星空の花壇 ~星花女子アンソロジー~

楠富 つかさ

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アンソロジー

意外な誕生日プレゼント Side:万和×友庭 立成19年8月

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 立成19年の8月8日。私、木代万和の15度目の誕生日だ。和菓子屋生まれ和菓子屋育ちの私が、洋菓子の代表であるケーキを食べるのは年に五回。兄姉の誕生日と、自分自身の誕生日だけだ。

「万和ももう十五歳か。どうだ? いい人の一人や二人、いないのか?」

 十五歳の頃にはもう母と付き合っていたらしい父にそんなことを言われた。

「女子校でそんな、無いってば」

 友庭さんとの関係が切れてざっくり半年。両親には隠していたこともあり、私ははぐらかすようなことを口にした。

「あたしはそうでもなかったけどねぇ?」

 百香姉さんが私のほうを見やる。大学生になった姉は、お盆も近いということで帰省している。一応、店の手伝いだってしてくれてはいる。私も中学三年だが、一貫校ということもあり受験対策の心配もないから店番にはけっこう立っている。

「いや、あんたは一人や二人の騒ぎじゃなかったでしょうが。全く、誰に似たのやら。まさか、あなた?」
「おいおい、俺じゃねえよ。互いに初恋だったじゃないか?」
「どうでしょうね。私があなたとお付き合いを始めてから、どれだけ同級生にちくちく言われたことか」

 母は一途に父を思って結婚にこぎつけたらしい。わりと一美姉さんにもその血が受け継がれているように思える。私は多分、どっかで道を踏み外してしまっている。しばらく父と痴話喧嘩を繰り広げていた母が、不意に私の方を見る。

「そうそう、あんたにお届け物があったよ。水戸さんから」
「お? 友庭かな? めっずらし-。何であたしじゃなくて万和なの?」

 にやついた表情の姉を無視して、食後に私はそのお届け物の中身を確認することにした。……背後に姉を引き連れたまま。曰く、人の誕生日にプレゼントをするようなヤツじゃないからとのこと。
 私の前回の誕生日は確かに友庭さんに祝ってもらっていない。だがそれは付き合い始める前のことだから……まぁ仕方ないと思っていた。祝って貰えるなら、たとえもう彼女の関係じゃないとしたって嬉しい。

「重そうな箱だね。開けてみなよ」
「もう、百香姉さんには関係ないでしょ」
「いいじゃん別に。同級生が妹にプレゼントする物の中身が気になるのは姉として当然っていうか~」

 この姉、大学生になってからますますチャラついているような気がする。東京都からの荷物、その封を開けると……。

「これは……」
「っぷ、いやぁ。あいつらしいわ」

 箱の中身は水だった。ペットボトルに詰められた東京都の水道水。昨今、美味しくなっているなんていうのはニュースで見たことあるけれど、霊峰の麓である空の宮市の水には勝てないだろう。友庭さんだったら、それぞれの良さとかを語り出すのだろうけど、生憎ながら私の舌はそこまで鋭敏じゃない。

「グラス二種類持ってきてよ」
「んぁ? 姉をパシるのか。しゃーないな。片っぽに水道水入れてくりゃいいんでしょ?」

 話が早くて助かる。
 その後、実際に飲み比べてみたが違いはよく分からなかった。けれど、よく分からなかったということは、東京都の水も確かに美味しくなっているのかもしれない。友庭さんらしい誕生日プレゼントだったなぁという以上の感情は湧かなかった。
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