29 / 61
アンソロジー
卒業(3) Side:世音&莉那 立成18年3月
しおりを挟む
これは余にとって叶うはずのない初恋が終わりを迎えた時の記憶。
立成18年3月、高等部三年生の卒業式に余は参加していた。全校生徒が集うのだから当然ではあるが、余は風紀員として生徒会本部役員と共に誘導やら警備やら雑務に追われていた。片付けもそうだ。以前は生徒会役員だけで済ませられたらしいが、人手不足の波がここまできているらしい。
「ふむ、ようやく全て片付いたな」
「お疲れ、諸君」
後片付けを終えた風紀委員が委員会室へ戻ると、そこには盛大に見送られたばかりの三年生しかも前風紀委員長――櫻井莉那先輩が革張りの椅子に腰掛け出迎えたのだ。余がマスターと仰ぎ慕ってきたユースティティア様はあろうことか余の手を取って委員会室を抜け出した。咄嗟のことに地をボロボロと露見させながら何かを口にしていたはずだけれど、何を口走ったかさっぱり覚えていない辺り、緊張がよく分かる。
「ここがいいだろう」
桜吹雪が舞い、あたりに誰も人のいない空間はともすれば青春の甘酸っぱさが感じられるかもしれないが、マスターの漆黒のマントが余にとっては荘厳な空間にいると思わせた。しかしマスターはその黒の邪神たる所以と言えるマントを脱いでしまわれたのだ。
「マスター・ユースティティア、いったい何を?」
「世音は誰よりもわたしを慕ってくれた。短い時間だったけれど、君がサーヴァントになってくれたことをすごく嬉しく思う」
「それは……世音は先輩に憧れて、かっこいいって思って、だから先輩に近付きたくて……。嫌だった自分の苗字に誇りを持てるようになって、全部先輩が好きだから!」
まだまだ未熟な”余”の思いがあふれ出てしまって、先輩を困らせてしまった。
「ごめんね。君の気持ちは分かってた。応えてあげられないのに。でも、そんな君にこそ託したいんだ」
そういってマスターが余の肩に、ずっと身に着けていた――それこそ卒業式でも外さなかったマントを着けてくれた。何者にも染まらない漆黒のマントは、マスターの矜持を写す鏡のようで、ずっと憧れていた。それを自分が身に纏っていると思うと、嬉しさ以上になんだか重い責任がのしかかっているように思えた。
「ユースティティアは卒業なの。これからはしがらみに縛られて生きる人生、そんなことを言ったら君は失望する? マント、よく似合っているよ」
「マスターと契りを結んだこと、一生忘れません」
「じゃあ最後に……。マスター、黒の邪神ユースティティアの名において命ず。サーヴァント荒神世音との主従契約を解消し、汝に再びの自由を授ける! 貴女の正義を信じなさい」
「……はい! ありがとうございました!!」
再び転機が訪れるのは、この卒業式から一ヶ月が経つか否かという頃だった。
立成18年3月、高等部三年生の卒業式に余は参加していた。全校生徒が集うのだから当然ではあるが、余は風紀員として生徒会本部役員と共に誘導やら警備やら雑務に追われていた。片付けもそうだ。以前は生徒会役員だけで済ませられたらしいが、人手不足の波がここまできているらしい。
「ふむ、ようやく全て片付いたな」
「お疲れ、諸君」
後片付けを終えた風紀委員が委員会室へ戻ると、そこには盛大に見送られたばかりの三年生しかも前風紀委員長――櫻井莉那先輩が革張りの椅子に腰掛け出迎えたのだ。余がマスターと仰ぎ慕ってきたユースティティア様はあろうことか余の手を取って委員会室を抜け出した。咄嗟のことに地をボロボロと露見させながら何かを口にしていたはずだけれど、何を口走ったかさっぱり覚えていない辺り、緊張がよく分かる。
「ここがいいだろう」
桜吹雪が舞い、あたりに誰も人のいない空間はともすれば青春の甘酸っぱさが感じられるかもしれないが、マスターの漆黒のマントが余にとっては荘厳な空間にいると思わせた。しかしマスターはその黒の邪神たる所以と言えるマントを脱いでしまわれたのだ。
「マスター・ユースティティア、いったい何を?」
「世音は誰よりもわたしを慕ってくれた。短い時間だったけれど、君がサーヴァントになってくれたことをすごく嬉しく思う」
「それは……世音は先輩に憧れて、かっこいいって思って、だから先輩に近付きたくて……。嫌だった自分の苗字に誇りを持てるようになって、全部先輩が好きだから!」
まだまだ未熟な”余”の思いがあふれ出てしまって、先輩を困らせてしまった。
「ごめんね。君の気持ちは分かってた。応えてあげられないのに。でも、そんな君にこそ託したいんだ」
そういってマスターが余の肩に、ずっと身に着けていた――それこそ卒業式でも外さなかったマントを着けてくれた。何者にも染まらない漆黒のマントは、マスターの矜持を写す鏡のようで、ずっと憧れていた。それを自分が身に纏っていると思うと、嬉しさ以上になんだか重い責任がのしかかっているように思えた。
「ユースティティアは卒業なの。これからはしがらみに縛られて生きる人生、そんなことを言ったら君は失望する? マント、よく似合っているよ」
「マスターと契りを結んだこと、一生忘れません」
「じゃあ最後に……。マスター、黒の邪神ユースティティアの名において命ず。サーヴァント荒神世音との主従契約を解消し、汝に再びの自由を授ける! 貴女の正義を信じなさい」
「……はい! ありがとうございました!!」
再び転機が訪れるのは、この卒業式から一ヶ月が経つか否かという頃だった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

AV研は今日もハレンチ
楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo?
AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて――
薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

さくらと遥香(ショートストーリー)
youmery
恋愛
「さくらと遥香」46時間TV編で両想いになり、周りには内緒で付き合い始めたさくちゃんとかっきー。
その後のメインストーリーとはあまり関係してこない、単発で読めるショートストーリー集です。
※さくちゃん目線です。
※さくちゃんとかっきーは周りに内緒で付き合っています。メンバーにも事務所にも秘密にしています。
※メインストーリーの長編「さくらと遥香」を未読でも楽しめますが、46時間TV編だけでも読んでからお読みいただくことをおすすめします。
※ショートストーリーはpixivでもほぼ同内容で公開中です。

【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて
千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、娘の幼稚園の親子イベントで娘の友達と一緒にいた千春と出会う。
ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。
ハッピーエンドになると思うのでご安心ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる