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アンソロジー
美味しいもの食べよ Side:叶美×紅葉×かおり 立成17年2月
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毎週金曜日、わたし水藤叶美は二人の恋人を寮の自室に招いて一緒にお夕飯を食べている。恋人同士になってからだから、もう半年以上経つ。そんな中で、今日の料理はこれまでで最高の出来だと自負している。
「紅葉ちゃん、かおりちゃん、お待たせ。今日のカレーは最高に美味しいから、食べて食べて」
二人にそう促して、手を合わせていただきますを言う。二人ともすぐにスプーンでカレーを一掬い。
「「美味しい!」」
二人のその表情で、今日のカレーの出来がわたしの思い込みでないことが分かって安心。わたしも食べ始める。味見の時でもけっこう衝撃的な美味しさだったから、本当に凄い。
「野菜の甘みがしっかり伝わってくるというか……コクが初めて味わうものです」
「いつもも美味しいのにもっと美味しい! すごい、魔法みたい」
「これ、何か特別なものが入っているとか……?」
食べたいという欲求と、この美味しさへの好奇心がせめぎあって、食べては気になり、また食べては自分の考えをわたしに言うなど、ちょっとだけせわしなく食べ進め、結局は食欲に負けてすっかり食べきってしまった。まぁ、わたしもなんだけど。
「実はね、寮の厨房に新しいお鍋が入ったの。ホーロー鍋っていうんだけど、知ってる?」
「いえ。どういう鍋なのでしょう?」
「旅立っちゃうの?」
「……その放浪じゃないかな」
ホーロー鍋というのは金属の鍋にガラス質の薬品を塗ったもので、重くて耐久性に難があるものの焦げ付きにくくガラス特有の遠赤外線によって煮込み料理の味が格段に上がるもの。しかも今回、寮に導入されたのは隣県で作られた無水調理の出来る国産のホーロー鍋だ。もともと料理は好きだったけど、ここ半年で調理器具にまでけっこうこだわるようになった。しかもその国産ホーロー鍋の出来るまでのドキュメンタリーを見てしまってまさしく欲していた代物だったのだ。それが何の因果か寮に実際に導入された。数ヶ月待ちになることもザラなので、私が欲しがる前から予約されていたのだろう。渡りに船とはこのこと、喜び勇んでカレーを結構な量作っちゃったから一部はタッパーに入れて寮の共用冷蔵庫に入れたくらいだ。共用キッチンにある青いメモ用紙に、作った人・日にちを書いて添えると、それは共用になる。ちなみに、赤いメモ用紙を添えると、食べないでくださいっていう意思表示になる。
「あはは、ちょっと語りすぎたね」
「いえいえ、私もその鍋を使ってみたくなりました」
紅葉ちゃんがそう言ってくれてわたしも嬉しい。明日は土曜日だし、一緒にキッチンに立つこともできる。メニューをぼんやり考えて、煮物やスープとなるとうまく決まらない。
「ポトフ!」
「ポトフがいいの? じゃあそうしよっか」
かおりちゃんの鶴の一声で、明日のメニューも決まった。あとはじゃあ考えることもないし、みんな歯を磨いて……。カレーにちょっとニンニクも入れてあるから、プラシーボ効果かもしれないけど元気なんだよね。何がどうとは言わないけどさ。
「紅葉ちゃん、かおりちゃん、お待たせ。今日のカレーは最高に美味しいから、食べて食べて」
二人にそう促して、手を合わせていただきますを言う。二人ともすぐにスプーンでカレーを一掬い。
「「美味しい!」」
二人のその表情で、今日のカレーの出来がわたしの思い込みでないことが分かって安心。わたしも食べ始める。味見の時でもけっこう衝撃的な美味しさだったから、本当に凄い。
「野菜の甘みがしっかり伝わってくるというか……コクが初めて味わうものです」
「いつもも美味しいのにもっと美味しい! すごい、魔法みたい」
「これ、何か特別なものが入っているとか……?」
食べたいという欲求と、この美味しさへの好奇心がせめぎあって、食べては気になり、また食べては自分の考えをわたしに言うなど、ちょっとだけせわしなく食べ進め、結局は食欲に負けてすっかり食べきってしまった。まぁ、わたしもなんだけど。
「実はね、寮の厨房に新しいお鍋が入ったの。ホーロー鍋っていうんだけど、知ってる?」
「いえ。どういう鍋なのでしょう?」
「旅立っちゃうの?」
「……その放浪じゃないかな」
ホーロー鍋というのは金属の鍋にガラス質の薬品を塗ったもので、重くて耐久性に難があるものの焦げ付きにくくガラス特有の遠赤外線によって煮込み料理の味が格段に上がるもの。しかも今回、寮に導入されたのは隣県で作られた無水調理の出来る国産のホーロー鍋だ。もともと料理は好きだったけど、ここ半年で調理器具にまでけっこうこだわるようになった。しかもその国産ホーロー鍋の出来るまでのドキュメンタリーを見てしまってまさしく欲していた代物だったのだ。それが何の因果か寮に実際に導入された。数ヶ月待ちになることもザラなので、私が欲しがる前から予約されていたのだろう。渡りに船とはこのこと、喜び勇んでカレーを結構な量作っちゃったから一部はタッパーに入れて寮の共用冷蔵庫に入れたくらいだ。共用キッチンにある青いメモ用紙に、作った人・日にちを書いて添えると、それは共用になる。ちなみに、赤いメモ用紙を添えると、食べないでくださいっていう意思表示になる。
「あはは、ちょっと語りすぎたね」
「いえいえ、私もその鍋を使ってみたくなりました」
紅葉ちゃんがそう言ってくれてわたしも嬉しい。明日は土曜日だし、一緒にキッチンに立つこともできる。メニューをぼんやり考えて、煮物やスープとなるとうまく決まらない。
「ポトフ!」
「ポトフがいいの? じゃあそうしよっか」
かおりちゃんの鶴の一声で、明日のメニューも決まった。あとはじゃあ考えることもないし、みんな歯を磨いて……。カレーにちょっとニンニクも入れてあるから、プラシーボ効果かもしれないけど元気なんだよね。何がどうとは言わないけどさ。
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