1 / 3
#1 世界樹の巫女
しおりを挟む
「お嬢ちゃん、そろそろだよ」
馬車の揺れに微睡んでいると、御者台から声がかけられた。どうやら目的地が近付いてきたらしい。
「にしたって、どうしてお嬢ちゃんみたいな若い娘が一人で旧魔王領に?」
そう、私の目的地は長らく魔王が支配していた領地。砂と岩石の大地、アレテートだ。
「まぁ、色々あって」
そう言いながら私は日除けに着ていたマントのフードを脱いで御者さんに素顔を晒す。
「あ、あんたは……いや、貴女様は世界樹の巫女殿じゃありませんか!? む、なら尚更どうしてお一人で……」
私、植野弥茶は日本で茶農家の娘として生まれ、園芸部で花を愛でる普通の女子高生だった。あの日も学校帰りに友達とコンビニに立ち寄って……そこでアクセルとブレーキを間違え暴走した車に押しつぶされて命を落とした。それを思い出したのは、この世界で世界樹の巫女に選ばれた時だった。
あらゆる生命の根源とされる世界樹、その生命エネルギーを狙って独占しようとしていたのが、荒廃した土地で魔族を統治していた魔王だった。世界樹は危機を察し、世界樹のお膝元にあるユグドール王国に根を伸ばし、新芽から一振りの杖を生み出した。そしてその杖が選んだのが私だったのだ。
紆余曲折あって魔王を討ち滅ぼした私の次なるお仕事が、魔王領の統治というわけだ。
「一人で移動した方がなにかと気楽ですから」
そう言って御者に小金貨1枚を握らせる。運賃だけなら大銀貨二枚でも充分だが、その五倍も持たせれば口止め料としても通用するだろう。
「お、お達者で……」
すごすごと帰る御者を見送りながら、私は旧魔王城を目指して歩き出す。魔王の死後、統率の取れなくなった一部の魔物が暴れており、その掃討戦に参加している冒険者も多数見かけられるが、私に気付く者は多くない。だが、要所要所に詰めているユグドール王国の騎士たちは私が通ると一礼する。彼らは私の見張り役でもあるのだろう。
「ご苦労」
城に掛かる橋の前にいる番兵に挨拶して登城する。場内には敗戦を受け入れた魔族たちが奔走している。魔族と一口に言ってもヤギに似たツノが生えている一般的にイメージする悪魔に似たデーモン種族、額に一本角が生えたオルグ種族、ヴァンパイア種族やサキュバス種族なんかもいるのだが……。
「お待ちしておりました、巫女殿」
私にとって最も身近なのはアルラウネ種族だ。彼女たちは世界樹の枯れた枝葉から生まれたと伝わる種族で、先の人魔対戦では絶対中立を掲げ、戦後は講和のためによく働いてくれている。
うっすら緑みがかった肌を除けばほぼ人間の女の子と同じ姿をしているのだが、服を着る文化がないせいで、同じ女性といえど非常に目のやり場に困る。
「ネリネ、久しぶり」
髪飾りのように咲いた花の色と形で、ふわりと近づいてきた彼女がネリネだと気づく。アルラウネ種族も一枚岩というわけではないらしく、巫女派と族長派という二大派閥があるという。彼女は巫女派の長で私の秘書みたいに動いてくれている。
「もうじきエーリス様が来ます。さぁ、玉座へ」
「いいのかなぁ。私が玉座に座っても……」
エーリスというのは私が倒した魔王の一人娘で、彼女からすれば私は親の仇なのだが……。思い起こすのは二か月ほど前、私が初めてエーリスと出会った日のことだ。
馬車の揺れに微睡んでいると、御者台から声がかけられた。どうやら目的地が近付いてきたらしい。
「にしたって、どうしてお嬢ちゃんみたいな若い娘が一人で旧魔王領に?」
そう、私の目的地は長らく魔王が支配していた領地。砂と岩石の大地、アレテートだ。
「まぁ、色々あって」
そう言いながら私は日除けに着ていたマントのフードを脱いで御者さんに素顔を晒す。
「あ、あんたは……いや、貴女様は世界樹の巫女殿じゃありませんか!? む、なら尚更どうしてお一人で……」
私、植野弥茶は日本で茶農家の娘として生まれ、園芸部で花を愛でる普通の女子高生だった。あの日も学校帰りに友達とコンビニに立ち寄って……そこでアクセルとブレーキを間違え暴走した車に押しつぶされて命を落とした。それを思い出したのは、この世界で世界樹の巫女に選ばれた時だった。
あらゆる生命の根源とされる世界樹、その生命エネルギーを狙って独占しようとしていたのが、荒廃した土地で魔族を統治していた魔王だった。世界樹は危機を察し、世界樹のお膝元にあるユグドール王国に根を伸ばし、新芽から一振りの杖を生み出した。そしてその杖が選んだのが私だったのだ。
紆余曲折あって魔王を討ち滅ぼした私の次なるお仕事が、魔王領の統治というわけだ。
「一人で移動した方がなにかと気楽ですから」
そう言って御者に小金貨1枚を握らせる。運賃だけなら大銀貨二枚でも充分だが、その五倍も持たせれば口止め料としても通用するだろう。
「お、お達者で……」
すごすごと帰る御者を見送りながら、私は旧魔王城を目指して歩き出す。魔王の死後、統率の取れなくなった一部の魔物が暴れており、その掃討戦に参加している冒険者も多数見かけられるが、私に気付く者は多くない。だが、要所要所に詰めているユグドール王国の騎士たちは私が通ると一礼する。彼らは私の見張り役でもあるのだろう。
「ご苦労」
城に掛かる橋の前にいる番兵に挨拶して登城する。場内には敗戦を受け入れた魔族たちが奔走している。魔族と一口に言ってもヤギに似たツノが生えている一般的にイメージする悪魔に似たデーモン種族、額に一本角が生えたオルグ種族、ヴァンパイア種族やサキュバス種族なんかもいるのだが……。
「お待ちしておりました、巫女殿」
私にとって最も身近なのはアルラウネ種族だ。彼女たちは世界樹の枯れた枝葉から生まれたと伝わる種族で、先の人魔対戦では絶対中立を掲げ、戦後は講和のためによく働いてくれている。
うっすら緑みがかった肌を除けばほぼ人間の女の子と同じ姿をしているのだが、服を着る文化がないせいで、同じ女性といえど非常に目のやり場に困る。
「ネリネ、久しぶり」
髪飾りのように咲いた花の色と形で、ふわりと近づいてきた彼女がネリネだと気づく。アルラウネ種族も一枚岩というわけではないらしく、巫女派と族長派という二大派閥があるという。彼女は巫女派の長で私の秘書みたいに動いてくれている。
「もうじきエーリス様が来ます。さぁ、玉座へ」
「いいのかなぁ。私が玉座に座っても……」
エーリスというのは私が倒した魔王の一人娘で、彼女からすれば私は親の仇なのだが……。思い起こすのは二か月ほど前、私が初めてエーリスと出会った日のことだ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
ゲーミング自殺、16連射アルマゲドン
LW
ファンタジー
ゲーム感覚で世界を滅ぼして回ろう!
最強ゲーマー女子高生による終末系百合ライトノベル。
「今すぐ自殺しなければ! 何でも構わない。今ここで私が最速で死ぬ方法はどれだ?」
自殺癖持ちのプロゲーマー、空水彼方には信条がある。
それは決着したゲームを最速で完全に清算すること。クリアした世界を即滅ぼして即絶命する。
しかも現実とゲームの区別が付いてない戦闘民族系ゲーマーだ。私より強いやつに会いに行く、誰でも殺す、どこでも滅ぼす、いつでも死ぬ。
最強ゲーマー少女という災厄が異世界を巡る旅が始まる。
表紙イラスト:えすけー様(@sk_kun)
表紙ロゴ:コタツラボ様(@musical_0327)
#ゲーマゲ
俺の旅の連れは美人奴隷~俺だって異世界に来たのならハーレムを作ってみたい~
藤
ファンタジー
「やめてください」「積極的に行こうよ」「ご主人様ってそういう人だったんだ」様々な女の子とイチャイチャしながら異世界を旅して人生を楽しんでいこう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる