17 / 29
017 Breaking dawn 光と焔のロンド
しおりを挟む
夜になり、街は昼間と一変して騒然とした様相を呈している。
魔物の群れは北部からやってくるらしい。北門へ向かうと、既に大勢の人びとが武器を構え待機していた。エヒュラ村とは大違いの装備の充実具合だ。金属の長剣を持っている人が多い。
「リーナ、あのね……」
「分かってる。分かってるよ……。ごめんね」
冒険者の代表者が集まった人たちを鼓舞する中、私とリーナはそっと手を繋いだ。
リーナを守るためとはいえ、リーナの目の前で人を殺めたことは私自身の心にも影を落とす結果になってしまった。諫めて、心を改めさせられたら……私は本物の聖女になれたのかな、って毎晩のように後悔している。
「草原の覇者を討つ時は、相手が一体だったから……皆が頑張って足止めしてくれていたら、私は安心だった。でも、今度はそんな安全な場所はないだろうから……お願い、私のこと守って?」
「もちろんだよ。……絶対、守るから。だからね、リーナも私のこと守ってよ。草原の覇者を倒す時に見たあの火炎魔法、すごく心強かったんだよ?」
繋いだ手に力を込めて、互いの鼓動を感じる。魔物達の接近を告げる鐘の音、駆け出す冒険者に遅れないよう私たちも駆け出す。
戦いが、始まった。
火球と光球が周囲を照らすが、なおも薄暗い。それでも魔物の赤くぎらつく双眸が見て取れる。圧倒的な数だ。薄気味悪いことに、死霊のような魔物も混じっている。だがそれこそ、シスターの出番だと理解する。
「リーナ、あの骨をやるよ!」
「うん! 灼熱の火球よ、焼き払え!!」
「せりゃあ!!」
リーナの魔法で敵を居着かせると、その頭部に拳を振り抜く。
オオカミのような魔獣を蹴り飛ばし、死霊の魔物は光で祓い、物理攻撃に耐性がある樹木型魔植物はリーナに焼き払ってもらう。は虫類みたいな鱗を纏った二足歩行の魔物と殴り合う。
「撃ち抜け、瞬光拳!!」
細長い顔面に一突き、他の小さな魔物を巻き込みながら吹っ飛んでいく。
「ライカ!」
リーナの声に応じてしゃがみ込む。頭上を火球が通り過ぎていく。上体が仰け反った魔物の腹部を蹴り込む。
「リーナ!」
蹴り足を引いて振り向く、その振り向きざまに指先に生み出した光球を放つ。リーナの背後にいる骸骨の魔物を霧散させる。戦場を駆け抜けながら怪我人が多い場所を探す。幸い、戦線の崩壊しているような場所はない。
自分の生命力もさほど減っていない。教会で見たほどの被害が出るようには思えないのだが……。
「出たぞぉ! 巨獣だぁ!! 山の主が現われたぞ!!」
草原の覇者の次は山の主かぁ。地響きを轟かせながら現われたのは、アルマジロみたいな生き物。暗くてはっきりとは見えない。ただ、なんとなくハリネズミのような愛らしい顔をしていそうだが……問題はその大きさ。ダンプカーのようなサイズ感、光球に照らされた光をはね返す光沢感。
とにかく見た目から分かることは、物理攻撃があまり効かなさそうだということ。そして……。
「回避ぃ!! 回避ぃい!!!」
ダンゴムシやアルマジロのように丸まって突進してくること。これが恐ろしく速い。あれにぶつかればひとたまりもないだろう。地面にぶつかったその魔物はバウンドすることなく、素早く体勢を整える。
人の海が割れるように道を開ける。それでも何人かは吹き飛ばされてしまい、近くの人が肩を貸して戦線を退く。おそらくあれを倒せば、襲撃は止むのだろう。
「やれるかな?」
「大丈夫、ライカなら!」
拳を合わせ、気合いを入れ直す。ああいった外皮の硬い生き物は腹部、下側が柔らかいと相場が決まっている。
「取り敢えず露払いをしないと」
「人が周りにいない今なら――――紅蓮の刻印よ邪を焼き祓い燃やし尽くせ! クリムゾンサークル!!」
リーナを中心に炎の魔法陣が浮かび上がる。私は空中に足場を形成して留まる。
周囲の魔物をあらかた討伐し、森の主を見据える。
「燃えろ!!」
森の主目がけてリーナが火球を放つが、さしたる効き目は見込めない。
冒険者たちも剣で斬りつけるが、鎧のような外骨格に防がれてしまう。おそらくはハンマーのような武器の方が効率的なのだろうが、そういった武器を持っている人はあまり見かけない。
普通の冒険者は重いポールウェポンを持ち歩いたりしないか。そう思うと鞘を吊して簡単に持ち運べる刀剣って、随分と便利なんだなぁ。そんな関係ないことを思いながら、山の主を殴りつける。
「かったいなぁもう!! 砕破衝光拳!!」
脳天めがけて拳を振り下ろし、衝撃波を叩き込む技を繰り出す。対人戦なら内蔵を揺さぶって戦闘不能にしうる技なんだけど……身体を丸めることで防御する。やはり下から攻めなくてはならないか。爆発とかで打ち上げられないかな……?
「リーナ!」
尻尾の先にはコブのようなものがあり、それを振り回す山の主。そうして近場の人たちを吹き飛ばすと、今度は氷のブレスを吐き出す。まさかの非物理攻撃まで繰り出してくるとは。草原の覇者よりずっと強そうに見える。
スローライフを送るはずが、どうしてこんなに事件に巻き込まれなければならないのか。不満たらたらの感情を押し殺しながら、一度飛び退いて山の主との間合いを取りつつリーナの横に立つ。それから、設置型の魔法がないか尋ねる。
「や、やってみる!」
「ここにお願いね!」
それだけ言ってから、再び主と対峙する。足が短いから滑り込んで拳を叩き込むのも難しいし、そもそも胴体で潰されるのが関の山だろう。
突進してくる生き物は鼻先が弱いイメージがあるが、丸まって防御してくるとなると……どうしたものか。
他の冒険者たちを見てみると、尻尾を切り落とす作戦のようだ。確かに突進も脅威だが、尻尾の一撃もまるでメイスの一撃のような重さに見える。それに、もしかしたらあのコブが丸まったときのバランス感覚の中枢だったら、楽観的だけどあれを無力化することでかなり戦いやすくなるのかもしれない。とはいえ、私は私に出来ることを為すまで!
「おい嬢ちゃん、さっきから何考えてんだ?」
厳ついおっさんの一人、声を掛けられる。私の答えは端的に。
「あいつをひっくり返すの!」
そう言いながら拳を突き上げるがどの技を繰り出しても、そう易々とはひっくり返らない。魔法力の減少を体感しながら、リーナの方に目配せする。首を横に振るリーナ。まだか……。そもそも人に振っておいて、自分で出来ないか試してみるか。
とはいえ光属性の魔法力と爆発というイメージの相性が悪い。いっそ足下の地面を殴りつけて衝撃波を発生させる手法も試みるが……。
「っくぅ、仰け反るくらいか……」
身体が大きい分、鼻先に衝撃を与えた程度ではひっくり返りはしないか。とはいえ攻撃の手が止まるから、時間は稼げる。
再びリーナに目配せする。僅かに頷いたように見えたけれど、まだいささかの不安があるということだろうか。
「物は試しってね」
「ライカ!」
地面に設置された火球、あれをアイツに踏ませれば地雷のように爆発するはず。そこに上手く誘導できるかどうか。爆風の範囲が分からないから、なるたけ他の人を遠ざけながら攻撃をバックステップで回避しながら誘導する。
飛び跳ねて突進してきたのを回避した私の目の前で、山の主が体勢を整える。その刹那、リーナの声が夜の草原に響く。
「いっけぇ!!」
炸裂する火球、その爆風を受けながらリーナの側まで下がる。一方、山の主は少し浮き上がる程度でひっくり返りはしない。さすがに重量級ということだろうか。
「リーナ、あれもう何個か出せない?」
「ちょっと厳しいかも!」
その答え方が少し可愛くて、表情が緩むがそんな場合じゃないと引き締める。あの地雷風魔法を複数展開できないとなると、あの魔物をひっくり返すには私の力に掛かっているということか。
私が次の狙いを眼球に定めて回り込むように湾曲して飛び出すと、そんな私の頭上を通り越して山の主は一直線にリーナを狙った。
「リーナ!!!」
足下に力を全力で注ぎ込み力場を形成し急ターンしながら、まさに丸まった瞬間の魔物を全力で蹴り飛ばす。
力が前方へ向いていることもあって、側面からの衝撃に山の主は空中から落下した。他の冒険者さんたちが巻き込まれかけたけど、なんとか回避してくれた。とにかく、横転した今がチャンス!
「うぉお! 放て、瞬光拳!!」
気力を振り絞って拳を打ち込むが、弾力ある腹部に拳がめり込むような感覚で、効いているのか心配になる。
完全に仰向けになった山の主だが、じたばたと暴れている様子から沈黙したわけではないようだ。だが……魔法力が底を尽きかけていることが体感的に分かる。ステータスウィンドウを開く必要すら感じない程に。
だがここでトドメを刺さないと……また起き上がってしまったら……。
「ライカ!」
振り向くと、リーナが今までで一番の火球を形成していた。髪が火炎魔法の力を湛え、スカーフが焼け落ちる。緋色に染まった髪がふわりと風にたなびく。
目配せして、その火球を高く放り上げる。残り僅かな力を振り絞り、跳び上がる。拳を最低限保護して、山の主の無防備な腹部に火球を押し込む。単純な考えかもしれないが、氷のブレスを吐くくらいだ、きっと火炎には弱いはず。
「グォォオオ!!」
野山にこだまする山の主の雄叫び。完全に力が抜け、ようやく絶命したことを知る。山の主の腹部から飛び降り、リーナの胸に身体を預ける。
「やったね……」
「私のこと、守ってくれてありがとう……ライカ。さっきも、森でも……私のこと、守ってくれて、本当にありがとう」
「私こそ、リーナのおかげで――あ、見て!」
――――夜明けだ。
魔物の群れは北部からやってくるらしい。北門へ向かうと、既に大勢の人びとが武器を構え待機していた。エヒュラ村とは大違いの装備の充実具合だ。金属の長剣を持っている人が多い。
「リーナ、あのね……」
「分かってる。分かってるよ……。ごめんね」
冒険者の代表者が集まった人たちを鼓舞する中、私とリーナはそっと手を繋いだ。
リーナを守るためとはいえ、リーナの目の前で人を殺めたことは私自身の心にも影を落とす結果になってしまった。諫めて、心を改めさせられたら……私は本物の聖女になれたのかな、って毎晩のように後悔している。
「草原の覇者を討つ時は、相手が一体だったから……皆が頑張って足止めしてくれていたら、私は安心だった。でも、今度はそんな安全な場所はないだろうから……お願い、私のこと守って?」
「もちろんだよ。……絶対、守るから。だからね、リーナも私のこと守ってよ。草原の覇者を倒す時に見たあの火炎魔法、すごく心強かったんだよ?」
繋いだ手に力を込めて、互いの鼓動を感じる。魔物達の接近を告げる鐘の音、駆け出す冒険者に遅れないよう私たちも駆け出す。
戦いが、始まった。
火球と光球が周囲を照らすが、なおも薄暗い。それでも魔物の赤くぎらつく双眸が見て取れる。圧倒的な数だ。薄気味悪いことに、死霊のような魔物も混じっている。だがそれこそ、シスターの出番だと理解する。
「リーナ、あの骨をやるよ!」
「うん! 灼熱の火球よ、焼き払え!!」
「せりゃあ!!」
リーナの魔法で敵を居着かせると、その頭部に拳を振り抜く。
オオカミのような魔獣を蹴り飛ばし、死霊の魔物は光で祓い、物理攻撃に耐性がある樹木型魔植物はリーナに焼き払ってもらう。は虫類みたいな鱗を纏った二足歩行の魔物と殴り合う。
「撃ち抜け、瞬光拳!!」
細長い顔面に一突き、他の小さな魔物を巻き込みながら吹っ飛んでいく。
「ライカ!」
リーナの声に応じてしゃがみ込む。頭上を火球が通り過ぎていく。上体が仰け反った魔物の腹部を蹴り込む。
「リーナ!」
蹴り足を引いて振り向く、その振り向きざまに指先に生み出した光球を放つ。リーナの背後にいる骸骨の魔物を霧散させる。戦場を駆け抜けながら怪我人が多い場所を探す。幸い、戦線の崩壊しているような場所はない。
自分の生命力もさほど減っていない。教会で見たほどの被害が出るようには思えないのだが……。
「出たぞぉ! 巨獣だぁ!! 山の主が現われたぞ!!」
草原の覇者の次は山の主かぁ。地響きを轟かせながら現われたのは、アルマジロみたいな生き物。暗くてはっきりとは見えない。ただ、なんとなくハリネズミのような愛らしい顔をしていそうだが……問題はその大きさ。ダンプカーのようなサイズ感、光球に照らされた光をはね返す光沢感。
とにかく見た目から分かることは、物理攻撃があまり効かなさそうだということ。そして……。
「回避ぃ!! 回避ぃい!!!」
ダンゴムシやアルマジロのように丸まって突進してくること。これが恐ろしく速い。あれにぶつかればひとたまりもないだろう。地面にぶつかったその魔物はバウンドすることなく、素早く体勢を整える。
人の海が割れるように道を開ける。それでも何人かは吹き飛ばされてしまい、近くの人が肩を貸して戦線を退く。おそらくあれを倒せば、襲撃は止むのだろう。
「やれるかな?」
「大丈夫、ライカなら!」
拳を合わせ、気合いを入れ直す。ああいった外皮の硬い生き物は腹部、下側が柔らかいと相場が決まっている。
「取り敢えず露払いをしないと」
「人が周りにいない今なら――――紅蓮の刻印よ邪を焼き祓い燃やし尽くせ! クリムゾンサークル!!」
リーナを中心に炎の魔法陣が浮かび上がる。私は空中に足場を形成して留まる。
周囲の魔物をあらかた討伐し、森の主を見据える。
「燃えろ!!」
森の主目がけてリーナが火球を放つが、さしたる効き目は見込めない。
冒険者たちも剣で斬りつけるが、鎧のような外骨格に防がれてしまう。おそらくはハンマーのような武器の方が効率的なのだろうが、そういった武器を持っている人はあまり見かけない。
普通の冒険者は重いポールウェポンを持ち歩いたりしないか。そう思うと鞘を吊して簡単に持ち運べる刀剣って、随分と便利なんだなぁ。そんな関係ないことを思いながら、山の主を殴りつける。
「かったいなぁもう!! 砕破衝光拳!!」
脳天めがけて拳を振り下ろし、衝撃波を叩き込む技を繰り出す。対人戦なら内蔵を揺さぶって戦闘不能にしうる技なんだけど……身体を丸めることで防御する。やはり下から攻めなくてはならないか。爆発とかで打ち上げられないかな……?
「リーナ!」
尻尾の先にはコブのようなものがあり、それを振り回す山の主。そうして近場の人たちを吹き飛ばすと、今度は氷のブレスを吐き出す。まさかの非物理攻撃まで繰り出してくるとは。草原の覇者よりずっと強そうに見える。
スローライフを送るはずが、どうしてこんなに事件に巻き込まれなければならないのか。不満たらたらの感情を押し殺しながら、一度飛び退いて山の主との間合いを取りつつリーナの横に立つ。それから、設置型の魔法がないか尋ねる。
「や、やってみる!」
「ここにお願いね!」
それだけ言ってから、再び主と対峙する。足が短いから滑り込んで拳を叩き込むのも難しいし、そもそも胴体で潰されるのが関の山だろう。
突進してくる生き物は鼻先が弱いイメージがあるが、丸まって防御してくるとなると……どうしたものか。
他の冒険者たちを見てみると、尻尾を切り落とす作戦のようだ。確かに突進も脅威だが、尻尾の一撃もまるでメイスの一撃のような重さに見える。それに、もしかしたらあのコブが丸まったときのバランス感覚の中枢だったら、楽観的だけどあれを無力化することでかなり戦いやすくなるのかもしれない。とはいえ、私は私に出来ることを為すまで!
「おい嬢ちゃん、さっきから何考えてんだ?」
厳ついおっさんの一人、声を掛けられる。私の答えは端的に。
「あいつをひっくり返すの!」
そう言いながら拳を突き上げるがどの技を繰り出しても、そう易々とはひっくり返らない。魔法力の減少を体感しながら、リーナの方に目配せする。首を横に振るリーナ。まだか……。そもそも人に振っておいて、自分で出来ないか試してみるか。
とはいえ光属性の魔法力と爆発というイメージの相性が悪い。いっそ足下の地面を殴りつけて衝撃波を発生させる手法も試みるが……。
「っくぅ、仰け反るくらいか……」
身体が大きい分、鼻先に衝撃を与えた程度ではひっくり返りはしないか。とはいえ攻撃の手が止まるから、時間は稼げる。
再びリーナに目配せする。僅かに頷いたように見えたけれど、まだいささかの不安があるということだろうか。
「物は試しってね」
「ライカ!」
地面に設置された火球、あれをアイツに踏ませれば地雷のように爆発するはず。そこに上手く誘導できるかどうか。爆風の範囲が分からないから、なるたけ他の人を遠ざけながら攻撃をバックステップで回避しながら誘導する。
飛び跳ねて突進してきたのを回避した私の目の前で、山の主が体勢を整える。その刹那、リーナの声が夜の草原に響く。
「いっけぇ!!」
炸裂する火球、その爆風を受けながらリーナの側まで下がる。一方、山の主は少し浮き上がる程度でひっくり返りはしない。さすがに重量級ということだろうか。
「リーナ、あれもう何個か出せない?」
「ちょっと厳しいかも!」
その答え方が少し可愛くて、表情が緩むがそんな場合じゃないと引き締める。あの地雷風魔法を複数展開できないとなると、あの魔物をひっくり返すには私の力に掛かっているということか。
私が次の狙いを眼球に定めて回り込むように湾曲して飛び出すと、そんな私の頭上を通り越して山の主は一直線にリーナを狙った。
「リーナ!!!」
足下に力を全力で注ぎ込み力場を形成し急ターンしながら、まさに丸まった瞬間の魔物を全力で蹴り飛ばす。
力が前方へ向いていることもあって、側面からの衝撃に山の主は空中から落下した。他の冒険者さんたちが巻き込まれかけたけど、なんとか回避してくれた。とにかく、横転した今がチャンス!
「うぉお! 放て、瞬光拳!!」
気力を振り絞って拳を打ち込むが、弾力ある腹部に拳がめり込むような感覚で、効いているのか心配になる。
完全に仰向けになった山の主だが、じたばたと暴れている様子から沈黙したわけではないようだ。だが……魔法力が底を尽きかけていることが体感的に分かる。ステータスウィンドウを開く必要すら感じない程に。
だがここでトドメを刺さないと……また起き上がってしまったら……。
「ライカ!」
振り向くと、リーナが今までで一番の火球を形成していた。髪が火炎魔法の力を湛え、スカーフが焼け落ちる。緋色に染まった髪がふわりと風にたなびく。
目配せして、その火球を高く放り上げる。残り僅かな力を振り絞り、跳び上がる。拳を最低限保護して、山の主の無防備な腹部に火球を押し込む。単純な考えかもしれないが、氷のブレスを吐くくらいだ、きっと火炎には弱いはず。
「グォォオオ!!」
野山にこだまする山の主の雄叫び。完全に力が抜け、ようやく絶命したことを知る。山の主の腹部から飛び降り、リーナの胸に身体を預ける。
「やったね……」
「私のこと、守ってくれてありがとう……ライカ。さっきも、森でも……私のこと、守ってくれて、本当にありがとう」
「私こそ、リーナのおかげで――あ、見て!」
――――夜明けだ。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
神様のミスで女に転生したようです
結城はる
ファンタジー
34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。
いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。
目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。
美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい
死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。
気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。
ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。
え……。
神様、私女になってるんですけどーーーー!!!
小説家になろうでも掲載しています。
URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」
異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ
トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!?
自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。
果たして雅は独りで生きていけるのか!?
実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる