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第十五話 森の中で

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 その後、狩りをしながらもゆっくりと二日という時間をかけて森へ進み、とうとう森の目の前にまでやってきた。

「聖なる森……確かに、雰囲気あるよね」
「はい、神秘的です」

 思わず口をついた私の呟きにレリエも同意する。樹齢数百年の樹が無数に生えていると言われる森、纏う雰囲気は他の森――レリエの家があった森など――とは大違いだ。

「つっても、この森にすら魔物がいるから嫌になるけど」

 どうやら、ステラは森を通った経験があるらしく、森にも魔物がいることを教えてくれた。戦いでの身体の使い方だけじゃなくて、テーブルマナーとか歴史とか、けっこう色んな知識を持っているステラはいったい何者なんだろうか。知識は覗けるけれど記憶は一切覗けないからますます気になる。訊いてもうやむやにされるし。

「え、いるんですか!?」

 これは流石にレリエも知らなかった。私はステラ経由で知っていたけど。

「この森が持つ特有の魔力に適応した種族が蔓延っているのよ」

 だから、私から説明してあげる。すると、クレアは腰に吊っていたハンドメイスを手に持った。森から魔物が出てくるのを警戒しているのかも。

「じゃあ、慎重に進もうか」

 そう言って森へ足を踏み入れたのだが……まさしく空気が変わった。日光は森の繁った葉によって塞がれている。冷たい風が吹く真っ暗でじめじめした空間……だが、それ以上に妙な濃さの魔力が肌をつく。

「……前と違うな」

 ステラの声が一段と低くなる。それだけ警戒しているということか。右手でナイフを持ち、左手も柄に触れている。それから数歩歩くと、ステラは左手を柄から離し私たちを制した。思わず私も槍を両手に構える。

「どうしたの?」
「せい!」

 私が声をかけると、ステラは数メートル先の樹目掛けてナイフを投擲した。いや、それ投げナイフじゃないし……と、つっこむ前に、

「樹に擬態した魔物!?」

 いわゆるトレントと呼ばれる魔物。ナイフで刺されいきりたつ。暴れているがその分隙だらけで、ステラが左手に持ったナイフで斬りつけた部位を狙って私も槍を突き立てる。その一撃でトレントは霧散した。そういえば、ステラのナイフ……あ、もう回収してあったんだ。早いなぁ、斬りつけた時かな。みんな、怪我は……。

「クレア! 後ろ!」

 トレントとは違う、人と同じサイズの魔物の触手がクレアを狙って伸びていき――

「伏せて!」

 その瞬間、爆音と共にその魔物は吹き飛んだ。

「大丈夫?」

 煙が晴れると現れたのは、朱色の髪を高く結った豊満な女性だった。
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