上 下
10 / 12

#10 実践練習

しおりを挟む
 訓練施設のモニターで部屋を予約し、更衣室でジャージに着替える。一見しただけじゃただのジャージに見えるけれど、魔導産業技術によって作られた高性能ジャージなのだ。デザインは少しダサいが、耐刃・耐魔性能があり、それでいて着用者の行動を阻害しない軽量さと、かなり幅広い分野で導入されている素材だ。

「じゃあさっそく準備運動から始めようか」

 魔導士の戦い方はただ魔法に頼るだけじゃない。魔法の杖代わりにもなる警棒を用いた近接戦闘も行う。この技能だって新人戦で評価される項目の一つだ。当然、魔法構築技術の方が評価の割合は高いのだけれど。バスケットコートくらいの広さがある訓練場でまずはストレッチを行う。

「綾乃ちゃん、ちょっと身体固いんじゃない?」
「うーん、寿奈が柔らかいだけだと思うけど?」

 開脚して前に身体を倒す寿奈、大きな胸が床で潰れて目の毒だ。足も180度近く開いていて、むっちりとした太ももがまぶしい。
 一方の私も開脚なら120度くらいまでは開くし、肘だって床にべったりつけられる。柔軟性で言えばまぁ普通だ。

「少しだけ、もらってくね」

 屈伸や腰を回すなど一般的な準備運動を終えたら、寿奈と少しだけキスを交わす。身体強化に用いる魔力すら私は不十分だから、こうして寿奈からもらわないと戦うことすらままならない。

「身体強化、できるにはできるんだけど……やった後すっごく疲れたり筋肉痛になったりするんだよね……」

 身体強化は生来の魔力を身体中に巡らせ筋力や瞬発力を高める魔導士の初歩中の初歩の技術、特殊な術式とかは一切なく魔力をコントロールして用いる技法だから、魔力量の多い寿奈の場合どこかに無理があるか、それともムラがあるかで筋肉痛や疲労につながっているのだろう。このあたりも訓練しなければ、戦闘継続能力にかかわってくる。
 そんなことを考えつつも互いに魔導警棒を構えて相対する。

「いつでもいいよ」

 いつもはふわふわとした寿奈の構えに隙はない。護身術はみっちりやったという話は本当らしい。
 右手に警棒を構えながら、左手の指先に火球を灯す。

「拡散!!」

 すぼめた指先を広げるように、五つの火球をばらばらに飛ばす。寿奈の視線が火球を追うのと同時に、私も警棒を構えて飛び出す。

「収束!!」

 警棒を上段から振り下ろしながら、火球を四方から収束させ寿奈を狙う。

「それ、えい!!」

 そんな私に対して寿奈は前に転がって火球を回避しつつ、私の左足を払う。鋭い足払いで私が片膝をつくと、ガラ空きの左肩めがけて警棒を振るう。咄嗟に左手に持ち替えた警棒で受け止めるが、体勢が悪く威力を殺しきれない。

「――やぁ!!!」

 立ち上がれずにいる私に寿奈は蹴りを繰り出し、私は無様に転がるよりほかなかった。立ち上がりなんとか体勢を整え、間合いを切る。呼吸を鎮め、左手に集めた風の魔力で警棒に風の刃を纏わせる。

「寿奈は足癖が悪いのね」
「これでも昔はお転婆でね」

 寿奈が踏み込む。ムラのある魔力強化による恐ろしいほどの加速、おそらく警棒は牽制で本命は掌底、しかも属性が発現していないほど未熟で……しかし純粋な魔力の塊をぶつけてくるつもりだ。
 そんなものを受け止めきれるほど、私の魔力強化は強靭じゃない。ならば、その前に決着をつけるしかない。受け取った魔力の残り全てに、私が生来持つわずかな魔力も上乗せして、警棒にまとわせた風を強めていく。風が嵐になるかのように。

「唸れ、ストームセイバー!!」

 振りぬいた一閃、その軌跡に翠緑の魔力が輝く。吹き荒ぶ風に寿奈どころか私まで飛ばされる。

「う、ぐ……」
「……あいたた、うへぇ、負けちゃった」

 尻もちをついて軽くうめくと、寿奈は大の字になって転がっていた。
 ……こうして実践練習をするまでは、寿奈を魔力タンクにして私が強力な魔法を使っていればいいと思っていたけれど、私は間違っていたかもしれない。

「寿奈」

 仰向けの彼女に右手を差し出しながら私は――

「二人で、勝ちを取りに行こうか」
「うん!!」

 決意を新たに寿奈の手を握り返した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

3年振りに帰ってきた地元で幼馴染が女の子とエッチしていた

ねんごろ
恋愛
3年ぶりに帰ってきた地元は、何かが違っていた。 俺が変わったのか…… 地元が変わったのか…… 主人公は倒錯した日常を過ごすことになる。 ※他Web小説サイトで連載していた作品です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

君は今日から美少女だ

恋愛
高校一年生の恵也は友人たちと過ごす時間がずっと続くと思っていた。しかし日常は一瞬にして恵也の考えもしない形で変わることになった。女性になってしまった恵也は戸惑いながらもそのまま過ごすと覚悟を決める。しかしその覚悟の裏で友人たちの今までにない側面が見えてきて……

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

【完結】【R18百合】女子寮ルームメイトに夜な夜なおっぱいを吸われています。

千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。 風月学園女子寮。 私――舞鶴ミサが夜中に目を覚ますと、ルームメイトの藤咲ひなたが私の胸を…! R-18ですが、いわゆる本番行為はなく、ひたすらおっぱいばかり攻めるガールズラブ小説です。 おすすめする人 ・百合/GL/ガールズラブが好きな人 ・ひたすらおっぱいを攻める描写が好きな人 ・起きないように寝込みを襲うドキドキが好きな人 ※タイトル画像はAI生成ですが、キャラクターデザインのイメージは合っています。 ※私の小説に関しては誤字等あったら指摘してもらえると嬉しいです。(他の方の場合はわからないですが)

魔法適性ゼロと無能認定済みのわたしですが、『可視の魔眼』で最強の魔法少女を目指します!~妹と御三家令嬢がわたしを放そうとしない件について~

白藍まこと
ファンタジー
わたし、エメ・フラヴィニー15歳はとある理由をきっかけに魔法士を目指すことに。 最高峰と謳われるアルマン魔法学園に入学しましたが、成績は何とビリ。 しかも、魔法適性ゼロで無能呼ばわりされる始末です……。 競争意識の高いクラスでは馴染めず、早々にぼっちに。 それでも負けじと努力を続け、魔力を見通す『可視の魔眼』の力も相まって徐々に皆に認められていきます。 あれ、でも気付けば女の子がわたしの周りを囲むようになっているのは気のせいですか……? ※他サイトでも掲載中です。

処理中です...