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アンソロジー
白と黒 Side:榛那&燈&由佳里 立成17年4月
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私は今、自らの運命に感謝の念を抱かずにいられなかった。目の前に現れた美しい御髪、麗しきはその色……天使の翼のごとき純白。かようなまでの美しさは、かつて裏ルートで入手した前生徒会副会長である河瀬マノンさまのそれや、以前桜花寮の大浴場で浮いている一本を確保したおそらくはエヴァンジェリン・ノースフィールドさまのそれに匹敵する。優雅で儚くまるで幻のような、触れたら消えてしまいそうな美しさを湛えている。
私は何故この純白の君を知らずに一年を過ごしてしまったのだろう。思い立って黒板に貼られた座席表をもう一度確認する。クラス替えによる運命の出逢い……私の名前、二階堂榛那の真上にある名前は『常世野燈』
私は再び自分の席に戻り、声をかけるかかけまいか、逡巡していた。彼女の発する無言の圧が、声をかけるなと壁を形成しているように思えてならないのだ。だがしかし、かほどに美しい御髪の持ち主。きっと心根も美しいに決まっている。いざ、声を……。
「あの」
まさかの純白の君から声を!! なんということでしょう。これ幸い、速やかに打ち解けてその純白の髪を一本でも……。
「視線が痛いからどこか遠くを見ていていただけるかしら?」
「はい? え、えぇ。視線が不躾だったようでお詫び申し上げますわ」
私の謝罪には返答せず、再び正面を向く燈さま。問答無用というか有無を言わせぬ物言いに、ついつい言われた通りにしてしまう。とはいえ、あまりにも御髪が美しいせいで、まじまじと見つめてしまったなんて。もっと早々に声をかければ違った展開があったやもしれぬというのに。口惜しや。
少し遠くを眺めて……な、なんですと。二列窓側の席に座る長身の女性……その真っ直ぐと伸びる純黒の御髪、長い、なんて長いのでしょう。あのすらりとした身の丈を鑑みればおそらく髪の長さは1メートルかあるいはそれ以上。美しい。あまりにも美しい。かの君の御髪、是非ともその根元から……根元から欲しい。
私も一応、平均以上の背はあるけれど、目の前の燈さまといいかの君といい、このクラスは長身長髪の女性が多くて、私……幸せですわ。
そんな時、私の視線に気付いたのか彼女がこちらに歩いてきた。
「ねえ君、名前は?」
「二階堂榛那ですわ。貴女は?」
「如月由佳里、よろしくね。なんだか見られている気がして」
由佳里さまが首を傾げるために、その黒い絹糸のように美しい御髪がさらりと頬をさらう。前髪も美しい。
「髪、綺麗ですね。随分と手入れに時間を掛けているのが伝わります」
「ありがとう。そうね、切るのが惜しくて」
「分かりますわ! そんな美しい髪に鋏を入れるなんて無粋ですわ!」
「う、うん……? と、取り敢えず、よろしくね、榛那ちゃん」
あぁ、実にいい年になりそうですわ。
私は何故この純白の君を知らずに一年を過ごしてしまったのだろう。思い立って黒板に貼られた座席表をもう一度確認する。クラス替えによる運命の出逢い……私の名前、二階堂榛那の真上にある名前は『常世野燈』
私は再び自分の席に戻り、声をかけるかかけまいか、逡巡していた。彼女の発する無言の圧が、声をかけるなと壁を形成しているように思えてならないのだ。だがしかし、かほどに美しい御髪の持ち主。きっと心根も美しいに決まっている。いざ、声を……。
「あの」
まさかの純白の君から声を!! なんということでしょう。これ幸い、速やかに打ち解けてその純白の髪を一本でも……。
「視線が痛いからどこか遠くを見ていていただけるかしら?」
「はい? え、えぇ。視線が不躾だったようでお詫び申し上げますわ」
私の謝罪には返答せず、再び正面を向く燈さま。問答無用というか有無を言わせぬ物言いに、ついつい言われた通りにしてしまう。とはいえ、あまりにも御髪が美しいせいで、まじまじと見つめてしまったなんて。もっと早々に声をかければ違った展開があったやもしれぬというのに。口惜しや。
少し遠くを眺めて……な、なんですと。二列窓側の席に座る長身の女性……その真っ直ぐと伸びる純黒の御髪、長い、なんて長いのでしょう。あのすらりとした身の丈を鑑みればおそらく髪の長さは1メートルかあるいはそれ以上。美しい。あまりにも美しい。かの君の御髪、是非ともその根元から……根元から欲しい。
私も一応、平均以上の背はあるけれど、目の前の燈さまといいかの君といい、このクラスは長身長髪の女性が多くて、私……幸せですわ。
そんな時、私の視線に気付いたのか彼女がこちらに歩いてきた。
「ねえ君、名前は?」
「二階堂榛那ですわ。貴女は?」
「如月由佳里、よろしくね。なんだか見られている気がして」
由佳里さまが首を傾げるために、その黒い絹糸のように美しい御髪がさらりと頬をさらう。前髪も美しい。
「髪、綺麗ですね。随分と手入れに時間を掛けているのが伝わります」
「ありがとう。そうね、切るのが惜しくて」
「分かりますわ! そんな美しい髪に鋏を入れるなんて無粋ですわ!」
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あぁ、実にいい年になりそうですわ。
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