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第四章 冥王決定戦篇

冥王決定戦 予選

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 とうとう俺の出場する予選ブロックが行われる日となった。

「ちょっとズルい気もするけれど、僕の魔力を3割ほど託すよ」
「ウチからは魔力掌握インスタント用の御札を何枚か」

 冥都にあるコロシアムのエントランスにいる俺を、ヘルミナとサリアが見送る。ヘルミナが俺の胸を拳で小突くと、俺の中に莫大な魔力が流れてきた。これで3割って、現役の絶対存在は各が違うな。
 そして、サリアが俺に渡したのは札。俺が扱えない魔法反射の術や敵にデバフをかける術の札をもらった。
 ちなみに、剣も槍も振っていない昨日は、サリアと一緒にこの魔力掌握用の札作りをしていた。制作にかなりの魔力を要するが、一度魔力を空っぽにした方が回復しながら総量が増えるからと、かなりの枚数を作った。詠唱破棄に対応しない強力な術を札に封じ込めるのは大変な作業だったが、まさに切り札として使える頼もしいものとなった。

「じゃ、行ってくるよ」
「頑張りな」
「ご武運を」

 観客席へ向かうサリアとヘルミナと別れ、黒コートを翻しながら出場者ゲートへ向かう。杖の状態のクロディアンを担ぎ、コロシアムへ向かう。

『さぁ予選も終盤。第88グループの戦闘だ! 1500分の3。さぁ、生き残って見せろ! 他の存在を掻き消しても! さぁ、戦いの火蓋は切って落とされた。予選第88グループ、始め!!』

 騒々しい実況の声と銅鑼が響きわたり、1500もの有象無象が闘志を顕にする。明らかに魔物の姿をしたもの、ゴブリンのような亜人、そして人間。血で血を洗う激戦が始まった。
 コロシアムは広いが参加者1500によって埋め尽くされている。序盤はじっくり詠唱なんてしていられない。そう思いながら、自分で作った札を使ってみる。

魔力掌握インスタント、ネクロハウリング!!」

 怨霊のように禍々しい魔力で敵を殲滅する闇属性の中級範囲術。ヘルミナの魔力が加わり威力がブーストされている。

「放て、大いなる力を秘めし豪雷の剣。エレキオーバー!!」

 ネクロハウリングといった範囲系の魔術は、目隠しとしても使える。さくさくと詠唱することで、参加者は存在を失ったり、コロシアムの外周へ飛び込んで自ら棄権したりしていく。

「貴様か、さっきの魔術師は!?」

 と言いながら巨大な刀を振り下ろす牛頭の魔物には、クロディアンで脛へ一撃入れて怯ませてから、

「魔力掌握、コールドハンマー!!」

 脳天へ氷でできた大槌をぶつけた。それでも倒れるだけで存在を残す魔物を、風属性の術で外周へ落す。殺さず―存在を奪わず―に勝利することは不可能だと分かっているが、別に死屍累々の上で冥王として君臨したいわけじゃない。
 だから、止めを刺されそうな参加者を風で吹き飛ばすくらい、したっていいと思うんだ。

「詠唱破棄、ゲイルスラスト! 連鎖魔術、クリムゾンサークル!!」

 そうは言いつつ、手加減なんて出来ないけど。

「竜巻よ、天の剣とし災いたる一撃を解放せよ! サイクロンブレード!」

 風でできた巨大な剣を真っ直ぐ振り下ろす。直撃すれば即死な風属性の上級単体術。対象を定めて放った術ではないため、近くに居た参加者を大量に吹き飛ばした程度だろう。

「この魔術野郎め!!」

 騎士風な参加者が俺を目掛けて剣を振り下ろす。

「詠唱破棄、リジェクトウォール! 連鎖魔術、アクセルフォース!!」

 リジェクトウォールで攻撃を防がれ、体勢を崩したその男を強化した腕力に任せてクロディアンでバッティング。コロシアムの壁に叩きつけられた彼はそのまま外周へ落下した。

『第88グループも残す参加者は100。残るのは一体誰だ!?』

 徐々に参加者は減り、俺をターゲットにする敵も増えた。筋力強化魔法であるアクセルフォースの適用中とはいえ、杖だけで接近戦をこなすのもしんどい頃だ。いっそのこと……。

「光降り注ぎ雨とならん。ホーリィレイン!!」

 超広範囲の光属性中級魔術。どうにもこうにも、魔術に耐性がある参加者もいる気がしてきた。だが、ホーリィレインには相手に関係なくダメージを与えられる力がある。だからこそ、この術を先のヘルミナ戦でも使用したのだ。

「ぬがぁ……」
「っく……」

 剣闘士のような者から六本腕の剣士まで、多く残っていた二足歩行が可能な参加者は次々と片膝を着いた。この絶好の機を逃すものか!

「聖なる氷の礫、邪を打ち払い氷結の時を迎えよ! アイシクルホーリー!!」

 コロシアムの中心へ向かいながら詠唱したこの氷と光の複合術式。俺が中央に着くと同時に完成し、放射状に光の加護がされた氷礫が飛び散る。若干名、回避したり武器で弾き返したりする人外がいたが、多くの参加者が氷の礫をくらい、外周へ走り出した。いくつかの存在が途中で消えてしまったが、それを悔いている時間もない。残る参加者は9。しかも、俺が真ん中にいるせいで、自然と囲まれてしまった。

「かなりの強者、汝の名は?」

 そんな中、俺の真正面にいた六本腕の剣士。あのアイシクルホーリーを片膝のまま打ち下とした正真正銘の人外である。そいつが俺の名を尋ねてきた。

「我が名はクライト・ディアライト!」

 俺が名乗るのを聞き終えると、

「拙者は剣鬼。その首もらいうける!」

 六本腕の剣士も剣鬼と名乗り、俺に右上腕の剣で斬りかかってきた。後ろにも敵がいる以上、迂闊にバックステップなどできない。だから、

「陽槍展開!! 空閃連槍! 疾風付与、嵐空瞬連槍らんくうしゅんれんそう!」

 これに乗じて攻勢に出るほかの敵への牽制も兼ねて、横回転を伴う槍の技を繰り出した。予選くらいは魔術だけで勝ち抜きたかったが、そんなに甘くはないらしい。そしてその槍技に風属性を付与して放ったのが嵐空瞬連槍だ。技のスピードとリーチが飛躍的に強化されている。

「拙者もここまでか……無念」

 そう言って技をもろにくらった剣鬼は存在を失った。後ろからも何者かが倒れるような音が三つした。

「ぼさっとしてんじゃねえ!!」

 真左より少し後方から刃の厚い斧を振り下ろしてきた大男を、槍でいなして魔術で吹き飛ばす。

「ウオオ!!」

 シンプルな槍を持って突撃してくるオークのような獣人は、槍を躱してから同じく魔術で吹き飛ばした。

『そこまで! 残った三名は魔術師クライト、剣士ディアンス、竜族ガルドスだ!!』

 予選終了のアナウンスが場内に響いた。そういえば、この放送技術はどうなっているのだろうか。それはさておき、

「トーナメントまで首を洗って待っておけ」

 そう言って去っていった青年がディアンスか。殺気を隠そうともしない。

「私は竜族のガルドス。貴公の魔術は素晴らしい。また身を以って味わいたいものだ」

 服装自体は一般的な青年のようだったが、千切れた袖から覗く竜の鱗と、口を開いた時に見えた牙、そして何よりも彼の持つ獰猛なオーラがそれを否定する。

「俺の名はクライト。魔術師を名乗っているが、白兵戦も苦手ではない」
「それは楽しみだよ。では」

 勝ち残った三者は別々の出入り口へ向かい、そこで決勝トーナメントの組み合わせ抽選をする。

「箱からボールを一つ、取り出してください」

 まるでスポーツのトーナメントのように、決められていく殺し合いの相手。俺の初戦の相手はまだ確定していなかった。まぁ、その方が気負わずにすみそうだ。そう思いながら、俺はコロシアムを出た。
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