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第四章 冥王決定戦篇

月明かりの下で

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コロシアムを去る俺に刺さる視線。その主は、予選で会った剣士ディアンスだった。

「よお、お互い勝ち進んでいるみたいだな」

声をかける俺を無視して立ち去ろうとするディアンス。あいつに何かしたか?

「クライトはん!」

そんな疑問を抱いた俺の耳に、サリアの声が届いた。その時同時に、ディアンスの足音が止まった。俺のもとに駆け寄るサリア。ディアンスはサリアにも一瞥をくれ、そのまま結局立ち去った。……俺とサリアの関係を見るような視線だった。いったい、何者だ? 予選の時と明らかに雰囲気が違う。

「なぁ、サリア。ディアンスという名前に覚えは?」
「はて? なんのことや」

知らないようだな。

「いるんだろう? ヘルミナ」

コロシアムの円柱の陰にいるヘルミナに声をかける。

「随分と魔力を消耗したな?」
「まぁな。それでも一応、魔力の探知くらいなら出来るぞ」
「それはもう、魔法じゃなくて君が持つ技術だからね」
「まぁ、どうでもいい。お前はディアンスという名前に覚えはあるか?」

俺の質問にヘルミナは少し間を置いてから、

「魔神の僕だが、全ての存在を知り尽くしているわけではない。それこそ、絶対神ニ柱でも把握しきってはいないだろう。まぁ、いずれ分かるんじゃないか?」
「それもそうか。取り敢えず、宿に戻るか」

冥都タルタシアの街を歩く俺たちに、視線が集まる。まぁ、冥王決定戦のベスト4なのだから、それくらいは当然か。ひょっとしたらこの中に、後の冥王に取り入ろうなんて考えを持っているものもいるのやもしれぬな。そんな群集の中に、見覚えのある水色の長髪が見えた。

「カナン!」
「ん? あぁ、クライト。ガルドスの牙から剣を作るの、もう少し時間がかかりそうだ。馴染みの鍛冶屋と細工師が凝り始めちゃって。とんでもない業物になるのは間違いないわ」
「そうか。竜の牙から作った剣を振るうなんて、勇者みたいだな。もっとも、俺は勇者とは相容れない存在っぽいけどな」

ちょっと自嘲気味に零すセリフにヘルミナが口を開く。

「女神から極光なんて力を貰っておきながら、よくもまぁそんなこと言えるね」
「まぁ、そのくらい言わせてもらうさ。こちとら一度死んだ身だからな」

 一度死なねば冥王にはなれないのか。

「ヘルミナ、お前が俺を道連れにしたのは……」
「まぁ、上の指示だな。……お前が冥王になれば否が応でも会うことになるだろうさ」

 俺とヘルミナの会話をカナンが不審な目で見る。

「クライト……そいつ誰?」
「あぁ、なんつったら良いんだ? ……気にしないでくれ」

 魔神だって言って信じて貰えるかは分からんし。取り敢えずうやむやにしてしまった。カナンもあまり深くは聞くことなく、自分のねぐらへと戻っていった。

「そろそろ戻るとしよう」

 そう言ってヘルミナも宿へと向かった。一人残され、俺はふと唯燈に会いたくなってしまった。冥界で日付の感覚なんて薄れてしまったとはいえ、これほど長い間……唯燈と離ればなれだったことがないはずだ。

「無事で居てくれれば、それでいいんだが……」

 タルタシアの上空には、ただただ冷たく月が光るだけだった。
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