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二年生になりました♪

#72 デリカシー&リテラシー

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 ゴールデンウィーク明けの水曜日、今日も調理部は平常運転。作ったのはポテトサラダ。自分たちで食べても勝敗がはっきりしないということもあり、一年生三人に食べてもらうことにした。どっちが作ったか分からないようにして、澄乃ちゃんメグちゃん静真さんに食べてもらう。

「うーん、どっちも美味しいよね?」
「そうそう、そもそも同じ素材使ってる以上そこまで味に差異があるとは……」

 二人が勝者を決めあぐねている中、静真さんだけは違った。

「この青色の小鉢の方が美味しいですね。好みの違いと言われればそれまでですが、ジャガイモの残り方やマヨネーズの和え方がいいです。そして、こちらが姫宮先輩の作ですね」

 ……青の小鉢が確かに私のポテトサラダだ。静真さんのコメントを聞いてから澄乃ちゃんとメグちゃんが再びポテトサラダを食べ比べる。

「あぁ、なるほどねぇ。みほしちゃんのは味付けがすごくしっかりしていて、美味しいけれどたくさんは食べられないかなぁ。ユウちゃん先輩のは、食べ続けられるっていうか……伝わる?」
「あくまでポテトサラダは副菜なので、食事全体のバランスを考えたら控え目でちょうどいい、ていうことかな」

 二人のコメントに美星ちゃんががくりと項垂れる。不意に抱きしめてあげたくなるが、嫌がるだろうからグッとこらえる。

「完敗です……。悔しい……ぐやじぃ……」

 今にも泣きそうな美星ちゃんにボクはどうしていいか分からず、芙蓉先輩に救いの視線を送る。先輩はしぶしぶオーラを出しながら、美星ちゃんの頭を撫でてあげる。

「私は美星のポテサラの方が好きかな。だから泣かないで。……というか、なんでそんなにユウちゃんを目の敵にするのさ?」

 芙蓉先輩は美星ちゃんと、というか高須家と家族ぐるみで付き合いがあるらしく先輩たちの中でも美星ちゃんが一番心を開いている。

「お姉ちゃんは、私の料理が一番だってずっと褒めてくれたのに、去年から姫宮先輩の料理ばかり褒めて、私のこと二の次みたいに扱って……悔しく、でも確かに私のより美味しくて、可愛いし、おっぱい大きいし……お姉ちゃんまで盗られたら私、何が残るの? っぐ……何もないじゃん!!」

 涙声でそう言った美星ちゃんは芙蓉先輩の手を払って家庭科室の入り口に走り出す。それを止めたのは、意外なことに静真さんだった。後ろからぎゅっと抱きしめ、大丈夫だよと慰める静真さんだったが……。

「優しくしないで! 巨乳なんて大嫌い!!」

 あの華奢な身体のどこにそんな力があったのか、静真さんを振り払って出て行ってしまった。軽く投げられる形となった静真さんが、尻餅をついたまま呆然とその背中を見ていた。

「ああ見えて美星は少林寺拳法の有段者だから。宗森さん、ケガはない?」
「え、えぇ。大丈夫です」

 美星ちゃんのわだかまりを意図せず聞かされたわけだけれど……ボクはこの先どうしたらいいんだろう? ボクが悪いわけではないはずだし……とはいえあまほ先輩に責任を求めるのもきっと違う気がする。美星ちゃんが自立するのが一番なんだろうけれど……それをボクが言っても絶対に聞かないだろうし……。

「取り敢えず片付けましょうか」

 九重先輩が手を叩き、その音に意識が現実に引き戻される。ひとまず自分で作ったポテトサラダはタッパーに入れて持ち帰る。これを春巻きの皮で巻いて揚げると美味しいのだ。

「……はぁ」

 洗い物をしながらため息が出てしまった。せっかくの後輩なんだし仲良くしたいけれど……事情が事情だし美星ちゃんと打ち解けられるのかな。まぁ、二年近くあるわけだし、どこかで折り合いが付くといいのだけれど。

「ユウちゃん大変ね。高須先輩は確かにユウちゃんを気に入っていたけれど、だからといって妹を蔑ろにする人とは思えないのだけれど。ところでね」

 一頻り洗い物が終わったタイミングで希名子ちゃんが声をかけてきた。手にはスマホを持ち、ボクが始めたばかりのSNS……しかもボクのアカウントを表示してきた。

「アイコンを自撮りにするの、オススメしないわ。あと、本名でやるのもオススメしない。……ユウちゃんのリテラシーがあまり高くないことに驚かされたわ」
「そう、なの? だってこっちは本名だし、アイコンも麻琴と撮ったプリだし……」
「チャットは誰でも見られるわけじゃないけど、こっちは全世界の人が見るものだから危ないの。ユウちゃん可愛いんだから、変な人が近付くこともあり得るわ。最近は瞳に映った風景から居場所を割り出されるなんて事件もあるんだから」

 そのニュースはボクも見た。お父さんの事務所とは関係ないアイドルだったけど、父がすごく危険視していたのを覚えている。……とはいえ手近な著作権フリーな画像がなくて、デフォルトの画像じゃ寂しいし。何かいい画像はないだろうか。そんなことを希名子ちゃんに言ったら料理の写真をオススメされた。ふぅむ……。

「なるほどなあ。ありがと、参考になったよ」
「ううん、気にしないで。ネットの使い方って誰に習うものでもないでしょう? 自衛が大事だって私もお姉ちゃんから聞いたの」

 ボクは取り敢えずアイコンをカメラロールにあった写真から、唐揚げに変更した。ユーザー名もユウちゃんにし、プロフィールから高校生の文言を削除した。このこと、麻琴にも教えてあげようっと。
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