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アンソロジー
届かぬ恋路に桜吹雪 Side:果奈&志保 立成16年4月
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「わたし、中学受験したの。星花女子に通うことになったわ」
小学校を卒業するまでのゆったりとした時間。普段と変わらない日々がまだまだ続くのだと、私は思っていたのに。親友は私から離れていってしまうようだ。
「あそこ、遠いよ?」
「寮に入ることにしたの」
「じゃあ……会えないの? もう会えないの?」
「ごめんね。みいちゃん」
「やだよ。しほちゃんに会えないのやだよ!! なんで言ってくれなかったの? 受験するって言ってくれたら……」
「でも……みいちゃんちは……」
しほちゃんが俯いた。そう、私の家が貧乏だから……。だから、しほちゃんともお別れなんだ……。
「もう知らない! しほちゃんなんて大っ嫌い!!」
「あんなこと……言っておきながら。なんで私はここにいるんだろう」
立成16年の春、私――桃井果奈は私立星花女子学園の入学式に参列していた。美人の生徒会長に、年齢を感じさせない理事長先生、壇上に立つ華やかな人たちの言葉を聞きながら、気分は晴れない。みいちゃんと呼ばれていた頃、三池姓だった私はもういない。シングルマザーだった母は病に倒れ、二年前に息を引き取った。天涯孤独に陥りかけた私を救ってくれたのが今の母である桃井さんだ。母の学生時代の恋人で、母が私を懐妊した時に大げんかした相手でもあるらしい。何度も支援を申し出たらしいが、強情な母は全て断った。……もし、差し伸べられた手を取っていれば、まだ生きられたかもしれないのに。ばりばりのキャリアウーマンかつ母に操をたて独身を貫く桃井さんに、好きな高校を選んでいいと言われ、ふと口をついた校名がここだった。選んだ学科は商業科、寮生活を望んだ。
「これにて入学式を終了します。新入生は順に教室へお戻りください」
この学校では普通科が一から四組、商業科が五組、服飾科が六組に割り振られている。入学式の新入生退場は一組から順に進む。その行列の中に、彼女を……仲谷志保の姿を見た。当然と言えば当然だ。なにせ彼女は中等部からこの学校に通っているのだから。それ以上に驚いたのは三年会わなかったにもかかわらず、すぐに彼女だと判断できたこと。品のあるその姿は何も変わっておらず、それでいて大人びた美しさに拍車がかかっていた。そしてなによりも……彼女が誰かと手を繋いでいたこと。指をからめて、自分を委ねるように。……昔は、私と繋がっていた彼女の手はもう、私以外を選んだんだ。当然のことだ、なにせ三年間全く会っていなかったのだから。星花は全寮制じゃない。帰ろうと思えばいつでも帰れたのに……。五組も退場となり、講堂から出た私の目にとまったのは、幾分か散ってしまった桜の花であった。
小学校を卒業するまでのゆったりとした時間。普段と変わらない日々がまだまだ続くのだと、私は思っていたのに。親友は私から離れていってしまうようだ。
「あそこ、遠いよ?」
「寮に入ることにしたの」
「じゃあ……会えないの? もう会えないの?」
「ごめんね。みいちゃん」
「やだよ。しほちゃんに会えないのやだよ!! なんで言ってくれなかったの? 受験するって言ってくれたら……」
「でも……みいちゃんちは……」
しほちゃんが俯いた。そう、私の家が貧乏だから……。だから、しほちゃんともお別れなんだ……。
「もう知らない! しほちゃんなんて大っ嫌い!!」
「あんなこと……言っておきながら。なんで私はここにいるんだろう」
立成16年の春、私――桃井果奈は私立星花女子学園の入学式に参列していた。美人の生徒会長に、年齢を感じさせない理事長先生、壇上に立つ華やかな人たちの言葉を聞きながら、気分は晴れない。みいちゃんと呼ばれていた頃、三池姓だった私はもういない。シングルマザーだった母は病に倒れ、二年前に息を引き取った。天涯孤独に陥りかけた私を救ってくれたのが今の母である桃井さんだ。母の学生時代の恋人で、母が私を懐妊した時に大げんかした相手でもあるらしい。何度も支援を申し出たらしいが、強情な母は全て断った。……もし、差し伸べられた手を取っていれば、まだ生きられたかもしれないのに。ばりばりのキャリアウーマンかつ母に操をたて独身を貫く桃井さんに、好きな高校を選んでいいと言われ、ふと口をついた校名がここだった。選んだ学科は商業科、寮生活を望んだ。
「これにて入学式を終了します。新入生は順に教室へお戻りください」
この学校では普通科が一から四組、商業科が五組、服飾科が六組に割り振られている。入学式の新入生退場は一組から順に進む。その行列の中に、彼女を……仲谷志保の姿を見た。当然と言えば当然だ。なにせ彼女は中等部からこの学校に通っているのだから。それ以上に驚いたのは三年会わなかったにもかかわらず、すぐに彼女だと判断できたこと。品のあるその姿は何も変わっておらず、それでいて大人びた美しさに拍車がかかっていた。そしてなによりも……彼女が誰かと手を繋いでいたこと。指をからめて、自分を委ねるように。……昔は、私と繋がっていた彼女の手はもう、私以外を選んだんだ。当然のことだ、なにせ三年間全く会っていなかったのだから。星花は全寮制じゃない。帰ろうと思えばいつでも帰れたのに……。五組も退場となり、講堂から出た私の目にとまったのは、幾分か散ってしまった桜の花であった。
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