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一日目、夜
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せっけんはあったけどシャンプーらしきものはなかったので、ひとまず全身を石鹸で洗い、桶で湯舟からお湯をすくってかける。シャワーがないのは少し不便だなぁ。ちょっとしたじょうろみたいなものでも作れれば、それをシャワー代わりにするんだけど。
とはいえ多少の不便は異世界らしさを満喫する上でむしろ醍醐味という感じだ。のんびりと入浴を満喫した私はバスタオルで身体をささっと拭き、髪の毛の水気も丁寧に拭っていく。少し大きめのワンピースを着てベッドルームに向かう。
スキンケアやヘアケアは道具がなくてできないけれど、ストレッチとかは何もなくてもできるので、それらを軽くこなしていく。これまでは駅から少し離れた場所に住んでいたから、会社までの往復で少しは運動になっていたけど、これからはきっと農作業でもっと身体を動かすだろう。筋肉痛にならないよう、少しずつ身体を慣らしていかないと。
「これ前の人が残した日記かな……?」
日に焼けないよう厚手の布で作られたカバーをかけられていた本棚。収められているのは私的な日記もあれば、植物の観察日記のようなものもある。料理のレシピもあるようだ。
「ここから急に字体が変わるってことは……前に住んでいたのは一人じゃないね。先々代の住人がいたんだ。これは私も書いてみようかな」
幸いこの部屋には書き物ができそうな机と椅子、そして文箱が置いてある。
日記はおろかブログもまともに書いたことない私だけど、いつか誰かが読むかもしれない、急に異世界に来て不安になるかもしれない、でもそんな人に、私が最初に見たあのメモのように、安心できる一助になったらいいなと思ってペンをとる。
「異世界転移、一日目。不思議な妖精さんたちに助けてもらいながら、料理をして、お風呂に入って、日記をつけている。……万年筆とかガラスペンとか使ったことないから、こうしてインクで字を書くのは、けっこう難しい。滲むし」
正直、家の中を散策しても探検っていう感覚が強くて、あまり引き出しとか収納扉みたいなところは開けられなかった。突然誰かから怒られるんじゃないか、みたいな緊張感があったせいだ。
この後、ベッドで寝て起きたら現実に戻っている……みたいなことを怖がっている自分がいる。まったくよく分からない異世界で過ごすこと以上に、あの現実の日々に戻ることが自分は嫌なんだなと今更ながら自覚した。
明日は家の周辺をより詳しく散策しようと思う。夕食前に妖精さんと散歩したのは家の正面ばかりだったから、ぐるっと一周見渡しつつ、自分の足でこの周辺を探索してみよう。
初日だからと気合を入れて長文を書くと今後続けるが億劫になりそうだから、日記はほどほどのところで切り上げる。
「……明るいままじゃ寝られないよね。妖精さん、明るくしてくれてありがとうね。今日はもうおやすみ」
私の思いが通じてか、妖精さんたちは明かりを灯す石からふわりと離れて、机の下に集まり始めた。部屋がぱっと暗くなるものの、妖精さんたちはほのかに光っていて、なんだか星みたいだ。
目を閉じればすっと眠気に包まれ、私は眠りに就いた。
とはいえ多少の不便は異世界らしさを満喫する上でむしろ醍醐味という感じだ。のんびりと入浴を満喫した私はバスタオルで身体をささっと拭き、髪の毛の水気も丁寧に拭っていく。少し大きめのワンピースを着てベッドルームに向かう。
スキンケアやヘアケアは道具がなくてできないけれど、ストレッチとかは何もなくてもできるので、それらを軽くこなしていく。これまでは駅から少し離れた場所に住んでいたから、会社までの往復で少しは運動になっていたけど、これからはきっと農作業でもっと身体を動かすだろう。筋肉痛にならないよう、少しずつ身体を慣らしていかないと。
「これ前の人が残した日記かな……?」
日に焼けないよう厚手の布で作られたカバーをかけられていた本棚。収められているのは私的な日記もあれば、植物の観察日記のようなものもある。料理のレシピもあるようだ。
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幸いこの部屋には書き物ができそうな机と椅子、そして文箱が置いてある。
日記はおろかブログもまともに書いたことない私だけど、いつか誰かが読むかもしれない、急に異世界に来て不安になるかもしれない、でもそんな人に、私が最初に見たあのメモのように、安心できる一助になったらいいなと思ってペンをとる。
「異世界転移、一日目。不思議な妖精さんたちに助けてもらいながら、料理をして、お風呂に入って、日記をつけている。……万年筆とかガラスペンとか使ったことないから、こうしてインクで字を書くのは、けっこう難しい。滲むし」
正直、家の中を散策しても探検っていう感覚が強くて、あまり引き出しとか収納扉みたいなところは開けられなかった。突然誰かから怒られるんじゃないか、みたいな緊張感があったせいだ。
この後、ベッドで寝て起きたら現実に戻っている……みたいなことを怖がっている自分がいる。まったくよく分からない異世界で過ごすこと以上に、あの現実の日々に戻ることが自分は嫌なんだなと今更ながら自覚した。
明日は家の周辺をより詳しく散策しようと思う。夕食前に妖精さんと散歩したのは家の正面ばかりだったから、ぐるっと一周見渡しつつ、自分の足でこの周辺を探索してみよう。
初日だからと気合を入れて長文を書くと今後続けるが億劫になりそうだから、日記はほどほどのところで切り上げる。
「……明るいままじゃ寝られないよね。妖精さん、明るくしてくれてありがとうね。今日はもうおやすみ」
私の思いが通じてか、妖精さんたちは明かりを灯す石からふわりと離れて、机の下に集まり始めた。部屋がぱっと暗くなるものの、妖精さんたちはほのかに光っていて、なんだか星みたいだ。
目を閉じればすっと眠気に包まれ、私は眠りに就いた。
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