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第三章 冥界篇

サリアと模擬戦

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 タルタシアで一夜を過ごし、冥王決定戦の開会式を迎えた。当然ながらサリアとヘルミナは出場しないので、俺だけで参加している。周りには異形のものばかり。人の形をしたものこそ、かえって危険な感じもするが。俺の初戦は一週間後らしい。参加者がやたら多いため、一回戦でかなり時間を使わざるをえない。
 ただ、冥界では不老となるため、衰える心配はないらしい。ただし、この世界で死ぬと、存在を失うことになる。転生の神であるラトリス神の加護を得られなくなることで、転生の機会をなくすということだ。
 まぁ、左の神様こと創世を司るカナタ神が生命の総量をきっちり定めているから、失われる存在があるのも仕方がないことだ。それはさておき、冥界といっても一つの世界だ。街もあれば洞窟もある。海もあれば、山もある。職人もいるし、商人もいる。他の世界との差なんて、いつも月が輝いていることだけだ。藍色の空と真紅の月、なかなか雅やかな光景だと思う。真っ赤な空と黒い雲という空模様だった魔神域の方が、よっぽど冥界っぽかった。さらにヘルミナの話しによると、天界は冥界と正反対で曙光輝く朝の世界らしい。
 そんなことを思いながら、槍を振るう。最初から手の内を全て晒すのは避けたい。出来れば、槍も使わず魔術だけで殲滅したい。

「ふん! せいっ」

 槍を振り回しながら技のモーションを確認したり込める魔力量を調整する。長丁場になる戦闘だからこそ、無駄な消耗を抑える技術が必要になる。今までとは違う戦い方をしなければならない。

「クライトはん、一つ手合わせしやしませんか?」
「そうだね、軽くだよ?」
「えぇ。暴食の槍!!」

 既に見たことのあるフォークみたいな槍。俺も槍形態のクロディアンを構える。簡単なルールの確認を済ませ、間合いを取る。久々にサリアの戦いを見る。

「さぁ、始めようか!」
「せら!」
「よっと」

 槍同士がぶつかる音が響く中、久々に見るサリアの技の対処法を考えていた。

裂転槍れってんそう! 空閃連槍くうせんれんそう!!」

 横に振り回された槍から連続して縦回転を伴う技へ繋ぐ。とはいえ、それもサリアのフォーク状の槍に阻まれる。

扇鷹槍せんようそう!」

 扇を描くように振りぬかれた槍も、黒の魔法陣に阻まれた。すると、

「発射!!」

 先ほど攻撃からの防御に使われた魔法陣からビームのようなものが出てきたのだ。

詠唱破棄クイックスペル、リジェクトウォール!!」

 地面から迫り出した岩の壁が攻撃を防ぐ。

「隙が出来ましたね?」

 すっと背後に移動していたサリアの一撃をギリギリとところでガード。

「あらら、クライトはんってば反射速度上がりました?」
「分からんな。とはいえ、実戦はそれなりにこなしてきたからな」
「さようですか。なら、もう少し本気を出してもかまやしませんね?」

 ……え?

「はぁぁ!!」
「うぐぅ!」

 一気に踏み込みまれ放たれた一撃は今までより重く、押された俺の足元は抉れている。

「こうなったら、アクセルフォース!!」

 体力強化の術を施し負けじと踏み込む。

斬牙槍ざんがそう! 光照付与! いけ、光槍斬牙こうそうざんが!!」

斬撃から刺突へ続く基本技に光属性を付与し、追加で放つ。光属性の魔力により攻撃威力と範囲が広がっている。

「やはり強くなっとりますな、クライトはん。ウチの負けやわ」
「やぁやぁやぁ、見ごたえあったよ」

サリアと握手を交わしていると鷹揚な声音でヘルミナが話しに入ってきた。

「よぉ。どこにいたんだよ?」

 試合中姿を見せなかったヘルミナに問いかける。

「僕とて魔神域に一人でいるわけじゃない。少しだけ部下に仕事を託してきた」
「……え、部下とかいたの?」
「いただろう? 君だって眠りに落とした二人のことくらい覚えている筈さ」
「あーあーあ。いたなぁ。他には?」

 要塞みたいな魔神の寝床で警備をしていた二人組を思い出す。あっという間に眠りに落ちてしまったが。

「魔神域とて一つの世界だ。君が行かなかった場所には街だってあったんだよ」
「そうなのか、サリア?」
「せやで。母はそこの生まれなんや」
「ふーん。それじゃ、今日はもう休むとするか」

タルタシアの宿屋に戻る。ここの宿屋は決定戦の参加者から宿代を取らないから、タダで寝泊りしている。無論、サリアとヘルミナは有料だが。魔神と魔王の娘のコンビにはお金がかなりあるらしい。というか、その辺は気にするなといわれてしまった。自分の出番までかなり時間はある。明日はどうしようか、そんなことを考えながら、夕食に手を伸ばすのだった。
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