星空の花壇 ~星花女子アンソロジー~

楠富 つかさ

文字の大きさ
上 下
24 / 61
アンソロジー

卒業(2) Side:叶美×紅葉×かおり 立成18年3月

しおりを挟む
 三月一日、星花女子学園は卒業式を迎える。既に寮の部屋は引き払っており今日は実家から両親と一緒の登校だ。退寮する三年生が二月末にバザーをするのが寮生の定番なんだけど、わたしは参加しなかった。紅葉ちゃんが引き取ると言って聞かないからだ。わたしが三年間過ごした部屋で過ごしたいとも言っていたけれど、流石にそんな私的な理由で部屋を変われはしない。実家や新居に移した物も多いから写真立てと上着かけくらいしかあげられなかったけど。
 前に雪絵に対して、紅葉ちゃんはわたしに依存するほど弱い娘じゃないなんて言ったけど、やっぱりわたしが卒業するのは寂しいみたい。わたしだって寂しい。六年の星花生活だけど、思い出すのは高校二年の春以降……紅葉ちゃんやかおりちゃんと出逢ってからの思い出ばかりだ。もちろん、恵玲奈や雪絵と過ごした時間だって大切なんだけど、親友と恋人じゃやっぱり違うっていうか。
 卒業証書を受け取る時はやっぱり涙腺が熱くなった。そして伊ヶ崎理事長の挨拶、在校生の合唱、卒業生の合唱、全校生徒での校歌、生徒会長の御津さんが送辞を読み、卒業生を代表して江川さんが答辞を読む……式は粛々と進んであっという間に終わってしまった。



 クラスで記念写真を撮って解散になった。わたしたちは示し合わせたわけでもないのに揃っていた。

「叶美、恵玲奈、これからもよろしくね」
「「もちろん」」

 部活はバラバラだし、クラスが違うことも多かった。でも途切れなかったこの縁をわたしは一生忘れないんだろうなぁ。そう思うと最後の年に同じクラスだったのも縁かもしれない

「恵玲奈、探しましたよ……あぁ、水藤さんと佐伯さん。ごきげんよう」

 声をかけてきたのは恵玲奈のルームメイトの四方田恵さん。今年はクラスが一緒だったからついさっきぶりだ。

「写真、撮りましょうか?」

 桜を背景に、なんて付け足して七分咲くらいの桜の前で写真を撮ってもらった。交代で恵玲奈と恵さんの写真も撮っていると、

「四人で入れば? 卒業おめでとう、お姉ちゃん」

 見覚えのある女の子がすたすたとこっちに近付いてきた。

「星玲奈、あんた……髪」
「ちょっとあってねさ」

 西星玲奈ちゃんは恵玲奈の妹、かおりちゃんと同い年で恵玲奈や恵さんが主宰するお茶会にも一緒に参加しているらしい。思えばかおりちゃんの交友範囲は広い。わたしが狭いだけかもしれないけれど。

「違う自分になりたいのやもしれませんね。ところで、皆さんに私も加わっていいんですか?」
「いいじゃん、いいじゃん。撮ろうよ。星玲奈、お願い」

 星玲奈ちゃんに写真を撮って貰うと、今度は西姉妹をわたしが写真に収める。

「叶美ちゃん、撮ろうよ。ほら、紅葉ちゃんも」

 いつの間にか、紅葉ちゃんとかおりちゃんも集まっているし、須川さんや白雪さんの姿も見える。

 

 わたしの周りには、思っているより多くの人がいる。紅葉ちゃんとかおりちゃんの体温を両腕から感じながら、不意にそんなことを思った。




 ありがとう、楽しい六年間。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ゆりいろリレーション

楠富 つかさ
青春
 中学の女子剣道部で部長を務める三崎七瀬は男子よりも強く勇ましい少女。ある日、同じクラスの美少女、早乙女卯月から呼び出しを受ける。  てっきり彼女にしつこく迫る男子を懲らしめて欲しいと思っていた七瀬だったが、卯月から恋人のフリをしてほしいと頼まれる。悩んだ末にその頼みを受け入れる七瀬だが、次第に卯月への思い入れが強まり……。  二人の少女のフリだけどフリじゃない恋人生活が始まります!

【フリー台本】一人向け(ヤンデレもあるよ)

しゃどやま
恋愛
一人で読み上げることを想定した台本集です。五分以下のものが大半になっております。シチュエーションボイス/シチュボとして、声劇や朗読にお使いください。 別名義しゃってんで投稿していた声劇アプリ(ボイコネ!)が終了したので、お気に入りの台本や未発表台本を投稿させていただきます。どこかに「作・しゃどやま」と記載の上、個人・商用、収益化、ご自由にお使いください。朗読、声劇、動画などにご利用して頂いた場合は感想などからURLを教えていただければ嬉しいのでこっそり見に行きます。※転載(本文をコピーして貼ること)はご遠慮ください。

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

女子校に男子入学可となったので入学したら男子が俺しかいなかった話

童好P
恋愛
タイトルのまんまにするつもりです

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

処理中です...