思ってたけど、もしチャンスがあるのであれば……私は! 大人の! 階段を! 上るぞ!!
「あ、私のベッド使わないでね」
「同衾確定じゃないですかぁ!!!」
待て、落ち着け……今日が木曜日だから後二日しかないのか。もう自分でするの我慢する。夜の大運動会があろうとなかろうと、これから我慢する。取り敢えず週末までは、ってつくけど。
「まぁ、恋人ちゃんが嫌がったら文緒は床で寝ることね」
「もう、そんなこと言っちゃってぇ。私と小春ちゃんの仲だよ? シングルベッドで夢と彼女を抱くわけですよ」
カラオケはカラオケでまた行きたいな。この前の週末は、泊まれないラブホと話題の古びたカラオケ店とは別の、大手の新しくて綺麗なカラオケ店に二人で歌いに行ってきた。楽しかったし可愛かったし、本当に良かった。
「ちなみに、実家には何の用事で?」
「ん? あぁ、実はね……お見合いをちょっと」
「……え?」
よほどのものでもない限り驚かないだろうとは思っていたけれど、まさかのよほどのものだったわぁ。
「冗談だよ。曾おばあちゃんの法事で、毎年このタイミングで一度帰るの。ついでに小学校の頃の友達にも会うし、他の子は恋愛してるのかなぁなんて思いながら、あれこれ聞いてみるつもり」
「そっか、驚かさないでよ……もう」
美希は中学の頃から星花に通っているのかぁ。そう言えばその辺りの話を聞いたことなかったな。実家は藤沢の辺りだということしか知らないや。しかもそれを聞いたのもつい最近、年始恒例の駅伝を見ながら教えてもらったくらいだ。
ルームメイトでありファーストキスの相手である彼女のことを、全然知らないという事実をつきつけられ、自分が底の浅い人間に思えてきてしまった。
私はどれだけ、小春ちゃんのことを知っているだろう。理解しているだろう。
お泊まりに浮かれて、彼女の気持ちも考えずに不埒な気を起こしているのではないだろうか。不意に拒絶された場合の光景が脳裏をよぎる。些細なことで怒らせて、帰ってしまったらどうしよう……。
「なーに深刻な顔してんのさ」
「あ、ごめん。お泊まりに誘って、拒まれたらどうしようってなっちゃって……」
「さっきまで自信満々だったのにどうしちゃったのよ。一度拒まれたからって心の折れる女じゃないでしょ、五百旗頭文緒は」
そう、かな。でも大丈夫だよね……小春ちゃんにお願いして断られたことないし、キスに関しては先に彼女からしてきたわけだもの。
あぁでも体調面は……いや、生理の周期は私とほぼ一緒なくらいだって言っていたし、その方面はクリアしている。体調が悪ければ明日誘った時点で断るはず。というか既に連絡があってもおかしくない。
「よし! とにもかくにも明日誘ってから考える!」
「ふふ、いいんじゃないかな文緒らしくて。さ、今日はもう寝よう」
「うん、おやすみ」
決意を胸に、今日はよく眠れそうな感じがする。
「あと何が残ってるの?」
後ろからぐいっと美希が覗きこんでくるものだから、思わずノートをパタンと閉じてしまった。残った内容がほぼほぼピンクなイベントだったものだから、流石にそれを見られるのは……ね?
「隠すってことは不埒なことなんでしょ? 文緒は分かりやすいねぇ」
美希には隠し事できないなぁ。お見通しって感じ。
不埒じゃないものも、無いこともないのだけれど……例えば膝枕とか。でも、メインはそれこそ同衾というか……ね? ディープキスの時に知ってしまったあの舌使いで、下の口に吸い付かれたらどうなってしまうのだろうかと妄想が捗ってしまってもう、夜も眠れないくらいなのだ。昂ぶってしまって、しょうがない。美希に隠れてひっそり鎮めてからやっと眠れるのだ。
「次の週末なんだけど、私ちょっと実家に用があるから寮を空けるの。だから……その、呼んでいいよ。小春ちゃんだっけ? その、恋人ちゃん」
「ふぇええ!? いいの!? そっかぁ、お泊まりできるんだぁ……」
初めてのお泊まりでいきなり迫ってもいいのかな? お互いに桜花寮生だし、そういうことするならウワサに聞くひなびたカラオケ店になるのかなぁなんて思ってたけど、もしチャンスがあるのであれば……私は! 大人の! 階段を! 上るぞ!!
「あ、私のベッド使わないでね」
「同衾確定じゃないですかぁ!!!」
待て、落ち着け……今日が木曜日だから後二日しかないのか。もう自分でするの我慢する。夜の大運動会があろうとなかろうと、これから我慢する。取り敢えず週末までは、ってつくけど。
「まぁ、恋人ちゃんが嫌がったら文緒は床で寝ることね」
「もう、そんなこと言っちゃってぇ。私と小春ちゃんの仲だよ? シングルベッドで夢と彼女を抱くわけですよ」
カラオケはカラオケでまた行きたいな。この前の週末は、泊まれないラブホと話題の古びたカラオケ店とは別の、大手の新しくて綺麗なカラオケ店に二人で歌いに行ってきた。楽しかったし可愛かったし、本当に良かった。
「ちなみに、実家には何の用事で?」
「ん? あぁ、実はね……お見合いをちょっと」
「……え?」
よほどのものでもない限り驚かないだろうとは思っていたけれど、まさかのよほどのものだったわぁ。
「冗談だよ。曾おばあちゃんの法事で、毎年このタイミングで一度帰るの。ついでに小学校の頃の友達にも会うし、他の子は恋愛してるのかなぁなんて思いながら、あれこれ聞いてみるつもり」
「そっか、驚かさないでよ……もう」
美希は中学の頃から星花に通っているのかぁ。そう言えばその辺りの話を聞いたことなかったな。実家は藤沢の辺りだということしか知らないや。しかもそれを聞いたのもつい最近、年始恒例の駅伝を見ながら教えてもらったくらいだ。
ルームメイトでありファーストキスの相手である彼女のことを、全然知らないという事実をつきつけられ、自分が底の浅い人間に思えてきてしまった。
私はどれだけ、小春ちゃんのことを知っているだろう。理解しているだろう。
お泊まりに浮かれて、彼女の気持ちも考えずに不埒な気を起こしているのではないだろうか。不意に拒絶された場合の光景が脳裏をよぎる。些細なことで怒らせて、帰ってしまったらどうしよう……。
「なーに深刻な顔してんのさ」
「あ、ごめん。お泊まりに誘って、拒まれたらどうしようってなっちゃって……」
「さっきまで自信満々だったのにどうしちゃったのよ。一度拒まれたからって心の折れる女じゃないでしょ、五百旗頭文緒は」
そう、かな。でも大丈夫だよね……小春ちゃんにお願いして断られたことないし、キスに関しては先に彼女からしてきたわけだもの。
あぁでも体調面は……いや、生理の周期は私とほぼ一緒なくらいだって言っていたし、その方面はクリアしている。体調が悪ければ明日誘った時点で断るはず。というか既に連絡があってもおかしくない。
「よし! とにもかくにも明日誘ってから考える!」
「ふふ、いいんじゃないかな文緒らしくて。さ、今日はもう寝よう」
「うん、おやすみ」
決意を胸に、今日はよく眠れそうな感じがする。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
やわらかな春のぬくもりに
楠富 つかさ
恋愛
三度の飯とおっぱいが好き! そんなライト変態な女の子、小比類巻世知が一番好きなおっぱいは部活の先輩のおっぱい。おっぱいだけじゃなく、先輩のすべてが好きだけど、それを伝えたらきっともう触れられない。
本当はへたれな主人公と、優しく包んでくれる先輩の学園百合ラブコメ、開幕です!!
君と奏でる恋の音
楠富 つかさ
恋愛
地方都市、空の宮市に位置する中高一貫の女子校『星花女子学園』で繰り広げられる恋模様。
自分に自信がない主人公、君嶋知代はある満月の夜に同じ寮に住む先輩である蓮園緋咲と出会う。
王子様然とした立ち振る舞いをする彼女と出会い、同じ時間を過ごすうちに、知代は自分自身を見つめ直すようになっていた。
この物語は私が主催する同一世界観企画『星花女子プロジェクト』の参加作品です。
深淵ニ舞フ昏キ乙女ノ狂詩曲 ~厨二少女だって百合したい!~
楠富 つかさ
恋愛
運命的な出会いを果たした二人の少女。そう、彼女たちは中二病の重症患者であった。方や右眼と左腕を疼かせる神の使い、方や左目と右腕が疼くネクロマンサー。彼女たちの、中二病としてそして一人の少女としての、魂の物語を綴る。
自転車センパイ雨キイロ
悠生ゆう
恋愛
創作百合。
学校へと向かうバスの中で、高校三年生の中根紫蒼はカナダに住むセンパイからのメッセージを受け取った。短い言葉で綴られるちぐはぐな交流は一年以上続いている。センパイと出会ったのは、紫蒼が一年生のときだった。
一年生の紫蒼は、雨の日のバスの中で偶然センパイと隣り合わせた。それから毎日少しずつ交流を積み重ねて、毎朝一緒に勉強をするようになった。クラスメートとの交流とは少し違う感覚に戸惑いながらも、紫蒼はセンパイと会うのを楽しみにするようになる。
それでも私たちは繰り返す
悠生ゆう
恋愛
創作百合。
大学の図書館で司書として働く美也にはふたつの秘密があった。
ひとつは『都』という名前で生きた前世の記憶があること。
もうひとつはレズビアン風俗のデリヘル嬢として働いていること。
ある日、学生の菜穂美に風俗で働いていることを知られてしまった。
前世と現世が交錯していく。
星空の花壇 ~星花女子アンソロジー~
楠富 つかさ
恋愛
なろう、ハーメルン、アルファポリス等、投稿サイトの垣根を越えて展開している世界観共有百合作品企画『星花女子プロジェクト』の番外編短編集となります。
単体で読める作品を意識しておりますが、他作品を読むことによりますます楽しめるかと思います。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
恋は芽吹いて百合が咲く
楠富 つかさ
恋愛
地方都市、空の宮市に位置する中高一貫の女子校『星花女子学園』で繰り広げられる恋模様。
恋心を知らずに育った主人公は二人の後輩と出会うことで、やがて百合の花を咲かせる恋の種を芽吹かせる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる