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サイドストーリー みんあや編
第5話 新入生研修
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四月の末頃になると、わたしたち一年生は新入生研修……有り体に言えば林間学校に参加することになっている。班は出席番号順の縦一列で、わたし、綾ちゃん、ヒナッチ、ユウちゃんそして本条千歳ちゃん。千歳ちゃんとも四月の中頃から一緒にお昼を食べるようになって、すっかり仲良しの班で林間学校へ行けてすごく楽しみだ。
楽しみ……だったんだけどなあ。
「近いぃ」
友達との遠出って、特別な楽しみがあると思うんだけど……星鍵が所有する研修所はわたしや綾ちゃんの家から近い場所で、何なら学校より近い場所にあった。班の他の子たちはけっこう遠かったみたいだけれど。
「各自、荷物を割り振られた部屋に置き次第、広場に集合すること。開始式を執り行いますからね!」
バス酔いから解放されて、ややテンションの高い石川先生の号令のもと、動き出す四組一同。わたしも綾ちゃんもバス酔いとは無縁だから、つらさが分からないけれど大変そうだ。部屋へ荷物を置きに行くと、その広さに綾ちゃんが驚いていた。
初日のメインイベントは学年主任の黒瀬先生の苗字にちなんで開催される黒瀬杯だ。種目は王様ドッジで、出席番号の奇数偶数でチーム分けをしたから、わたしは綾ちゃんと離ればなれになってしまった。
「頑張ろうね、明音っち」
「おっけーヒナッチ! 頑張ろう!!」
でも、この班分けのおかげでヒナッチとも打ち解けられたし、他の班の日下部しおりちゃんとも仲良くなれた。ドッジボールではヒナッチが大活躍で、最終戦までまさかの全勝。
「雛田さんって凄いね。支倉さんと同じ班でしょう?」
「そうそう」
ヒナッチが縦横無尽の活躍をするため、他のメンバーたちは少し手持ち無沙汰気味で、ついつい話し込んでしまう。ちょっと不真面目だけど、楽しい時間が過ぎていった。
「いくよ悠希! 君のハートを狙い撃ち! って、取られちゃった!」
最終戦は四組同士の対決。宣言通り、ヒナッチがユウちゃんめがけてボールを投げる。それをキャッチしたユウちゃんが、ヒナッチの足下へボールを放る。
「あだ!」
「はい、試合終了!」
「悔いは無い!」
黒瀬杯が終わり、試合結果の集計が行われる。表彰で優勝した四組を代表してクラス委員の森末さんが賞状を受け取る。その後は体育館の掃除。それが終わると、一組からお風呂の時間。なんだけど……。
「えぇ、それから。体調の関係で入浴できない生徒はシャワー室があるので、会の終了後、一組と二組の者から養護教諭の霜野先生に申し出なさい。では、解散!」
「麻琴?」
ヒナッチがしょんぼりした様子になり、ユウちゃんが声をかける。ひょっとして……?
「あたし、生理きてるから……悠希と一緒にお風呂入れない……。ショックすぎる」
「そんなことで落ち込まないでよ。まったく……」
「むぅ……」
むくれるヒナッチの背中をぽんぽんとたたいてあげる。せっかく皆で入れると思ったのに、やっぱり寂しいよね。
「ヒナッチ。大丈夫だよ、わたしもお風呂入れないから」
「そっか。明音っちもか。シャワーの時は一緒に行こうか」
ヒナッチと一緒に先に部屋へ戻ると、ヒナッチがバッグからトランプを取り出した。
「いいね! ばば抜きしたい」
「おっけ。提案してみよっか。悠希のやつ変なところで真面目だからなぁ。遊んでくれるやら」
なんて心配していたけれど、ユウちゃんはヒナッチにお願いされたらあっさりと折れた。三十分だけばば抜きして遊んでいたら、森末さんが入浴の時間をお知らせにきてくれた。わたしとヒナッチはシャワー室に行く。
「あ、和紗ちゃん。そっか、三組だもんね」
シャワー室へ向かうと、吹奏楽部で一緒の和紗ちゃんの姿もあった。手早く服を脱いでシャワーブースへ入る。
「お風呂入りたかったね」
隣のブースに入った和紗ちゃんに声をかけられる。研修所の場所は山間にあるし、ちょっと疲れちゃったからお風呂にゆったり浸かってのんびりしたかったなぁとは思う。
「シャワーだけじゃ冷えちゃうよねぇ」
身体を洗い終え、泡を流したらもう出て行くしかない。慣れているとはいえちょっと寂しい。身体の水気を拭いて、髪もドライヤーで乾かす。ブレーカーの都合で、部屋でのドライヤー使用は認められていない。一緒にお風呂に入った時は、いつも綾ちゃんが乾かしてくれるから、なおさら寂しく感じる。
「明音っち、そろそろ部屋に戻れるか?」
「うん、今行くよ~」
部屋に戻ると、お風呂に行った三人はまだ戻っていなかった。それからヒナッチとスピードをひたすらやっていたら、やっと綾ちゃんたちが戻ってきた。それから五組、六組がお風呂に入っている時間を使ってトランプで遊んだ。それから夕食を済ませ、明日の予定を確認したり、今日の感想をしおりに書いたりしているうちに眠くなってきて、お布団を敷いてすぐに寝てしまった。
二日目のメインイベントはオリエンテーリングと飯盒炊さんだ。オリエンテーリングの時間はしりとりや連想ゲームで楽しみながら歩いてまわった。天気は快晴で、木漏れ日を浴びながらのオリエンテーリングは、森林浴みたいで気持ちがすっきりとした。少し汗もかいたけれど、とにかく楽しかった。
飯盒炊さんではカレーの調理に取りかかった。わたしはあまり力になれなかったけれど、皆で作ったカレーはとっても美味しくて、忘れられない思い出になった。その日の夜は流石に疲れちゃって、昨日みたいな元気はなかった。三日目に大きなイベントもないこともあり、ゆっくりと過ごして身体を休めることに専念した。
「疲れていても怖い話はできるんやけどね?」
この二日間で印象的だったのは、ユウちゃんが心霊とかオカルトが苦手だということと、千歳ちゃんがそれ系を好むということ。神社で巫女さんをしているという千歳ちゃんのことだから、きっと話したい怪談がいっぱいあるんだろうなぁ。聞きたいとは思ったけれど、聞いている最中に寝落ちしたら失礼だし、わたしはぐっとこらえて、しおりに今日の感想を書いて寝ることにした。
楽しみ……だったんだけどなあ。
「近いぃ」
友達との遠出って、特別な楽しみがあると思うんだけど……星鍵が所有する研修所はわたしや綾ちゃんの家から近い場所で、何なら学校より近い場所にあった。班の他の子たちはけっこう遠かったみたいだけれど。
「各自、荷物を割り振られた部屋に置き次第、広場に集合すること。開始式を執り行いますからね!」
バス酔いから解放されて、ややテンションの高い石川先生の号令のもと、動き出す四組一同。わたしも綾ちゃんもバス酔いとは無縁だから、つらさが分からないけれど大変そうだ。部屋へ荷物を置きに行くと、その広さに綾ちゃんが驚いていた。
初日のメインイベントは学年主任の黒瀬先生の苗字にちなんで開催される黒瀬杯だ。種目は王様ドッジで、出席番号の奇数偶数でチーム分けをしたから、わたしは綾ちゃんと離ればなれになってしまった。
「頑張ろうね、明音っち」
「おっけーヒナッチ! 頑張ろう!!」
でも、この班分けのおかげでヒナッチとも打ち解けられたし、他の班の日下部しおりちゃんとも仲良くなれた。ドッジボールではヒナッチが大活躍で、最終戦までまさかの全勝。
「雛田さんって凄いね。支倉さんと同じ班でしょう?」
「そうそう」
ヒナッチが縦横無尽の活躍をするため、他のメンバーたちは少し手持ち無沙汰気味で、ついつい話し込んでしまう。ちょっと不真面目だけど、楽しい時間が過ぎていった。
「いくよ悠希! 君のハートを狙い撃ち! って、取られちゃった!」
最終戦は四組同士の対決。宣言通り、ヒナッチがユウちゃんめがけてボールを投げる。それをキャッチしたユウちゃんが、ヒナッチの足下へボールを放る。
「あだ!」
「はい、試合終了!」
「悔いは無い!」
黒瀬杯が終わり、試合結果の集計が行われる。表彰で優勝した四組を代表してクラス委員の森末さんが賞状を受け取る。その後は体育館の掃除。それが終わると、一組からお風呂の時間。なんだけど……。
「えぇ、それから。体調の関係で入浴できない生徒はシャワー室があるので、会の終了後、一組と二組の者から養護教諭の霜野先生に申し出なさい。では、解散!」
「麻琴?」
ヒナッチがしょんぼりした様子になり、ユウちゃんが声をかける。ひょっとして……?
「あたし、生理きてるから……悠希と一緒にお風呂入れない……。ショックすぎる」
「そんなことで落ち込まないでよ。まったく……」
「むぅ……」
むくれるヒナッチの背中をぽんぽんとたたいてあげる。せっかく皆で入れると思ったのに、やっぱり寂しいよね。
「ヒナッチ。大丈夫だよ、わたしもお風呂入れないから」
「そっか。明音っちもか。シャワーの時は一緒に行こうか」
ヒナッチと一緒に先に部屋へ戻ると、ヒナッチがバッグからトランプを取り出した。
「いいね! ばば抜きしたい」
「おっけ。提案してみよっか。悠希のやつ変なところで真面目だからなぁ。遊んでくれるやら」
なんて心配していたけれど、ユウちゃんはヒナッチにお願いされたらあっさりと折れた。三十分だけばば抜きして遊んでいたら、森末さんが入浴の時間をお知らせにきてくれた。わたしとヒナッチはシャワー室に行く。
「あ、和紗ちゃん。そっか、三組だもんね」
シャワー室へ向かうと、吹奏楽部で一緒の和紗ちゃんの姿もあった。手早く服を脱いでシャワーブースへ入る。
「お風呂入りたかったね」
隣のブースに入った和紗ちゃんに声をかけられる。研修所の場所は山間にあるし、ちょっと疲れちゃったからお風呂にゆったり浸かってのんびりしたかったなぁとは思う。
「シャワーだけじゃ冷えちゃうよねぇ」
身体を洗い終え、泡を流したらもう出て行くしかない。慣れているとはいえちょっと寂しい。身体の水気を拭いて、髪もドライヤーで乾かす。ブレーカーの都合で、部屋でのドライヤー使用は認められていない。一緒にお風呂に入った時は、いつも綾ちゃんが乾かしてくれるから、なおさら寂しく感じる。
「明音っち、そろそろ部屋に戻れるか?」
「うん、今行くよ~」
部屋に戻ると、お風呂に行った三人はまだ戻っていなかった。それからヒナッチとスピードをひたすらやっていたら、やっと綾ちゃんたちが戻ってきた。それから五組、六組がお風呂に入っている時間を使ってトランプで遊んだ。それから夕食を済ませ、明日の予定を確認したり、今日の感想をしおりに書いたりしているうちに眠くなってきて、お布団を敷いてすぐに寝てしまった。
二日目のメインイベントはオリエンテーリングと飯盒炊さんだ。オリエンテーリングの時間はしりとりや連想ゲームで楽しみながら歩いてまわった。天気は快晴で、木漏れ日を浴びながらのオリエンテーリングは、森林浴みたいで気持ちがすっきりとした。少し汗もかいたけれど、とにかく楽しかった。
飯盒炊さんではカレーの調理に取りかかった。わたしはあまり力になれなかったけれど、皆で作ったカレーはとっても美味しくて、忘れられない思い出になった。その日の夜は流石に疲れちゃって、昨日みたいな元気はなかった。三日目に大きなイベントもないこともあり、ゆっくりと過ごして身体を休めることに専念した。
「疲れていても怖い話はできるんやけどね?」
この二日間で印象的だったのは、ユウちゃんが心霊とかオカルトが苦手だということと、千歳ちゃんがそれ系を好むということ。神社で巫女さんをしているという千歳ちゃんのことだから、きっと話したい怪談がいっぱいあるんだろうなぁ。聞きたいとは思ったけれど、聞いている最中に寝落ちしたら失礼だし、わたしはぐっとこらえて、しおりに今日の感想を書いて寝ることにした。
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