35 / 83
夏休み
#35 露天風呂
しおりを挟む
大浴場には熱さの違う二種類のお風呂とサウナへの扉、そして露天風呂への扉があった。ボクらはせっかくなので、ということで軽く身体を洗ってから大浴場への扉を開けた。
「露天風呂って、こんなにいいものだったのね……」
自然の趣が溢れる石造りの湯船からは、盆地を囲む山々へ沈む夕日が見える。きれいな茜色と、その上に広がる薄紫色が鮮やかで大満足の景色だ。
「新入生研修でも一緒にお風呂入ってるけど、やっぱり皆でお風呂っていいよねぇ」
明音さんののほほんとした声を聴きながら、ゆっくりと沈んでいく夕日を眺める。お湯は透明でかるくとろみがある。いわゆる美人の湯と呼ばれるような泉質だ。なんだかんだ女の子になって一ヶ月ちょっと。自分の裸には慣れてはきたが、正直に言って他の女の子の裸はドキドキする。姉はともかく。明音さんは見た目以上に胸が豊かで温泉の湯にふわふわと浮かんでいるし、女の子の部分を守る茂みはやっぱり人それぞれで。なんだか女の子の神秘みたいなものを感じる。
「そういえば明音、生理は大丈夫なのか?」
「ちょ、綾ちゃん! そういうこと軽々しく言わないの。女の子しかいなくても」
……生理、おおむね月に一回やってくるそれは、子供を出産するために子宮内の膜を血と共に身体の外に出すこと。始まる年齢や、やってくる痛みは人それぞれ。ボクも既に何度かの生理を体感した。痛みはそれほどではなかったけど、胸がつっぱったり、便秘になったりと、少しだけ体調を崩した。
「本条さんは神社の娘さんなんですね」
「ええ。巫女としてのおつとめもしているわ。双美さんは和菓子屋なんやろ? お手伝いとかは……」
「朝早いのは大変だけど、放課後や、それこそ夏休みなんかは手伝ってるの」
明音さんと初美さんががやがやしているのを横目に、千歳ちゃんと希名子ちゃんが打ち解け始めていた。和の雰囲気漂う二人が話しているとなんだか大人っぽくて素敵だ。家の仕事を手伝うのはやっぱり、自分の生活の一部になるものなんだなぁとしみじみ思った。
「暑い時期に熱い温泉入るってけっこういいよな」
岩にもたれ掛かってぼんやりと空を仰ぐ麻琴の隣に移動する。
「でしょ。ボクもこの前の春休みは旅行に行けなかったから、今日は楽しいよ」
「まあ、あんなことがあれば旅行なんて行けないわな」
わりと日頃から挙動が女の子っぽいなんて言われてはいたけれど、実際になってみると思ってもみないことがあった。それこそトイレなんてまさしくそうだし。お風呂だってけっこう大変だ。
「麻琴の家はあんまり旅行とか行かないよね」
「そりゃ、うちは一般的な家庭だからね。悠希の家みたいに年がら年中行ける程金ないって。いつもお土産ありがとな」
「別にうちだってそう何度も行ってはいないけどさ」
長い休みがあっても両親が忙しい以上、旅行なんて何度も行けないよ。お土産だってお父さんが行った先の物が多いし。まあ、わざわざ言ってもしょうがないか。とろみのあるお湯に身を委ねながら大きく息を吐き出す。夏の抜けるような青い空に、大きな白い雲がふわふわと浮かんで風にゆっくりと運ばれている。竹でできた壁の向こう側にある木々の葉も少しだけ音を立てて揺れる。
「……今度は二人きりで来よう」
ぼそっと呟いた麻琴に、ボクはそっと頷いた。
「ちょっと、ユウちゃんと麻琴ちゃんもこっち来てよ」
「いや明音、それはちょっと待て」
なんだかずっと恥ずかし話をしていたらしい明音さんと初美さん。ボクと麻琴は明音さんに呼ばれてお湯の中をずいずいと移動して、二人のところへ向かう。
「二人もいいけど、皆でっていうのも楽しいじゃんね」
「ま、悠希ならそう言うと思ったよ」
時間はまだまだゆっくりと進む。
「露天風呂って、こんなにいいものだったのね……」
自然の趣が溢れる石造りの湯船からは、盆地を囲む山々へ沈む夕日が見える。きれいな茜色と、その上に広がる薄紫色が鮮やかで大満足の景色だ。
「新入生研修でも一緒にお風呂入ってるけど、やっぱり皆でお風呂っていいよねぇ」
明音さんののほほんとした声を聴きながら、ゆっくりと沈んでいく夕日を眺める。お湯は透明でかるくとろみがある。いわゆる美人の湯と呼ばれるような泉質だ。なんだかんだ女の子になって一ヶ月ちょっと。自分の裸には慣れてはきたが、正直に言って他の女の子の裸はドキドキする。姉はともかく。明音さんは見た目以上に胸が豊かで温泉の湯にふわふわと浮かんでいるし、女の子の部分を守る茂みはやっぱり人それぞれで。なんだか女の子の神秘みたいなものを感じる。
「そういえば明音、生理は大丈夫なのか?」
「ちょ、綾ちゃん! そういうこと軽々しく言わないの。女の子しかいなくても」
……生理、おおむね月に一回やってくるそれは、子供を出産するために子宮内の膜を血と共に身体の外に出すこと。始まる年齢や、やってくる痛みは人それぞれ。ボクも既に何度かの生理を体感した。痛みはそれほどではなかったけど、胸がつっぱったり、便秘になったりと、少しだけ体調を崩した。
「本条さんは神社の娘さんなんですね」
「ええ。巫女としてのおつとめもしているわ。双美さんは和菓子屋なんやろ? お手伝いとかは……」
「朝早いのは大変だけど、放課後や、それこそ夏休みなんかは手伝ってるの」
明音さんと初美さんががやがやしているのを横目に、千歳ちゃんと希名子ちゃんが打ち解け始めていた。和の雰囲気漂う二人が話しているとなんだか大人っぽくて素敵だ。家の仕事を手伝うのはやっぱり、自分の生活の一部になるものなんだなぁとしみじみ思った。
「暑い時期に熱い温泉入るってけっこういいよな」
岩にもたれ掛かってぼんやりと空を仰ぐ麻琴の隣に移動する。
「でしょ。ボクもこの前の春休みは旅行に行けなかったから、今日は楽しいよ」
「まあ、あんなことがあれば旅行なんて行けないわな」
わりと日頃から挙動が女の子っぽいなんて言われてはいたけれど、実際になってみると思ってもみないことがあった。それこそトイレなんてまさしくそうだし。お風呂だってけっこう大変だ。
「麻琴の家はあんまり旅行とか行かないよね」
「そりゃ、うちは一般的な家庭だからね。悠希の家みたいに年がら年中行ける程金ないって。いつもお土産ありがとな」
「別にうちだってそう何度も行ってはいないけどさ」
長い休みがあっても両親が忙しい以上、旅行なんて何度も行けないよ。お土産だってお父さんが行った先の物が多いし。まあ、わざわざ言ってもしょうがないか。とろみのあるお湯に身を委ねながら大きく息を吐き出す。夏の抜けるような青い空に、大きな白い雲がふわふわと浮かんで風にゆっくりと運ばれている。竹でできた壁の向こう側にある木々の葉も少しだけ音を立てて揺れる。
「……今度は二人きりで来よう」
ぼそっと呟いた麻琴に、ボクはそっと頷いた。
「ちょっと、ユウちゃんと麻琴ちゃんもこっち来てよ」
「いや明音、それはちょっと待て」
なんだかずっと恥ずかし話をしていたらしい明音さんと初美さん。ボクと麻琴は明音さんに呼ばれてお湯の中をずいずいと移動して、二人のところへ向かう。
「二人もいいけど、皆でっていうのも楽しいじゃんね」
「ま、悠希ならそう言うと思ったよ」
時間はまだまだゆっくりと進む。
0
お気に入りに追加
116
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。
貞操観念が逆転した世界に転生した俺が全部活の共有マネージャーになるようです
卯ノ花
恋愛
少子化により男女比が変わって貞操概念が逆転した世界で俺「佐川幸太郎」は通っている高校、東昴女子高等学校で部活共有のマネージャーをする話
AV研は今日もハレンチ
楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo?
AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて――
薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!
男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る
電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。
女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。
「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」
純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。
「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる