その口づけに魔法をかけて

楠富 つかさ

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#2 二人の距離

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「あ、綾乃ちゃん。さっきはごめんなさい……」

 徒歩で最寄り駅まで行き、そこからはモノレールでの移動となる。そんな、学生の脚であるモノレールを待っていると、寿奈が謝罪を口にした。

「さっきって、ぶつかったことならもう謝ったじゃない」
「それじゃなくて……その、キスしちゃったこと……」

 頬を染め、口元に手をあてながら恥ずかしげに呟く寿奈。可愛い。

「気にしなくていいわよ。なんなら、もう一度する?」

 あの時感じた熱の正体を確認したい。あれが本当に魔力だとしたら……。

「はぅぅ……は、恥ずかしいからダメだよぉ」

 魔力は血に宿る性質がある。唇のすぐ下を血管が通っているから……。ひょっとして……。

「寿奈は、あれが初めてのキス?」
「え!? あ、うん。初めてだった」
「私、一瞬のことで何が何だかって感じだったから、感想を教えてよ」
「えぇ! か、感想って……そう、柔らかかった。綾乃ちゃんの唇、すっごく柔らかかった。あと、お花みたいな匂いしたかも。でね、した後は……やっぱりどきどきしたかなぁ」

 ……なんだこの可愛い生き物は。恋する乙女みたいな顔しちゃって。こういう女の子だったら、いいかもしれないな。

「ねぇ、寿奈。何組?」

 魔導高校は成績に応じてクラスを編成する。完全実力主義のため、100人の新入生が実力順に四組二十五番まで振り分けられる。

「一年四組……二十五番です。……入学者の最下位です」

 ……しばし、重い沈黙が垂れ込めた。私は再び、自分の生徒手帳を取り出す。今年は定員割れを起こしているものとばっかり思っていたんだ。

「私は、四組の二十四番。九十九位よ……。えっと、その、席、近いね……」

 沈黙がより重くなったように感じられた。

「も、モノレール、来たね」
「う、うん。乗ろう」

 モノレールの中はさほど混雑していなかった。おそらく、次が最も混む時間帯なのだろう。寿奈と二人、並んで座る。

「ねぇ寿奈、コンビを組みましょう?」
「コンビ? あ、学内戦の二人組みのことね!」

 二年生に進級した時のクラスは、一年次のランキングを元に決定される。普段の実技の授業や学科テストの順位、そして大きなファクターの一つが定期的に行われる学内戦だ。そしてもう一つは九校全てが一堂に会する全校戦。どちらも、魔法によるダメージを域外に持ち越さない特殊なフィールド内で繰り広げられる。そこでの戦闘は、必ずしも個人の戦いではない。コンビ、トリオ、グループ。むしろ、集団戦闘を体験することは学校から推奨されている。魔導犯罪対策組織に参加する際、複数人から構成されるチームに配属されるからだ。

「でも、順位の低い二人が組んでも……」
「その辺りは放課後にでも話すわ。そうね、私の部屋でね」
「分かった。……あのさ、今朝の火球、とても大きかった。私、あんなサイズの火球を構築するなんて出来ないよ。でも、九十九位なの?」

 私は押し黙ることしかできなかった。

「ひょっとしたら私だけ、とんでもなく弱いんじゃないの? 上の九十九人が実力伯仲しているのに、私だけ……」
「そんなことないわ。私も、本当はとっても弱いの。それも、後で話すね」
「……うん。綾乃ちゃんがそう言うなら」

 通っていれば必ず露見する。私の魔力が極微量であること……間宮の人間であること。考え込む私を余所に、モノレールは学園前に到着していた。

「行こう、綾乃ちゃん!」
「寿奈、これから宜しく」
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