真紅の想いを重ねて

楠富 つかさ

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おとにきく

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 中等部の寮の外周を一周し、脚の調子を確認してから高等部の寮も含めた広い一周を走り出す。
 高等部桜花寮の裏に差し掛かった時、私はある集団に遭遇する。

「ワンツーさんし!! いいね、これなら先輩として恥ずかしくない踊りができそうだ」

 きっと全員先輩だろう。四人で踊っていた。しかもかなり本格的に。

「ごきげんよう。あれ? ……君は」

 ちょうど区切りが良かったのか、踊りを終えた四人の一人に声をかけられ、思わずこちらも挨拶を返す。立ち止まった私をその先輩がじっくり見てきて、

「ひょっとして土橋紅凪ちゃんかい?」

 私の名前を言い当てるものだから、びっくりしてしまった。私はその先輩のことを知らないのに、先輩は私の名前を知っている。正直、百人一首部の先輩以外に上級生の知り合いなんて本当に数えるほどだし、寮生だったらひょっとしたら見たこともあるかもしれないけれど、どうして名前を言い当てられたのか分からずなんて答えていいかも分からず困ってしまった。

「あれ? 違ったかな。渚から聞いた特徴にぴったり合うのに」

 黙り込む私に先輩が頬をかく。そんな先輩から慣れ親しんだ名前が出てきたので、ひとまず確認してみる。

「確かに私が紅凪ですけど、渚って風間渚のことですか?」
「うん、そうだよ。名乗り遅れたね、私は大倉ゆめ。渚の彼女だよ」

 そういえば初めましてだ。親友、風間渚がお付き合いしているという大倉ゆめ先輩。確かにダンス部だってことは聞いている。ということは後ろの三人もダンス部なのだろうか。けっこう印象はバラけているけど。

「アッキーとかなみかとみーちゃんだ。――三人とも、練習続けてて。私この子に話がある」
「お? 浮気か?」
「違わい!!」

 そんなこんなで、ゆめ先輩と高等部の桜花寮にあるベンチへ向かう。聞けば、渚から私のことを聞かされたらしく悩んでそうだから気にして欲しい、と。……渚はきっと素直にお礼を言っても茶化して聞いてくれないだろうから、なんか甘いものでも用意しておいてあげようっと。

「にしても紅凪ちゃんは千早の妹か。そっかぁ、似てるねえ」
「姉と、私が……そんなに似てますか?」

 そっか、高校三年生だから姉とも同級生なんだよね。

「私はほら、湊や千早といることがけっこう多かったから、なんとなく分かるんだよね。そうだ、湊には渚と付き合ってること言ってないからばらさないでね?」

 湊さんは渚のお姉ちゃん。今年の前期まで風紀委員長をしていた。うちの姉が副委員長で湊さんが委員長。湊さんはしっかり者でまさに委員長って感じで……そっか、うちの姉妹とちょうど逆な感じなんだよね。まぁ、渚は渚なりにしっかりした部分もあるんだけど。今回みたいに。

「どんなことで悩んでるのかな? あと三か月で卒業しちゃう私なら、言ってもいいんじゃない」
「……気になってる先輩がいて、でもその人はみんな特別で誰か一人を特別にするような人じゃなくて……でもその先輩の特別になりたくて。でも特別になった後のことが全然分からなくて。あと普通に将来の夢がなくて悩んでます」

 あんまりにも先輩のことばかり相談するのが急に恥ずかしくなって、付け足すように将来の夢のことも話す。

「将来の夢ってどうしても持ってなきゃいけないものでもないんじゃない? 正直、私は取り敢えず大学に行くけどなりたい職業を探すための時間稼ぎって感じだし。あと、特別になった後のことは特別になってから考えればいいと思う。まぁ、その特別になるための努力はしなくちゃだけどさ。当たって砕けろでもいいんじゃない?」
「……なんか、渚の彼女って感じですね、先輩は」

 少しだけ、ほんの少しだけど、心が軽くなった気がした。

「今度さ、商店街でお祭りがあるでしょ? ダンス部でステージに出演するから見においでよ」
「はい、ぜひ!!」

 足取りも少しだけ軽く、私は再び走り出した。
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