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夏休み
#43 夏祭り 後編
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空にも少しずつ夜の帳が下りてきた。藍色の空に星が瞬く。この祭りの目玉でもある花火が打ち上がるまで、時間もまだある。どうしようかと二人で歩きながら考えていると、
「や、やめてください!」
道を気にせず歩いていたせいで人気の少ない場所へたどり着いていた。そこで聞えた女の子の声、声のする方を見ると四人の男が女の子の周りに陣取っていた。ナンパか恐喝か、とにかく放ってはおけない!
「麻琴、助けるよ!」
そう言って、その女の子の元へ駆け出した。
「そこ、何をしているの!」
「ちょ、悠希」
男達は高校生くらいで、悪趣味なピアスに金髪、見るからに不良だった。下種な笑いを顔に貼り付けて、私を値踏みするように見ている。不快だが、私だって元は男だ。気にしなければ問題ない。
「いい女だ。彼氏は頼りないし、掻っ攫うとしようか」
男の一人が麻琴に向かって拳を振るってきたので、鳩尾を狙って一蹴り。呻き声を上げながら倒れこむ男を一瞥し、するべきことを考える。
「麻琴はその娘を安全な場所へ。ここは任せて」
初めてかもしれない、強い怒りの感情を顕にするのは。心の底にいる“漢”が騒いでいる。右拳と右足を引いて構えを取る。つくづくミニスカで良かった。これなら蹴りも楽に出せる。
「てめぇ、可愛いからって容赦はなしだ! 痛めつけた後に辱めてやる!」
残り三人、覆い被さろうとして来た男の咽喉下に蹴りを入れて残り二人。女の子になって柔軟性が増したおかげだ。パンツが見えようが今はどうでもいい。殴りかかってきた男には胸骨に肘打ち、顎に裏拳で伸した。二人倒れた時点で、三人目の拳には恐れが見えていた。さて残すは一人、そう思っていたらその男が急に倒れた。
「いいとこ取りかな?」
戻ってきた麻琴が一撃でノックダウンさせたようだ。まぁ、いいとこ取りであることは確かだ。
「あの、助けてくださって、ありがとうございます!!」
女の子は涙を滲ませていた。かなり怖かったのだろう。
「もう大丈夫だよ。ボクは姫宮悠希、星鍵の高校一年生。そっちは……」
「雛田麻琴、悠希の彼氏。まぁ、頼りないけどね」
今日一日は彼氏を名乗ると言っていたや。今くらいは別にと思ったが、まぁいいや。
「うぅ、あたし、紺屋澄乃といいます。ありがとうございました、先輩がた。あたし、星鍵を受験します。いつか、お二人みたいになりたいです!」
それから暫らく澄乃ちゃんと話をした。澄乃ちゃんは中学三年生で、今日は家族の手伝いにきていたらしい。ところが、自由時間になって屋台を見ようと思ったら道を間違え、そこであの集団に囲まれてしまったらしい。それで、家族のやっている屋台へと連れて行くと、
「おう、さっきの嬢ちゃんか。って、澄乃! どこに居たんだ!?」
綿飴を買ったあの屋台だった。それじゃあ理解もあるだろう。だって澄乃ちゃんのボク達を見る目、かなり輝いている。おそらく麻琴が女なのもバレているだろう。澄乃ちゃんを安全な場所へ連れて行くように行った際、普段でも出さないほどに高い声を出していたから。取り敢えず、お礼をしようにも綿飴じゃなぁ、と唸るおじさんにお礼はいいですと何度も言って、なんとかその場を後にした。
「なんか、お祭を楽しめる気分ではない気がする」
「まぁね。ちょっと疲れちゃった。家に来る? 今なら誰もいないだろうし」
ちょっと興醒め感もしていたので、結局ボク達は家に戻った。
「シャワーでも浴びる?」
取り敢えず部屋着を取りに自室へ向かうと、麻琴も着いてきた。なんだか上の空な様子だけど……。
「まこ……と?」
部屋に入ってすぐ、ボクは麻琴に抱き締められていた。
「悠希、なんで勝手に危ないことに首を突っ込むかなぁ? 心配したんだよ? もっとあたしを頼ってよ!」
言われてみれば全くもってその通りだ。自分の危険も省みずに、勝手な正義感で麻琴を心配させた。
「ごめん……。ごめんね」
ボクはただただ謝ることしか出来なかった。
「それにね、悔しいんだ。悠希が誰か他の女の子に優しくするのが。妬ましくてしょうがないんだ……。だから、今日だけは悠希であたしを満たしてほしい……」
足元が少しだけ揺らぐ、そのまま倒れこんだ先はベッドだった。
「悠希、大好きなんだ。だから……その……我慢できないんだ!」
唇に当たる柔らかい感触、キスをされたのだと気付くのにかなりの時間を要した。永遠のような一瞬の時間が過ぎ、ボクの意識を現実に引き戻したのは麻琴の泣き声だった。
「分かんないよ。悠希のこと大好きなのに、どうしたらいか分かんないの。大好きなのに、悠希のこと大切にしたいのに滅茶苦茶にもしたい! あたしはどうしたらいいの……」
泣きじゃくる麻琴を抱き寄せ、泣き止むまで……眠りにつくまで抱いていた。麻琴の気持ちは嬉しい。だけど、ボクはそれに応えていいのだろうか。もし男のままだったら、ボクは麻琴を……。思い悩んでいるうちにボクに眠りについていた。翌朝、あどけない麻琴の寝顔に思わず相好を崩した。
「ゆう……き、だいしゅき……」
とはいえ、こんなことが起きても、ボク達の日常は変わらない。これを素直に喜ぶべきか、ボクには全く分からない。ただ、またいつも通りの日常がやってくる。だから今日もいつも通りに一日を過ごす。夏休みの残り僅か、二学期がボク達を待っている。
「や、やめてください!」
道を気にせず歩いていたせいで人気の少ない場所へたどり着いていた。そこで聞えた女の子の声、声のする方を見ると四人の男が女の子の周りに陣取っていた。ナンパか恐喝か、とにかく放ってはおけない!
「麻琴、助けるよ!」
そう言って、その女の子の元へ駆け出した。
「そこ、何をしているの!」
「ちょ、悠希」
男達は高校生くらいで、悪趣味なピアスに金髪、見るからに不良だった。下種な笑いを顔に貼り付けて、私を値踏みするように見ている。不快だが、私だって元は男だ。気にしなければ問題ない。
「いい女だ。彼氏は頼りないし、掻っ攫うとしようか」
男の一人が麻琴に向かって拳を振るってきたので、鳩尾を狙って一蹴り。呻き声を上げながら倒れこむ男を一瞥し、するべきことを考える。
「麻琴はその娘を安全な場所へ。ここは任せて」
初めてかもしれない、強い怒りの感情を顕にするのは。心の底にいる“漢”が騒いでいる。右拳と右足を引いて構えを取る。つくづくミニスカで良かった。これなら蹴りも楽に出せる。
「てめぇ、可愛いからって容赦はなしだ! 痛めつけた後に辱めてやる!」
残り三人、覆い被さろうとして来た男の咽喉下に蹴りを入れて残り二人。女の子になって柔軟性が増したおかげだ。パンツが見えようが今はどうでもいい。殴りかかってきた男には胸骨に肘打ち、顎に裏拳で伸した。二人倒れた時点で、三人目の拳には恐れが見えていた。さて残すは一人、そう思っていたらその男が急に倒れた。
「いいとこ取りかな?」
戻ってきた麻琴が一撃でノックダウンさせたようだ。まぁ、いいとこ取りであることは確かだ。
「あの、助けてくださって、ありがとうございます!!」
女の子は涙を滲ませていた。かなり怖かったのだろう。
「もう大丈夫だよ。ボクは姫宮悠希、星鍵の高校一年生。そっちは……」
「雛田麻琴、悠希の彼氏。まぁ、頼りないけどね」
今日一日は彼氏を名乗ると言っていたや。今くらいは別にと思ったが、まぁいいや。
「うぅ、あたし、紺屋澄乃といいます。ありがとうございました、先輩がた。あたし、星鍵を受験します。いつか、お二人みたいになりたいです!」
それから暫らく澄乃ちゃんと話をした。澄乃ちゃんは中学三年生で、今日は家族の手伝いにきていたらしい。ところが、自由時間になって屋台を見ようと思ったら道を間違え、そこであの集団に囲まれてしまったらしい。それで、家族のやっている屋台へと連れて行くと、
「おう、さっきの嬢ちゃんか。って、澄乃! どこに居たんだ!?」
綿飴を買ったあの屋台だった。それじゃあ理解もあるだろう。だって澄乃ちゃんのボク達を見る目、かなり輝いている。おそらく麻琴が女なのもバレているだろう。澄乃ちゃんを安全な場所へ連れて行くように行った際、普段でも出さないほどに高い声を出していたから。取り敢えず、お礼をしようにも綿飴じゃなぁ、と唸るおじさんにお礼はいいですと何度も言って、なんとかその場を後にした。
「なんか、お祭を楽しめる気分ではない気がする」
「まぁね。ちょっと疲れちゃった。家に来る? 今なら誰もいないだろうし」
ちょっと興醒め感もしていたので、結局ボク達は家に戻った。
「シャワーでも浴びる?」
取り敢えず部屋着を取りに自室へ向かうと、麻琴も着いてきた。なんだか上の空な様子だけど……。
「まこ……と?」
部屋に入ってすぐ、ボクは麻琴に抱き締められていた。
「悠希、なんで勝手に危ないことに首を突っ込むかなぁ? 心配したんだよ? もっとあたしを頼ってよ!」
言われてみれば全くもってその通りだ。自分の危険も省みずに、勝手な正義感で麻琴を心配させた。
「ごめん……。ごめんね」
ボクはただただ謝ることしか出来なかった。
「それにね、悔しいんだ。悠希が誰か他の女の子に優しくするのが。妬ましくてしょうがないんだ……。だから、今日だけは悠希であたしを満たしてほしい……」
足元が少しだけ揺らぐ、そのまま倒れこんだ先はベッドだった。
「悠希、大好きなんだ。だから……その……我慢できないんだ!」
唇に当たる柔らかい感触、キスをされたのだと気付くのにかなりの時間を要した。永遠のような一瞬の時間が過ぎ、ボクの意識を現実に引き戻したのは麻琴の泣き声だった。
「分かんないよ。悠希のこと大好きなのに、どうしたらいか分かんないの。大好きなのに、悠希のこと大切にしたいのに滅茶苦茶にもしたい! あたしはどうしたらいいの……」
泣きじゃくる麻琴を抱き寄せ、泣き止むまで……眠りにつくまで抱いていた。麻琴の気持ちは嬉しい。だけど、ボクはそれに応えていいのだろうか。もし男のままだったら、ボクは麻琴を……。思い悩んでいるうちにボクに眠りについていた。翌朝、あどけない麻琴の寝顔に思わず相好を崩した。
「ゆう……き、だいしゅき……」
とはいえ、こんなことが起きても、ボク達の日常は変わらない。これを素直に喜ぶべきか、ボクには全く分からない。ただ、またいつも通りの日常がやってくる。だから今日もいつも通りに一日を過ごす。夏休みの残り僅か、二学期がボク達を待っている。
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