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#1 出会いの朝
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私は昔から落ち零れだと言われてきた。魔法を扱う力によって人としての評価が左右されるこの時分において、魔力総量の低い私はどこまでも評価の低い人間だった。たとえどんなに高度な魔法に精通していようと、実際に発動できなければ意味がない。どんなに術式を理解しても、自分で構築できなければ意味がない。そんな私が三高―国立第三魔導高校―に入学できたのは家の力と言っても過言ではないだろう。間宮の家の長女……それが私の唯一の価値なのだろう。名家の子女といえば響きはいいが、内実は……。
「魔力さえあれば……」
力のない人間は淘汰される。私にはまだ研究者という道が残されているかもしれない。だが、間宮の家がそれに対して何て言うだろうか。
「ち~こ~く~す――あ!」
高校生になった私に言いつけられた一人暮らし。勘当と同じ意味を持っていた。そんな私に宛がわれたマンションの一室、そこから出て階段を下っていた私の耳に届いた大きな声。思わず振り向いたその一瞬が私の人生を大きく変えた。
――どん!
飛ぶように階段を駆け下りていた彼女とぶつかった私は、勢いに流されて踊り場まで共に落ちた。私に覆いかぶさるように倒れこんだ彼女に、私は目を奪われた。大きな瞳は琥珀のような輝きを持ち、縁取る睫毛は長い。肌も色白ではあるが、私のような不健康さはなく活力が見て取れる。そんな、美少女という言葉では足りない容姿を持つ彼女の髪が私の頬に触れている。瞳の色と近い明るい髪色、鼻をくすぐるのはふわりと甘いミルクのような香り。全身に触れる温もりは彼女のものだろうか。特に胸元には強く温もりを感じる。目線だけを動かすと、そこには私のものとは比べ物にならない豊かな果実があった。
「――んぐっ」
私の頭のすぐ隣にあった彼女の細腕。自分自身を支えるにも限界があり、肘が曲がる。鼻先がぶつかる位に近かった彼女の顔が、さらに近づき……
「――ちゅ」
唇に柔らかなものが触れた。彼女が頭を少し動かしたからか、鼻と鼻はぶつからず……唇同士がぶつかってしまったらしい。
「はわわ! すみません!」
慌てて横に転がって体勢を整える可愛らしい少女。よくよく見れば、私と同じ三高の制服を着ているのではないか。校章の色からして、私と同じ一年生。あと、彼女の下着の色はピンク。そこまで把握した私だが、ふと唇に触れてみると熱を持っていることに気付いた。一瞬、彼女の歯か何かが当たって出血でもしたのかと思ったが、どう考えても違う。指先に血が付着していないことを確認すると、その熱は全身をめぐった。体感したことの無い感覚。……恋、なのだろうか。いや、まさか。
「だ、大丈夫ですか?」
先ほどの彼女が心配そうな瞳をこちらに向けている。もしかして……
「あ! 怒ってますよね。すみません、すみません!」
……やっぱり。今、私は指先にバスケットボール大の火球を生み出した。強力な魔法を行使したのだ。この、私が。
「怒ってないよ。私は綾乃。君は?」
「私は近衛寿奈と申します」
「寿奈はさっき、遅刻がどうとか言っていたけど、まだ余裕のある時間だよ?」
私が驚いて振り向いた最大の理由。時刻はまだ7時半というのに、遅刻すると寿奈は言っていた。
「ほえ? あ! 遅刻しないために時計をかなり早めたんだった!」
「君は……。天然なんだね。一緒に行きましょう? せっかく登校前に同級生に出会えたし」
「あ、新入生なんですね。私も嬉しいです。あ、綾乃ちゃんって呼んでいいですか?」
「もちろん。さぁ、遅刻しないように行きましょう」
「はい!」
「魔力さえあれば……」
力のない人間は淘汰される。私にはまだ研究者という道が残されているかもしれない。だが、間宮の家がそれに対して何て言うだろうか。
「ち~こ~く~す――あ!」
高校生になった私に言いつけられた一人暮らし。勘当と同じ意味を持っていた。そんな私に宛がわれたマンションの一室、そこから出て階段を下っていた私の耳に届いた大きな声。思わず振り向いたその一瞬が私の人生を大きく変えた。
――どん!
飛ぶように階段を駆け下りていた彼女とぶつかった私は、勢いに流されて踊り場まで共に落ちた。私に覆いかぶさるように倒れこんだ彼女に、私は目を奪われた。大きな瞳は琥珀のような輝きを持ち、縁取る睫毛は長い。肌も色白ではあるが、私のような不健康さはなく活力が見て取れる。そんな、美少女という言葉では足りない容姿を持つ彼女の髪が私の頬に触れている。瞳の色と近い明るい髪色、鼻をくすぐるのはふわりと甘いミルクのような香り。全身に触れる温もりは彼女のものだろうか。特に胸元には強く温もりを感じる。目線だけを動かすと、そこには私のものとは比べ物にならない豊かな果実があった。
「――んぐっ」
私の頭のすぐ隣にあった彼女の細腕。自分自身を支えるにも限界があり、肘が曲がる。鼻先がぶつかる位に近かった彼女の顔が、さらに近づき……
「――ちゅ」
唇に柔らかなものが触れた。彼女が頭を少し動かしたからか、鼻と鼻はぶつからず……唇同士がぶつかってしまったらしい。
「はわわ! すみません!」
慌てて横に転がって体勢を整える可愛らしい少女。よくよく見れば、私と同じ三高の制服を着ているのではないか。校章の色からして、私と同じ一年生。あと、彼女の下着の色はピンク。そこまで把握した私だが、ふと唇に触れてみると熱を持っていることに気付いた。一瞬、彼女の歯か何かが当たって出血でもしたのかと思ったが、どう考えても違う。指先に血が付着していないことを確認すると、その熱は全身をめぐった。体感したことの無い感覚。……恋、なのだろうか。いや、まさか。
「だ、大丈夫ですか?」
先ほどの彼女が心配そうな瞳をこちらに向けている。もしかして……
「あ! 怒ってますよね。すみません、すみません!」
……やっぱり。今、私は指先にバスケットボール大の火球を生み出した。強力な魔法を行使したのだ。この、私が。
「怒ってないよ。私は綾乃。君は?」
「私は近衛寿奈と申します」
「寿奈はさっき、遅刻がどうとか言っていたけど、まだ余裕のある時間だよ?」
私が驚いて振り向いた最大の理由。時刻はまだ7時半というのに、遅刻すると寿奈は言っていた。
「ほえ? あ! 遅刻しないために時計をかなり早めたんだった!」
「君は……。天然なんだね。一緒に行きましょう? せっかく登校前に同級生に出会えたし」
「あ、新入生なんですね。私も嬉しいです。あ、綾乃ちゃんって呼んでいいですか?」
「もちろん。さぁ、遅刻しないように行きましょう」
「はい!」
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