雷鳴の勇者と暗黒の魔王

楠富 つかさ

文字の大きさ
上 下
4 / 5

第四幕

しおりを挟む
 そんな俺たちが見たのは……崩れ落ちた家々の姿だった。

「どうして……」

 膝から崩れ落ちるノア。俺だってこの光景を前に立っているのが精一杯だった。魔物に襲われた人間は、死体が残る者と残らない者がいる。その違いが何によるものかは知られていないが……事切れた村人が何人も倒れている。たとい死体がないからといって、無事とは限らない。昼飯時に襲われた家は火事で何件か燃えていた。半日も村から離れていないというのに……一体、どうしてこんなことに。

「フリッツ、しゃんとしろ。まだ魔物がいる」

 村の奥に大型のゴーレム型の魔物が見える。

「フリッツ、ノアを頼む。あいつは俺がやる」
「いや、俺がやる」

 村の奥には村長が……祖父さんが住んでいる。祖父さんなら魔物の襲撃があったって、すぐ反応して避難を促せるはず。きっとまだ、誰か生きているはず。

「どけ!!」

 途中、何度も襲ってくる魔物を蹴散らして走り抜ける。家の焼ける臭い、人の流した血の臭い、鼻をつく様々な臭いと風に舞う火の粉の熱を振り払って進む。

「せりゃぁあ!!」

 人の二倍ほどの大きさのゴーレムに斬りかかる。膝関節を狙った一撃はかすかに雷撃をまとっているように感じられた。その一撃で崩れ落ちたゴーレムに再び剣を突き立て、魔物は散り散りになった。

「誰か、誰かいないのか!? 俺だ、フリッツだ!」

 どこからも返事は聞こえないが、足音が近付いてきた。俺の……正面から。レオなら後ろから来るはずだし、村の人なら返事をするはず。声が出ない程疲弊しているようには思えない足音の重み。

「お前は……誰だ」

 雷鳴の剣を鞘に収めず、真っ直ぐに突きつける。姿を見せた相手は人間に見えた。だが、皮とは異なる濃い黒の光沢……それはまさしく魔物が放つオーラにも似た光沢だ。

「我が名はダース。魔王軍四天王が一人。魔王陛下より勇者抹殺の任を受けている。その命、もらいうける! 出でよ、我が僕たちよ!」

 抜剣したダースが禍々しい剣を掲げると、今まで見たことのない骸骨型の魔物が十二体、現れた。武器を持ってはいないが、手がなく鋭い骨が殺意を放っている。手前にいた三体が一気に飛びかかってくる。

「てりゃあ! くらえぇ!!」

 一体を攻撃してもう一体にたたらを踏ませる。その間にもう一体の攻撃を籠手で防いで反撃する。二度斬りつけて蹴りで間合いを切る。撃破できないまま二陣が攻めてくる。手下を使って俺を攻撃するだけで、ダースと名乗った男は傍観したまま。その態度が気にくわない。

「せい、はぁ!!」

 ダースが立っている方へ骸骨を薙ぎながら攻撃を続ける。骸骨は見た目以上にしぶとく、じりじりと疲れが動きを鈍らせる。一瞬の油断から背後から攻撃をくらいそうになった、その時――――。

「フリッツ!!」

 これまでと違った鈍い音が響いた。

「レオ!」

 リッツの大斧が骸骨の一体を吹っ飛ばし、その骸骨はもう動かなくなった。

「背中は任せろ」
「ノアは!?」
「建物の陰で隠れている、すぐに終わらせれば大丈夫だ!」

 レオと二人で骸骨どもに斬りかかり、敵を次々と消し去っていく。

「雑魚に構っている場合ではないぞ」
「お前、何が目的なんだ」
「知れたこと。勇者の命、ただそれだけだ」
「なら、お前がここで死ね」

 レオが大振りな攻撃を仕掛けるが当たらない。逆に隙を作ってしまうような、そんな戦い方をしてしまうのはやはり動揺があるからだ。俺も加勢しようとするが、ダースの攻撃は素早く、重い。

「ぐぅ……こいつ……強いな……」
「どうした、勇者というのはこの程度か?」
「調子に乗るんじゃねぇよ」
「ふむ、では少し本気を出すとしようか」

 ダースの剣が妖しい光を放つ。

「喰らえ、邪影斬!!」
「うぉおおお!!」

 ダースの振るう剣には禍々しいオーラがまとわりついており、背筋が凍る思いだったが、迷いを振り払うように俺も剣を合わせる。その剣に雷鳴が宿って、二振りの剣の間に衝撃波が生まれる。

「うぉ……な、なんなんだ……!」

 俺たちは強烈な力によって弾き飛ばされてしまった。

「フリッツ!!」
「大丈夫だ……それよりあいつは……」

 レオに支えながら立ち上がると、ダースの姿は消えていた。倒せたわけじゃないだろうが……あいつは一体……なんだったんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。

阿吽
ファンタジー
 クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった! ※カクヨムにて先行投稿中

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

この世界で唯一『スキル合成』の能力を持っていた件

なかの
ファンタジー
異世界に転生した僕。 そこで与えられたのは、この世界ただ一人だけが持つ、ユニークスキル『スキル合成 - シンセサイズ』だった。 このユニークスキルを武器にこの世界を無双していく。 【web累計100万PV突破!】 著/イラスト なかの

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...