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アンソロジー
甘い物日和 Side:叶美×紅葉×かおり 立成16年9月
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秋――あちこちで木々の葉が色づき、真夏の暑さが遠のき涼しい風が頬を撫でる季節。それは、まさに収穫祭の季節であった。
「と言うわけで、お姉さま。これに行きましょう」
夏休みも終わり、いつも通りの日々を取り戻しつつも秋の小連休に胸が高鳴る九月の中旬。東海地方某所に位置する中核都市、空の宮市に位置する私立星花女子学園、その寮の一室に水藤叶美、城咲紅葉、北川かおりの三人が集まっていた。
「ケーキバイキング?」
学年も部活もバラバラな三人だが、こうして集まり、どこかへ出掛けるのは彼女らが紆余曲折あって三人で恋仲だからだ。
「茶道部の先輩にもらったんですけど、どうでしょう?」
「ケーキいっぱい食べられる?」
かおりを膝枕しながらチラシに目を配る叶美。一番のお姉さんとしてデートの行き先の決定権を委ねられることの多い叶美だが、今回は特に頭を悩ませる。もちろん甘い物が好きな叶美としては嬉しい話だ。とはいえ、つい二週間ほど前に十七歳の誕生日を迎えた叶美は、親友からマカロン、所属するイラスト部からケーキ、最愛の二人からはチョコレートとたくさんの愛を受け取っている。目の前の二人に恥じない自分でいようと密かな努力はしているが、ウエスト事情はなかなか逼迫しており、親友からは幸せ太りか? だの、お子さんの予定は? なんて言われる始末。前者はともかく後者には流石の叶美も怒りはしたが。
「かなみちゃん?」
返事が決まらない叶美にかおりが声をかける。無垢な瞳で見つめられると、叶美は自分のことより彼女らの思いを優先しようと思った。
「かおりちゃんはケーキバイキング行きたい?」
「うん!」
「じゃあ行こっか。連休の初日でいいかな?」
頷く二人の笑顔を見て、叶美もまた笑みを浮かべた。
ケーキバイキングをやっている店までは、最寄り駅である学園通り駅から私鉄で南下し、ターミナル駅の空の宮中央駅で乗り換えてまたしばらく下ると着く。開店までまだ少し時間があるというのに既に何人もの人が並んでいた。ドレスシャツにウエストの締め付けが弱いスカートをあわせた叶美を先頭に、ワンピースにカーディガンを羽織った紅葉と、甘ロリチックな服装のかおりが続いて並ぶ。
「一巡目には間に合わないかなぁ」
「座席数はけっこうあるそうですが、ここまで多いと……」
「お腹空かせる時間が増えてよかったと思うよ?」
ポジティブなかおりの発言に二人も頬を緩める。90分食べ放題ということで一時間と少し待たされ、二巡目として席へ案内された三人。一杯目はサービスというドリンクで、叶美はココアを、紅葉はレモンティーを、かおりはミルクを頼んで三人は大ぶりの皿を片手にケーキを取りに席を立った。並べられたスイーツは秋ということもあり、サツマイモや栗をふんだんに使ったものや、ぶどうや梨のゼリーやタルト、また、冬の果実と思われがちなミカンも旬は秋ということで、多くのデザートが並べられている。
「どれも美味しそうで何から食べようか悩んじゃうね」
「最初は自分の好物かさっぱりしたものがいいそうですよ」
この日のためにケーキバイキングのコツなるものを調べた紅葉が、ショートケーキ、苺のムース、チーズスフレ、抹茶のシフォンなどをコンパクトに皿に盛る。
「いっぺんに乗せると視覚から満腹になってしまうのでこまめに盛るのもコツだそうです」
なるほどと思いつつ、普段はどこか大人びた紅葉も甘い物にここまで目を輝かせるのかと思うと、そんな姿がどこか子供っぽくて微笑ましい気持ちに叶美はなっていた。
「じゃあ、まずはシュークリームと……季節もので、この辺を。モンブランもいいかも」
プチシューがメインで山盛りにしないよういくつか取って、さつまいものタルトや和栗のモンブランを取っていく。そうして席に戻ると、かおりが皿一杯に盛ったケーキをぱくぱくと食べ始めていた。
「ふふ、可愛いなあ。わたしも食べよっと」
叶美が持ってきたプチシューのクリームにもいくつかバリエーションがあり、甘さも控えめで食べやすい。
「お姉さま、クリームがついていますわよ」
紅葉がそう言って紙ナプキンで叶美の口元を拭う。恥ずかしそうに笑う叶美がふとかおりに目をやると、かおりのもちもちのほっぺにもクリームがついていた。
「っちゅ」
「かなみちゃん?」
叶美の行動にかおりは首をかしげ、紅葉は少しだけ呆れるような表情になった。
「お姉さまもなんと言いますか……慣れましたわね」
「?」
紅葉の反応を不思議がりつつも、またケーキを食べ出す叶美。三人はそれぞれ心ゆくまでケーキを食べ、時折サイドメニューのパスタやサラダにも舌鼓を打ち90分を過ごした。秋の昼下がりの、いたって平和な一日であった。
「と言うわけで、お姉さま。これに行きましょう」
夏休みも終わり、いつも通りの日々を取り戻しつつも秋の小連休に胸が高鳴る九月の中旬。東海地方某所に位置する中核都市、空の宮市に位置する私立星花女子学園、その寮の一室に水藤叶美、城咲紅葉、北川かおりの三人が集まっていた。
「ケーキバイキング?」
学年も部活もバラバラな三人だが、こうして集まり、どこかへ出掛けるのは彼女らが紆余曲折あって三人で恋仲だからだ。
「茶道部の先輩にもらったんですけど、どうでしょう?」
「ケーキいっぱい食べられる?」
かおりを膝枕しながらチラシに目を配る叶美。一番のお姉さんとしてデートの行き先の決定権を委ねられることの多い叶美だが、今回は特に頭を悩ませる。もちろん甘い物が好きな叶美としては嬉しい話だ。とはいえ、つい二週間ほど前に十七歳の誕生日を迎えた叶美は、親友からマカロン、所属するイラスト部からケーキ、最愛の二人からはチョコレートとたくさんの愛を受け取っている。目の前の二人に恥じない自分でいようと密かな努力はしているが、ウエスト事情はなかなか逼迫しており、親友からは幸せ太りか? だの、お子さんの予定は? なんて言われる始末。前者はともかく後者には流石の叶美も怒りはしたが。
「かなみちゃん?」
返事が決まらない叶美にかおりが声をかける。無垢な瞳で見つめられると、叶美は自分のことより彼女らの思いを優先しようと思った。
「かおりちゃんはケーキバイキング行きたい?」
「うん!」
「じゃあ行こっか。連休の初日でいいかな?」
頷く二人の笑顔を見て、叶美もまた笑みを浮かべた。
ケーキバイキングをやっている店までは、最寄り駅である学園通り駅から私鉄で南下し、ターミナル駅の空の宮中央駅で乗り換えてまたしばらく下ると着く。開店までまだ少し時間があるというのに既に何人もの人が並んでいた。ドレスシャツにウエストの締め付けが弱いスカートをあわせた叶美を先頭に、ワンピースにカーディガンを羽織った紅葉と、甘ロリチックな服装のかおりが続いて並ぶ。
「一巡目には間に合わないかなぁ」
「座席数はけっこうあるそうですが、ここまで多いと……」
「お腹空かせる時間が増えてよかったと思うよ?」
ポジティブなかおりの発言に二人も頬を緩める。90分食べ放題ということで一時間と少し待たされ、二巡目として席へ案内された三人。一杯目はサービスというドリンクで、叶美はココアを、紅葉はレモンティーを、かおりはミルクを頼んで三人は大ぶりの皿を片手にケーキを取りに席を立った。並べられたスイーツは秋ということもあり、サツマイモや栗をふんだんに使ったものや、ぶどうや梨のゼリーやタルト、また、冬の果実と思われがちなミカンも旬は秋ということで、多くのデザートが並べられている。
「どれも美味しそうで何から食べようか悩んじゃうね」
「最初は自分の好物かさっぱりしたものがいいそうですよ」
この日のためにケーキバイキングのコツなるものを調べた紅葉が、ショートケーキ、苺のムース、チーズスフレ、抹茶のシフォンなどをコンパクトに皿に盛る。
「いっぺんに乗せると視覚から満腹になってしまうのでこまめに盛るのもコツだそうです」
なるほどと思いつつ、普段はどこか大人びた紅葉も甘い物にここまで目を輝かせるのかと思うと、そんな姿がどこか子供っぽくて微笑ましい気持ちに叶美はなっていた。
「じゃあ、まずはシュークリームと……季節もので、この辺を。モンブランもいいかも」
プチシューがメインで山盛りにしないよういくつか取って、さつまいものタルトや和栗のモンブランを取っていく。そうして席に戻ると、かおりが皿一杯に盛ったケーキをぱくぱくと食べ始めていた。
「ふふ、可愛いなあ。わたしも食べよっと」
叶美が持ってきたプチシューのクリームにもいくつかバリエーションがあり、甘さも控えめで食べやすい。
「お姉さま、クリームがついていますわよ」
紅葉がそう言って紙ナプキンで叶美の口元を拭う。恥ずかしそうに笑う叶美がふとかおりに目をやると、かおりのもちもちのほっぺにもクリームがついていた。
「っちゅ」
「かなみちゃん?」
叶美の行動にかおりは首をかしげ、紅葉は少しだけ呆れるような表情になった。
「お姉さまもなんと言いますか……慣れましたわね」
「?」
紅葉の反応を不思議がりつつも、またケーキを食べ出す叶美。三人はそれぞれ心ゆくまでケーキを食べ、時折サイドメニューのパスタやサラダにも舌鼓を打ち90分を過ごした。秋の昼下がりの、いたって平和な一日であった。
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