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近付く夏と二人の距離
#30 生徒会選挙(3)
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それからの一週間というのはあっという間で、立候補者の中には名刺を配る人もいたり、自分が生徒会長になったら何がしたいかをポスターに書いていたりする人もいた。ちなみに、生徒会長は前期の副会長がなることが多いが、ごく稀に選挙で違う人が当選して就任する場合がある。その場合、前期の副会長は会長補佐という役職になるらしい。もっとも、そうなることは滅多にないそうだ。比較的真面目な生徒の多い星鍵と言えど、規模の大きな生徒会選挙は一つのイベントと化しているようで、思い出作りに立候補する人もいる。まぁ、実際の選挙と違って供託金もないしね。
「はいじゃあ、廊下に並んでー。講堂に行くよー」
もなかちゃんが既に講堂へ向かっているので、選管である麻琴が前で指示を出している。明音さんほどじゃないがゆるーい指示でも、クラスは出席番号順に並んで列も整った。
「麻琴がああいうのやるの会わないなぁ」
「ねぇ。ヒナッチのする仕事じゃないよねぇ」
初美さんや明音さんもこの反応だ。そりゃボクだってそう思うけど。そうこうしている内に講堂へとたどり着き、各クラスが順番に並んでいるのを見ながらボクたちも並ぶ。講堂は第一体育館の一階にあり、基本的にパイプ椅子が常に出されている。星鍵の体育館はそもそも規模が大きいが、球技系の部活が使うことを前提にした体育館とは別に武道や器械体操の部活が使う第二体育館がある。尚、プールは第二体育館に併設されている。
「そろそろ始まりますので皆さんお静かに」
マイクを使って二年生の先輩がアナウンスする。おそらく放送委員の人だろう。お昼の放送なんかで聴いたことある声だ。よく通るからこそ、こういう時にも司会進行役を務めることができるんだろう。
「これより、生徒会選挙全体演説会を始めます。まず、立候補者の紹介を行います。呼ばれた候補者は返事をし、立って一礼の後、着席してください。会長候補、現職副会長、二年一組、佐原しずくさん」
「はい」
最初に名前を呼ばれたのは今の副会長で、生徒会長へ立候補した先輩。遠目に見ていると儚げな印象がするのだが、返事の声はとても凜としていて、これまで副会長を務めてきただけの自信が感じられた。大和撫子っぽい美人な先輩だ。
「同じく会長候補、二年五組、十時光さん」
「はいっ! あ、返事してから立つんだっけ?」
お茶目な笑いで会場をゆるっとさせたのは、佐原先輩とは対照的な先輩。髪は肩にかかるくらいの長さで少し明るい髪色をしている。その見た目はもうアイドルも裸足で逃げ出しそうな美少女ぶりに抜群のスタイル。そしてそのオーラ。名は体を表すとはまさにといった感じだ。
「では続きまして副会長候補。一年三組、川藤澄佳」
「はい」
弛緩した空気をぴしゃりと引き戻るように、透き通った声が講堂に響く。
「同じく副会長候補、一年六組、島柚花菜」
「はい」
ちょっと弱々しいその声の持ち主は、小柄で気弱そうなおよそこういう舞台に立つようなタイプに見えない子だった。実は凄く秘めたる意思があるのかもしれないけど……。
「続きまして書記候補、二年一組、加藤美咲さん」
「はい」
書記に立候補した先輩は眼鏡をかけた理知的で大人びた人。
「続きまして会計候補、二年六組、時任紗奈さん」
「はい」
会計に立候補した先輩は小柄ながら声量があって芯の強そうな人だ。
「ではこれより、各候補者の筆頭応援人による応援演説を行います。まず、会長候補である佐原さんの筆頭応援人、実村現会長の応援演説です」
……それ、ちょっと狡くない!? 副会長としての働きを見てきたのだから応援したくなる気持ちは分かるけど、まさか会長本人が出てくるとは……。
「諸君、久しぶりだな。実村碧海だ」
それからの先輩の演説はとても流暢で、佐原先輩の実務経験や事務能力の高さ、行動力などをきっちり分析した上で評価している。これ以上ない応援演説だった。
「実村現会長、ありがとうございました。続きまして、同じく会長候補である十時さんの応援演説はこの私、南里夏歩がさせていただきます」
南里先輩の演説も確かに上手で、十時先輩のアイドル性を前面に押し出し、必ずや明るい学校にすると力強く宣言した。堅実だが確実に心を掴む演説をした実村先輩ととにかく煽り上手な南里先輩。応援演説だけでも十分に聞き応えがある選挙だ。そして……。
「続きまして、副会長候補、川藤澄佳さんの筆頭応援人、森末真奈歌さんによる応援演説です」
「初めまして、一年四組、森末真奈歌です。私は、今回立候補した川藤さんとは中学校の頃からの知り合いです。彼女は中学生の頃から生徒会活動に打ち込み、会長も経験した才媛です。現在は一年三組の委員長として、また、先日の新入生研修では実行委員長として活躍してくれました。川藤さんは視野が広く、物事を柔軟に考えることが出来る人です。そして考えたことを実際に行動へ移せる人物でもあります。彼女なら、副会長として十全たる働きができると思います。川藤澄佳に清き一票をお願いします。ありがとうございました」
先輩たちの個性豊かな演説の後であっても、堂々と原稿を読み上げたもなかちゃんは本当にすごかった。普段からクラスの委員長としての姿を見ていたけれど、ステージの上にいるもなかちゃんは先輩たちに引けを取らない程に立派だった。その後も演説会は続き、立候補者本人の演説も全て終わると、クラスに戻り投票へ移るよう指示が出た。取り敢えず、またあのゆるい麻琴の指示で教室へと戻るのだった。
「はいじゃあ、廊下に並んでー。講堂に行くよー」
もなかちゃんが既に講堂へ向かっているので、選管である麻琴が前で指示を出している。明音さんほどじゃないがゆるーい指示でも、クラスは出席番号順に並んで列も整った。
「麻琴がああいうのやるの会わないなぁ」
「ねぇ。ヒナッチのする仕事じゃないよねぇ」
初美さんや明音さんもこの反応だ。そりゃボクだってそう思うけど。そうこうしている内に講堂へとたどり着き、各クラスが順番に並んでいるのを見ながらボクたちも並ぶ。講堂は第一体育館の一階にあり、基本的にパイプ椅子が常に出されている。星鍵の体育館はそもそも規模が大きいが、球技系の部活が使うことを前提にした体育館とは別に武道や器械体操の部活が使う第二体育館がある。尚、プールは第二体育館に併設されている。
「そろそろ始まりますので皆さんお静かに」
マイクを使って二年生の先輩がアナウンスする。おそらく放送委員の人だろう。お昼の放送なんかで聴いたことある声だ。よく通るからこそ、こういう時にも司会進行役を務めることができるんだろう。
「これより、生徒会選挙全体演説会を始めます。まず、立候補者の紹介を行います。呼ばれた候補者は返事をし、立って一礼の後、着席してください。会長候補、現職副会長、二年一組、佐原しずくさん」
「はい」
最初に名前を呼ばれたのは今の副会長で、生徒会長へ立候補した先輩。遠目に見ていると儚げな印象がするのだが、返事の声はとても凜としていて、これまで副会長を務めてきただけの自信が感じられた。大和撫子っぽい美人な先輩だ。
「同じく会長候補、二年五組、十時光さん」
「はいっ! あ、返事してから立つんだっけ?」
お茶目な笑いで会場をゆるっとさせたのは、佐原先輩とは対照的な先輩。髪は肩にかかるくらいの長さで少し明るい髪色をしている。その見た目はもうアイドルも裸足で逃げ出しそうな美少女ぶりに抜群のスタイル。そしてそのオーラ。名は体を表すとはまさにといった感じだ。
「では続きまして副会長候補。一年三組、川藤澄佳」
「はい」
弛緩した空気をぴしゃりと引き戻るように、透き通った声が講堂に響く。
「同じく副会長候補、一年六組、島柚花菜」
「はい」
ちょっと弱々しいその声の持ち主は、小柄で気弱そうなおよそこういう舞台に立つようなタイプに見えない子だった。実は凄く秘めたる意思があるのかもしれないけど……。
「続きまして書記候補、二年一組、加藤美咲さん」
「はい」
書記に立候補した先輩は眼鏡をかけた理知的で大人びた人。
「続きまして会計候補、二年六組、時任紗奈さん」
「はい」
会計に立候補した先輩は小柄ながら声量があって芯の強そうな人だ。
「ではこれより、各候補者の筆頭応援人による応援演説を行います。まず、会長候補である佐原さんの筆頭応援人、実村現会長の応援演説です」
……それ、ちょっと狡くない!? 副会長としての働きを見てきたのだから応援したくなる気持ちは分かるけど、まさか会長本人が出てくるとは……。
「諸君、久しぶりだな。実村碧海だ」
それからの先輩の演説はとても流暢で、佐原先輩の実務経験や事務能力の高さ、行動力などをきっちり分析した上で評価している。これ以上ない応援演説だった。
「実村現会長、ありがとうございました。続きまして、同じく会長候補である十時さんの応援演説はこの私、南里夏歩がさせていただきます」
南里先輩の演説も確かに上手で、十時先輩のアイドル性を前面に押し出し、必ずや明るい学校にすると力強く宣言した。堅実だが確実に心を掴む演説をした実村先輩ととにかく煽り上手な南里先輩。応援演説だけでも十分に聞き応えがある選挙だ。そして……。
「続きまして、副会長候補、川藤澄佳さんの筆頭応援人、森末真奈歌さんによる応援演説です」
「初めまして、一年四組、森末真奈歌です。私は、今回立候補した川藤さんとは中学校の頃からの知り合いです。彼女は中学生の頃から生徒会活動に打ち込み、会長も経験した才媛です。現在は一年三組の委員長として、また、先日の新入生研修では実行委員長として活躍してくれました。川藤さんは視野が広く、物事を柔軟に考えることが出来る人です。そして考えたことを実際に行動へ移せる人物でもあります。彼女なら、副会長として十全たる働きができると思います。川藤澄佳に清き一票をお願いします。ありがとうございました」
先輩たちの個性豊かな演説の後であっても、堂々と原稿を読み上げたもなかちゃんは本当にすごかった。普段からクラスの委員長としての姿を見ていたけれど、ステージの上にいるもなかちゃんは先輩たちに引けを取らない程に立派だった。その後も演説会は続き、立候補者本人の演説も全て終わると、クラスに戻り投票へ移るよう指示が出た。取り敢えず、またあのゆるい麻琴の指示で教室へと戻るのだった。
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