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2話
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宿で一夜を明かした私は伝説の盾があるという森を目指して街を出た。西には街道が伸びているが目指すのは北西、街道を外れ草原を突き進む。このあたりにはあまり強力な魔物はおらず、時折現れるゴブリンは剣で斬って捨てる。
「ふぅ……今日はどこまで行けるかな。……ん?」
草むらから飛び出してきたスライムに気づく。ぷるぷる震えながら体当たりを仕掛けてくるので、それを剣で一閃する。真っ二つになったスライムは地面の上で溶けて消えた。
「やっぱり一人は気楽。私が死んでもそれは私の責任だし……」
歩き続けていると前方に大きな岩が見えてきた。休憩しようと近寄ると、何やら物音がする。もしや……誰かいる? 警戒しながら岩陰に近づくと、そこには人がいた。
フード付きのマントを着た人影が地面に座り込んでいる。……いや、既にこと切れている。
「……盗賊?」
私は恐る恐る近づいてみた。そしてすぐに理解した。この人は剣士だ。誰かがこの人を見捨てたのか、それとも一人で戦っていたのか、それは分からないが……黙祷。まだ肉がついているしアンデッド化もしていないことから、死後そう経ってはいないだろう。申し訳なさはあるが使えそうなものがないか遺体を検める。多少の金銭と砥石、そして聖水が見つかった。
「剣の女神の御許へ行けますように……」
遺体に聖水を振りまく。こうすることで遺体がアンデッドになりにくくなる。絶対にならないわけではないが、その遺体を寝かせ側に剣を突き立てる。剣士の弔いだ。
「進もう、きっとこの人も伝説の盾があるという森を目指していたはず」
再び歩き出す。森が見えてきた頃には既に日が傾いていて、野営をしなければならなくなった。見通しがあまりにもいいから、熟睡というわけにはいかないが、夜間に草原を進むのも難しい。焚火が消えないように薪を組んで仮眠をとる。
翌朝、日の出と共に出発し、太陽が真上にくる頃に森に到着した。早速森の中に入っていく。
森の中は空気が澄んでいて魔物の気配はぜんぜんしない。思わず剣を鞘に納めてしまうくらいには、安心してしまっている。
「でも油断は禁物……慎重に行こう」
頭を振って改めて抜剣する。しばらく歩くと開けた場所に出た。そこは木々が伐採されていて、切り株がいくつか残っている。
「ここが……伝説の盾があるところ?」
辺りを見渡すと、明らかに人工物と分かる石でできた小さな祠があった。
祠の前には大きな木箱が置かれていて、蓋を開けると中には盾が入っていた。
「これが……伝説に謳われる伝説の盾」
純白の盾は細やかな装飾が施されている。女神のレリーフ、金の細工、深い紅の宝玉、大きさは私が持ってちょうどいい大きさと重さ。
『久しぶりね! 貴女のような人に出会うのは!!』
頭の中に直接響くような声……これは本当に伝説の通りなのか。意思を持つ……盾!!
「伝説は本当だったんだ!」
『私の銘はセイブザメイデン。気軽にメイって呼んで』
「わ、私はリスタ……よろしく」
『声にしなくてもいいよ。ちゃんとわかるから』
なるほど……念話みたいな感じかな? 分かる?
『うん、伝わってるよ』
全部筒抜けだと思うと少し恥ずかしいなあ。そういえば、選ばれた人間にしか使えないって聞いていたけど、私は大丈夫なのだろうか。今はただ持っているだけで、選ばれて装備しているわけじゃないのかな?
『君は私の力を引き出せると思うよ。私はね……女の子の味方だから。女の子を守るための盾だから』
な、なるほど……私は確かに女の子だ。でも、それだけ? なんかもっと他に理由とかないのかな。
『強いて言えば、私の好み? ……ふふ、それは流石に冗談だけど、似ているから、かな』
誰に……っていうのは答えてくれないか。
貴女の力について教えて欲しいんだけど……いいかな。
『本契約でいいのかな? もし私と一緒に旅に出てくれるなら、魔力を込めてみて。まだリスタと装備者契約が済んでいないから』
言われた通り、盾……メイに魔力を流し込む。人と顔を合わせて話すわけじゃないからか、メイとの会話はとても気軽で緊張もしない。私の魔力をメイに流すことで、メイからの力が私に流れ込んでくるような感覚になる。……そして、その力がすさまじい。
「うっ……ぐぅぅぅぅぅぅぅ!!」
私は地面に膝をつく。身体中の血管に激痛が走り、頭が割れそうになる。今までにない苦痛に意識が飛びそうになった時、痛みが嘘のように引いた。
「な、なにこれ……?」
『ふふふ、すごいでしょう? これで契約は完了。痛くしてごめんね。怖がらせちゃうと思って言えなかったの』
メイは得意げに笑う。これが……伝説の力……? かつてないほど思考がすっきりとしていて、力が沸き上がってくる。
「これからよろしくね、メイ」
『こちらこそ、リスタ。よろしく!』
メイ……聞いていいかな。どうして、この森で祀られていたの?
『それはまだ教えてあげられないかな』
そっか。じゃあ……これからどうしたい?
『とりあえず、魔物との実戦かな。君がどれくらいの腕前か知らないと、私の力をどこまで解放していいか分からないし』
それは確かにメイの思う通りなのだが、この森には魔物がいない。そういえば、その理由をメイは知っているのかな?
『私が結界を張っていたからかなぁ。やたらめったに魔物が来たら私も嫌だし』
なるほど……。じゃあ、この森を出た方がいいのかな。
「じゃあ、行こうか」
『よろしくね、リスタ』
「ふぅ……今日はどこまで行けるかな。……ん?」
草むらから飛び出してきたスライムに気づく。ぷるぷる震えながら体当たりを仕掛けてくるので、それを剣で一閃する。真っ二つになったスライムは地面の上で溶けて消えた。
「やっぱり一人は気楽。私が死んでもそれは私の責任だし……」
歩き続けていると前方に大きな岩が見えてきた。休憩しようと近寄ると、何やら物音がする。もしや……誰かいる? 警戒しながら岩陰に近づくと、そこには人がいた。
フード付きのマントを着た人影が地面に座り込んでいる。……いや、既にこと切れている。
「……盗賊?」
私は恐る恐る近づいてみた。そしてすぐに理解した。この人は剣士だ。誰かがこの人を見捨てたのか、それとも一人で戦っていたのか、それは分からないが……黙祷。まだ肉がついているしアンデッド化もしていないことから、死後そう経ってはいないだろう。申し訳なさはあるが使えそうなものがないか遺体を検める。多少の金銭と砥石、そして聖水が見つかった。
「剣の女神の御許へ行けますように……」
遺体に聖水を振りまく。こうすることで遺体がアンデッドになりにくくなる。絶対にならないわけではないが、その遺体を寝かせ側に剣を突き立てる。剣士の弔いだ。
「進もう、きっとこの人も伝説の盾があるという森を目指していたはず」
再び歩き出す。森が見えてきた頃には既に日が傾いていて、野営をしなければならなくなった。見通しがあまりにもいいから、熟睡というわけにはいかないが、夜間に草原を進むのも難しい。焚火が消えないように薪を組んで仮眠をとる。
翌朝、日の出と共に出発し、太陽が真上にくる頃に森に到着した。早速森の中に入っていく。
森の中は空気が澄んでいて魔物の気配はぜんぜんしない。思わず剣を鞘に納めてしまうくらいには、安心してしまっている。
「でも油断は禁物……慎重に行こう」
頭を振って改めて抜剣する。しばらく歩くと開けた場所に出た。そこは木々が伐採されていて、切り株がいくつか残っている。
「ここが……伝説の盾があるところ?」
辺りを見渡すと、明らかに人工物と分かる石でできた小さな祠があった。
祠の前には大きな木箱が置かれていて、蓋を開けると中には盾が入っていた。
「これが……伝説に謳われる伝説の盾」
純白の盾は細やかな装飾が施されている。女神のレリーフ、金の細工、深い紅の宝玉、大きさは私が持ってちょうどいい大きさと重さ。
『久しぶりね! 貴女のような人に出会うのは!!』
頭の中に直接響くような声……これは本当に伝説の通りなのか。意思を持つ……盾!!
「伝説は本当だったんだ!」
『私の銘はセイブザメイデン。気軽にメイって呼んで』
「わ、私はリスタ……よろしく」
『声にしなくてもいいよ。ちゃんとわかるから』
なるほど……念話みたいな感じかな? 分かる?
『うん、伝わってるよ』
全部筒抜けだと思うと少し恥ずかしいなあ。そういえば、選ばれた人間にしか使えないって聞いていたけど、私は大丈夫なのだろうか。今はただ持っているだけで、選ばれて装備しているわけじゃないのかな?
『君は私の力を引き出せると思うよ。私はね……女の子の味方だから。女の子を守るための盾だから』
な、なるほど……私は確かに女の子だ。でも、それだけ? なんかもっと他に理由とかないのかな。
『強いて言えば、私の好み? ……ふふ、それは流石に冗談だけど、似ているから、かな』
誰に……っていうのは答えてくれないか。
貴女の力について教えて欲しいんだけど……いいかな。
『本契約でいいのかな? もし私と一緒に旅に出てくれるなら、魔力を込めてみて。まだリスタと装備者契約が済んでいないから』
言われた通り、盾……メイに魔力を流し込む。人と顔を合わせて話すわけじゃないからか、メイとの会話はとても気軽で緊張もしない。私の魔力をメイに流すことで、メイからの力が私に流れ込んでくるような感覚になる。……そして、その力がすさまじい。
「うっ……ぐぅぅぅぅぅぅぅ!!」
私は地面に膝をつく。身体中の血管に激痛が走り、頭が割れそうになる。今までにない苦痛に意識が飛びそうになった時、痛みが嘘のように引いた。
「な、なにこれ……?」
『ふふふ、すごいでしょう? これで契約は完了。痛くしてごめんね。怖がらせちゃうと思って言えなかったの』
メイは得意げに笑う。これが……伝説の力……? かつてないほど思考がすっきりとしていて、力が沸き上がってくる。
「これからよろしくね、メイ」
『こちらこそ、リスタ。よろしく!』
メイ……聞いていいかな。どうして、この森で祀られていたの?
『それはまだ教えてあげられないかな』
そっか。じゃあ……これからどうしたい?
『とりあえず、魔物との実戦かな。君がどれくらいの腕前か知らないと、私の力をどこまで解放していいか分からないし』
それは確かにメイの思う通りなのだが、この森には魔物がいない。そういえば、その理由をメイは知っているのかな?
『私が結界を張っていたからかなぁ。やたらめったに魔物が来たら私も嫌だし』
なるほど……。じゃあ、この森を出た方がいいのかな。
「じゃあ、行こうか」
『よろしくね、リスタ』
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