拳撃の聖女が送る人生三度目の正直

楠富 つかさ

文字の大きさ
上 下
29 / 29

029 medicinal herb 困りごと 

しおりを挟む
 翌朝、朝ごはんをいただいてから私たちは木こりの宿を後にした。ここからエヒュラ村までは歩いてだと日の高いうちに帰れるだろうといったところだ。出発してしばらく歩くと街道に出たのでひとまず少し安心する。もう道なりに進めばいずれは街にたどり着くだろう。

「魔物もいないね。まぁ、ライカの聖印のおかげだけど」
「そうだね。魔物から襲撃される心配がないのはやっぱり旅をする上での安心感がすごいよ」

 そんな話をしながら歩いていると、遠くに人影を見つけた。どうやら子供のようでふらふらと森の中に入ろうとしているのが見える。

「ちょっと追いかけてくるからここで待っててね」

 そう言って私は少し小走りでその子に近づいた。近づくとその子の様子がはっきりと分かったが……体中に青あざが出来ており、顔なんかは腫れ上がっているみたいだ。

「……どうしたの?」

 ゆっくりとしゃがんで目線を合わせて聞く。すると女の子は小さく震えだした。

「お、お母さんが……」
「うん」
「お母さんが病気で、薬がいるの……」

 女の子は今にも泣き出しそうになりながらそう言った。私はその子を抱きしめた。

「そっか……それは心配だね。でも君一人で森に入るのは危ないよ? お姉さんと一緒にお母さんのところに行ってみよう?」

 そういって肩を貸して歩くように促した。ファナとヘンリーは少し遅れてやってくる。リーナも後ろから追いついてきたが、私たちの様子にすぐに状況を理解したようだ。

「……なにか訳ありみたいね」
「うん。薬草を取りに来たみたいなんだけどこの子一人じゃ無理だよ……」
「助けてあげるの?」
「そのつもり」

 私の答えを聞いて、リーナは少し考えてから女の子に話しかけた。

「ねえあなた、お母さんのところに案内してくれる? お姉さんたちがなんとかするわ」
「う……うん!」

 本当はファナとヘンリーをエヒュラ村に送り届けてからにしたいところなんだけど、そういえばこの子の名前を聞いてなかったっけ。

「ねぇ、君の名前は?」
「わたし、ユミナ。家はあっち」

 ユミナは森の左の方向を指差す。この辺りで暮らしているとなると、おそらくは猟師の家ということかな?

「分かったわ。その前に」

 私はユミナに治癒術をかける。お母さんの病気も治癒術でなんとかできればいいのだけれど、症状が分からない以上はっきりとしたことは言えない。薬草の知識もついてきたことだし、どんな薬草かで症状も少しは分かるんじゃないかな。

「……それじゃ行きましょう。ファナ、ヘンリーも気を付けてね」

 私たちは森に入り込み、ユミナの案内で薬草を探し始めた。

「ユミナちゃん、どんな薬草を探しているの? 私も手伝いたいの」

 ファナが尋ねると、ユミナは薬草の特徴を教えてくれた。赤っぽい葉っぱでギザギザしているのだという。なんとなく紫蘇みたいだなと思いつつ、こちらで得た薬草の知識からそんな薬草があったか思い出す。

「レーゼ草かな」

 隣でリーナがぽつりと呟いた。そうだ、確かそんな薬草があった。確か解熱剤の素材だったはず。

「お母さんは熱を出しているの?」
「うん。森で転んで怪我してから、熱を出したの……」

 ……傷口から細菌に感染したとか、かな。じゃあ解熱剤だけあっても効果があまりないのかも。

「じゃあ、お母さんのところまで案内して」

 シスターとして困ってる人は見過ごせないからね。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...