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第七話 盗賊少女

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「じゃあ、君。住所氏名年齢を教えてくれるかい?」

レリエの空術でスリの彼女を含めた3人は、私たちが取った宿の一室へ転移していた。そこで私は目の前の少女に取調べを敢行している。

「あんた、非番のサツか?」
「質問に質問で返さないでよ……。私たちは単なる旅人だよ」
「あっそ。あたしの名前はステラ。住処なしの17歳」

一個上か。ステラと名乗った彼女は私の質問にきちんと答えてくれた。住処がないというのは気になるが。

「彼女のバッグからは私たちのもの以外の財布もありました。常習犯ですね」

荷物検査を終えたレリエが報告してくれる。とりあえず、銀貨20枚は無事だったようだ。

「君がスリをしているのは何故だい?」
「職のないあたしの生きる糧にするためさ」
「反省の色はないようだね」
「当たり前だろ。生きるためには仕方ないからな」

茶色の髪の隙間から覗く鳶色の瞳は、真っ直ぐに私を見ている。さっきまでの泳いでいた瞳の持ち主と同一人物とは思えない程の豪胆ぶりだ。

「一先ず、私はこの財布を警察へ届けてきます」

そう言ってレリエは転移していった。一般常識として記憶している、この世界の警察は騎士団と同意だった気がする。いわゆる治安維持組織というやつか。

「今までに捕まったことは?」
「……ない。むしろ、アンタは何であたしがスリだって分かった?」

むぅ、地球にいた頃にテレビで見た、なんて言えないしなぁ。買い物客を装った万引き犯に似ていたから怪しいって思ったのだが。なんて説明しようか。

「やっぱり、勘かな」
「勘でばれるんだったら、あたしも零落れたものだな」

盗賊少女から教えて欲しい技能。軽業かな?

「ねぇ、ステラ。今までどうやって逃げてきたの?」
「逃げるもなにも、今まで気付かれたことすら無かったかならなぁ」
「さ、流石プロ……」

むぅ、彼女を更生させるという意味でも私の欲求としても彼女を仲間にしたい。

「スリ以外に何か、得意なこととかないの?」
「アンタ、変わったこと聞くなぁ。ナイフの扱いなら得意だな」
「じゃあさ、それを教えるって頭に浮かべてみて」
「? よく分からないけど……教える、教えるね」
「ありがと……ちゅっ」

薄く開かれた唇に、自身のそれを押し当てて、舌まで入れようとしたのだが……

「な、なにしやがる!? あたし、は、初めてだ、だったんだぞ!?」

流石にディープはさせてくれなかったが、ナイフ捌きは少しだけ分かった気がする。

「ただいま。財布、持ち主が順次受け取りに――お姉ちゃん……」

壁際にまで退いたステラを満面の笑みで追い詰める私という光景を見て、帰ってきたレリエは大体を察したらしい。察しのいい妹にお姉ちゃん感謝だよ。

「レリエ、ステラを仲間に入れる、いい?」
「えぇ、しょうがないですね」

レリエは了承してくれた。あとは、ステラの方なのだが。

「勝手に決めんな! だぁもう! いいよ、何の目的を持った旅だか知らないけど、あたしの初めてを奪った責任は取ってもらうぞ!」

どうやら、彼女の中でも吹っ切れたようだ。まぁ、自分でスリはもう限界みたいなことも言ってたし。

「改めてよろしくね、ステラ。私はユール」
「ステラさん、私の名前はレリエです。よろしくお願いしますね」
「あぁ、ステラで構わん。世話になるぞ。ユール、レリエ」

二人目の仲間、ステラが加わった。
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