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大食いガールズ
大食いガールズ(丼編) Side:みのり&雪乃 立成18年2月
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寒さの厳しい二月、世の中はバレンタインの話題でひっきりなしだし、料理部に所属する私も部活でチョコレートを作ったのだが、やはりこの時期はご飯が食べたい。空の宮には滅多に降らない雪のように真っ白なご飯を覆い尽くすような具材を載せた丼飯が食べたい。そう思った私はある休日に先輩と連絡を取り、電車に乗って二駅下り姫沼にやってきた。昔からご飯屋さんの多いこの地区は、実は私の両親が出逢い修行をした地区らしい。まぁ、私が生まれる頃には月見屋食堂を開いていたから私は詳しくしらないのだけれど。
そんな姫沼の駅から徒歩五分程度でその店は姿を現す。大衆食堂、沼五郎である。店内にあまり女性客はいないが最早私も先輩もそんなことは些末な問題であり、一番大事なのは提供される料理の量と質である。
「らっしゃい」
「五郎丼の特大を二つ」
注文はシンプルに。空いている席に座りしばらく歓談していると、
「来たね」
先輩は既に割り箸を割っていた。テーブルにずしんと重みを伝えながら登場したのは特大サイズのすり鉢。ご飯がみっちり詰まっているであろうそれは――であろうと言わざるをえないのは、そのご飯を覆い尽くす五品の料理。ソースカツと鶏の卵とじ、牛肉のすき焼き風、大エビを初めとする天ぷらの数々、そして照りの効いた焼き鳥。つまり一つの器に五つの丼、カツ丼、親子丼、牛丼、天丼、焼き鳥丼が同居しているのだ。総重量は4Kg強と聞く。
「ほら、みのりちゃんも食べなよ」
私がじっくりと眺めている間に既に先輩は食べ始めており、しかも1割くらいが消失していた。早い……。とにもかくにも私も割り箸を割り、まずはソースカツに箸を伸ばした。サクサクなとんかつ、部位はロース。ソースは甘口だがまったりというよりはさっぱりめ、柑橘のような爽やかさが感じられる。ご飯と一緒に食べ進めつつ、ふと親子丼の出汁でひたひたになったカツに目が留まる。カツとじのカツ丼派の私には嬉しいサプライズだった。カツの衣が出汁を吸いふわふわかつジューシーでさらにご飯が進む。
そのまま親子丼ゾーンを食べ進めるとふっくらとした食感の鶏肉の歯触りが実に良い。すり鉢を回しながら勢いよく食べ進めていく。ご飯の多さが気にならない程におかずが充実いている。またお漬け物が食べ放題というのも嬉しい。流石に脂っこくなった口の中がさっぱりして実にいい。
牛丼の牛肉にも一切の妥協がなく赤身のうまみとほどよい脂身が、これまた親子丼とは趣の違うすっきりした味わいの出汁によって口の中にダイレクトで旨味を伝えてくる。焼き豆腐やえのきといった具も味がきっちり染みており、抜群のコンビネーションだ。
さて、お肉の素晴らしさは重々伝わったが海鮮はどうなのか。エビと穴子、そして野菜の天ぷらが載せられた天丼ゾーンに箸をつける。サクッとした衣とフワッとした具の食感が素晴らしく、またタレのまったりとした甘みが実にいい。そして天丼と漬け物の相性もいい。
さぁなにげに最後に残した焼き鳥丼。大好物だ。焼き鳥は親子丼同様ふっくらとした食感かつジューシー。タレも天丼と同系統の甘くまったりとしたタレ、ざらめをふんだんに使っているのが伝わってくる。しかし後味のこのスッキリ具合は山椒によるものか。この味の引き締めが決して飽きさせない味になっており、瞬く間にご飯は消えていった。
「はぁごちそうさま」
大満足の私が合掌していると、先輩はとっくに食べ終えておりお茶を啜りながら満足げな笑みを浮かべていた。お会計は1人1800円。量と特に質を考えれば非常にお得な価格帯だろう。
「なんかデザート欲しい気分だなあ」
まだ食べるんですかと思いつつ、私はバッグから包みを取り出す。
「チョコレート食べます? 作ったやつなんですけど」
「えあ? あぁ、嬉しいけど……。望乃夏にはナイショね」
お互いに恋人がいるのに、こうして二人きりで出掛けることを許してくれる二人にはすごく感謝している。
「大丈夫です、望乃夏先輩の分もあるので」
「そっか。じゃあ、ありがたく貰うね。ありがと」
そんな姫沼の駅から徒歩五分程度でその店は姿を現す。大衆食堂、沼五郎である。店内にあまり女性客はいないが最早私も先輩もそんなことは些末な問題であり、一番大事なのは提供される料理の量と質である。
「らっしゃい」
「五郎丼の特大を二つ」
注文はシンプルに。空いている席に座りしばらく歓談していると、
「来たね」
先輩は既に割り箸を割っていた。テーブルにずしんと重みを伝えながら登場したのは特大サイズのすり鉢。ご飯がみっちり詰まっているであろうそれは――であろうと言わざるをえないのは、そのご飯を覆い尽くす五品の料理。ソースカツと鶏の卵とじ、牛肉のすき焼き風、大エビを初めとする天ぷらの数々、そして照りの効いた焼き鳥。つまり一つの器に五つの丼、カツ丼、親子丼、牛丼、天丼、焼き鳥丼が同居しているのだ。総重量は4Kg強と聞く。
「ほら、みのりちゃんも食べなよ」
私がじっくりと眺めている間に既に先輩は食べ始めており、しかも1割くらいが消失していた。早い……。とにもかくにも私も割り箸を割り、まずはソースカツに箸を伸ばした。サクサクなとんかつ、部位はロース。ソースは甘口だがまったりというよりはさっぱりめ、柑橘のような爽やかさが感じられる。ご飯と一緒に食べ進めつつ、ふと親子丼の出汁でひたひたになったカツに目が留まる。カツとじのカツ丼派の私には嬉しいサプライズだった。カツの衣が出汁を吸いふわふわかつジューシーでさらにご飯が進む。
そのまま親子丼ゾーンを食べ進めるとふっくらとした食感の鶏肉の歯触りが実に良い。すり鉢を回しながら勢いよく食べ進めていく。ご飯の多さが気にならない程におかずが充実いている。またお漬け物が食べ放題というのも嬉しい。流石に脂っこくなった口の中がさっぱりして実にいい。
牛丼の牛肉にも一切の妥協がなく赤身のうまみとほどよい脂身が、これまた親子丼とは趣の違うすっきりした味わいの出汁によって口の中にダイレクトで旨味を伝えてくる。焼き豆腐やえのきといった具も味がきっちり染みており、抜群のコンビネーションだ。
さて、お肉の素晴らしさは重々伝わったが海鮮はどうなのか。エビと穴子、そして野菜の天ぷらが載せられた天丼ゾーンに箸をつける。サクッとした衣とフワッとした具の食感が素晴らしく、またタレのまったりとした甘みが実にいい。そして天丼と漬け物の相性もいい。
さぁなにげに最後に残した焼き鳥丼。大好物だ。焼き鳥は親子丼同様ふっくらとした食感かつジューシー。タレも天丼と同系統の甘くまったりとしたタレ、ざらめをふんだんに使っているのが伝わってくる。しかし後味のこのスッキリ具合は山椒によるものか。この味の引き締めが決して飽きさせない味になっており、瞬く間にご飯は消えていった。
「はぁごちそうさま」
大満足の私が合掌していると、先輩はとっくに食べ終えておりお茶を啜りながら満足げな笑みを浮かべていた。お会計は1人1800円。量と特に質を考えれば非常にお得な価格帯だろう。
「なんかデザート欲しい気分だなあ」
まだ食べるんですかと思いつつ、私はバッグから包みを取り出す。
「チョコレート食べます? 作ったやつなんですけど」
「えあ? あぁ、嬉しいけど……。望乃夏にはナイショね」
お互いに恋人がいるのに、こうして二人きりで出掛けることを許してくれる二人にはすごく感謝している。
「大丈夫です、望乃夏先輩の分もあるので」
「そっか。じゃあ、ありがたく貰うね。ありがと」
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