真紅の想いを重ねて

楠富 つかさ

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のちのこころに

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 毎週金曜にサウナへ通っているが、土曜日は普通に部活があり登校する。寮から活動場所の離れまではけっこうな距離があるが、十一月の澄み切った空気の下なら特に嫌には思わない。
 白地に撫子色のラインが入った学校指定ジャージに少し厚手の上着を羽織って歩いていると、同級生の香子と山里沙梨が声を掛けてきた。

「ういっす。今日もいい尻してるよ紅凪」
「はあ……。朝はかったるい」

 香子と沙梨は桜花寮のルームメイト同士。わたしとも同じ階の住人なのだが、朝のすっきりした空気で昨日の悩みを少しでも晴らそうと一人で出てきた思惑は完全にはしごを外された形になってしまった。

「沙梨がまた夜中までラノベ読んでるからだよ?」

 沙梨は世音とはまた違った方向性の厨二病で、とにかく夜や黒という概念に拘りがあるらしい。

「ブラックコーヒー飲んできたんだけどなあ」
「まぁ、二口飲んだあたりで豆乳をどばどば投入すりゃあ、眠気もすっきりしないでしょう」
「もう、豆乳を投入って、何言ってるのよ」

 香子も沙梨もわたしのキャラが濃い友人三十六人の一人だ。なんだかんだ一緒にいて楽しいし、考え事の深みにはまらずに済む。……一人で寮を出たのは間違いだったみたいだ。

「ふぇえ……着いた。ちょっと疲れた」
「沙梨ってば体力なさすぎ。やっぱり木曜のトレーニングにも出た方がいいんじゃない?」
「……私は和歌が好きでカルタ部にいるの。トレーニングなんて雅じゃないし。私、黒巫女ぞ?」

 ……世音の語る双神の巫女といい、沙梨の言う黒巫女といい、みんな巫女さんが好きなんだなあとは思う。まあ、和歌が好きという沙梨の言葉はホンモノで、わたしや香子よりカルタそのものは強いのだ。

「今日は部長来てるかな~」

 百人一首部の部長、高砂かすみ先輩はカルタが部内で一番強いこともあり先代の部長さんから指名を受けたのだが、天寿系アパレルブランドで広告モデルとしても活躍しているため、なかなか多忙な先輩なのだ。だからロゼ先輩が実質的に部をまとめているのだけれど。にしても……。

「香子は高砂先輩のこと好きよね。あ、恋愛的な意味じゃなくてさ」

 香子は高砂先輩がいたら必ず指導をしてもらうためにカルタを囲む。ただファンなのかと思いきや、お互い疲れている終盤に指導を申し込むあたりちょっと違うような……。

「あ、言ってなかったね。私、高砂先輩が本命だから。終盤に対戦すると先輩の胸元ガバガバになってて谷間めっちゃ見えるから眼福。ロゼ先輩より大きいよね」

 ……恋愛的な意味で好きなんだ。ていうかそんな不埒な理由で……香子らしいと言えば香子らしいのだけれど。

「沙梨は好きな人いるん?」
「んー。私、二次元にしか興味ないし」

 沙梨は沙梨でブレないなあ。香子はネイリストになりたいって前に言っていたし、沙梨は漫画の編集者になりたいって言っていたや。やっぱり私だけなのかな、からっぽなのは。
 離れの下駄箱で靴を脱いで、上着を畳んで和室の隅に置く。押し入れから座布団と百人一首の札を取り出す。準備をしていると中一の後輩達もやってきて、着々と準備が進む。ほどなくして中三の先輩や高一の先輩も集まり、手首や肩周りの準備運動をしたりなんとなく柔軟運動をしたりする。

「おお、今日はけっこう来てるね。ま、あたしが言う立場じゃないか」
「高砂せんぱーい! 抱いて!!」

 ある程度準備をしていると、高砂先輩とロゼ先輩が和室にやってきた。西欧風の顔立ちなロゼ先輩と並ぶと、高砂先輩の和風美人っぷりがよく分かる。ジャージを着て髪をポニーテールに結った先輩に、香子が突進する。けっこうな勢いだったのにも関わらず先輩の体幹はまったくブレず、その豊かな胸で香子を抱き止める。

「まったく、松山は甘えん坊だな。もう二年生も終盤だぞ?」

 ひとしきり頭をぽんぽんした後、少しだけ雑に引きはがすと部活始めの挨拶をして、百人一首部の活動が始まった。
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