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アンソロジー
振り向かない Side:果奈&志保 立成16年5月
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星花女子学園に入学してから早くも一ヶ月が経とうとしていたその日、私――――桃井果奈は一人の生徒に声をかけられた。その声の主を私は知っている。だからこそ、振り向かずにまた歩み出したのだが……。
「今日こそ、話がしたいの」
彼女、仲谷志保は私の前に立ちふさがってどこうとしない。広々とした校舎の広々とした廊下、人一人を避けて通ることは非常にたやすい。これまでもそうして躱してきた。だが、今日の彼女はやけに意固地だった。私の手を取り、解こうとしない。
「離して……」
「嫌、久々に会えたのに、何で避けるの……!?」
何で避けるのとはまた驚いた。
「初めに避けたのはそっちじゃん。勝手に受験して私から離れて、連絡も一切せずに、それを避けてるって言わずになんて言うのさ! お母さんの葬儀にも来てくれなかった!!」
思っていた以上に感情的な声が出てしまったし、なにより母のことは言わずにいようと思っていたのに。
「みぃちゃん……その、私」
「その呼び方はやめて。もう、みぃちゃんなんて呼ばれるような……」
桃井になって二年経ってる。もう慣れたし、書き間違えたり言い間違えたりすることもなくなった。なのに、彼女を前にすると、どれだけ大人びようと私の知っている仲谷志保の前だと、昔の……何も出来ない弱い自分になってしまいそうだ。
「私、みぃちゃんと離れてから寂しくって、それで美夜に迷惑かけて、依存して……。会いに行かなかったり連絡をしなかったり、悪いと思ってたんだけど、その……今度は美夜に悪いって思って……」
美夜というのが、おそらく志保ちゃんの彼女の名前だろう。懐かれているような印象だったけれど、志保ちゃんから溺れていたんだ……。
「私は別に、もういいの。私は私らしく生きてくから」
「私は! みぃちゃんとまた一緒に居たい! 一番好きなのはみぃちゃんだから!」
「ふざけないで!!」
傲慢だ。志保ちゃんは心が弱いくせに傲慢なんだ。平手打ちなんてするもんじゃない。私の手だってひりひりと痛むのだから。
「私だって側にいてほしかった。でも志保ちゃんはここを受験した。今なら分かるよ、小母さんに言われたんでしょう? 小学校じゃモテモテだったもんね。虫がつかないよう早めに手を打ちたかったんでしょうよ。しかも、私が一番の害虫だって気付いてたんだ……きっと。私が、私が一番志保ちゃんのこと好きだったもん!」
こんな廊下の真ん中で何してるんだろう。まだ5月だよ、もう変な人扱い確定じゃん。逃げ出したい、全部から。
「みぃちゃん……私、その……ごめんなさい」
「……謝るのは私。ぶって、ごめんなさい。でも、その……美夜さん? だっけ。彼女のこと、大切にしてあげないと許さないから。あと、みぃちゃんて呼ぶの禁止。昔から寂しかったんだよ、名前で呼んで欲しかったのに。ねぇ、志保。果奈って呼んでよ」
「……果奈。ありがとう」
会わない時間が長ければ、それだけ思いはすれ違う。でも、こうして覚悟を決めればわだかまりなんて、あっという間に瓦解する。この後に喰らった平手打ちが、私と志保の仲直りの証だった。
「今日こそ、話がしたいの」
彼女、仲谷志保は私の前に立ちふさがってどこうとしない。広々とした校舎の広々とした廊下、人一人を避けて通ることは非常にたやすい。これまでもそうして躱してきた。だが、今日の彼女はやけに意固地だった。私の手を取り、解こうとしない。
「離して……」
「嫌、久々に会えたのに、何で避けるの……!?」
何で避けるのとはまた驚いた。
「初めに避けたのはそっちじゃん。勝手に受験して私から離れて、連絡も一切せずに、それを避けてるって言わずになんて言うのさ! お母さんの葬儀にも来てくれなかった!!」
思っていた以上に感情的な声が出てしまったし、なにより母のことは言わずにいようと思っていたのに。
「みぃちゃん……その、私」
「その呼び方はやめて。もう、みぃちゃんなんて呼ばれるような……」
桃井になって二年経ってる。もう慣れたし、書き間違えたり言い間違えたりすることもなくなった。なのに、彼女を前にすると、どれだけ大人びようと私の知っている仲谷志保の前だと、昔の……何も出来ない弱い自分になってしまいそうだ。
「私、みぃちゃんと離れてから寂しくって、それで美夜に迷惑かけて、依存して……。会いに行かなかったり連絡をしなかったり、悪いと思ってたんだけど、その……今度は美夜に悪いって思って……」
美夜というのが、おそらく志保ちゃんの彼女の名前だろう。懐かれているような印象だったけれど、志保ちゃんから溺れていたんだ……。
「私は別に、もういいの。私は私らしく生きてくから」
「私は! みぃちゃんとまた一緒に居たい! 一番好きなのはみぃちゃんだから!」
「ふざけないで!!」
傲慢だ。志保ちゃんは心が弱いくせに傲慢なんだ。平手打ちなんてするもんじゃない。私の手だってひりひりと痛むのだから。
「私だって側にいてほしかった。でも志保ちゃんはここを受験した。今なら分かるよ、小母さんに言われたんでしょう? 小学校じゃモテモテだったもんね。虫がつかないよう早めに手を打ちたかったんでしょうよ。しかも、私が一番の害虫だって気付いてたんだ……きっと。私が、私が一番志保ちゃんのこと好きだったもん!」
こんな廊下の真ん中で何してるんだろう。まだ5月だよ、もう変な人扱い確定じゃん。逃げ出したい、全部から。
「みぃちゃん……私、その……ごめんなさい」
「……謝るのは私。ぶって、ごめんなさい。でも、その……美夜さん? だっけ。彼女のこと、大切にしてあげないと許さないから。あと、みぃちゃんて呼ぶの禁止。昔から寂しかったんだよ、名前で呼んで欲しかったのに。ねぇ、志保。果奈って呼んでよ」
「……果奈。ありがとう」
会わない時間が長ければ、それだけ思いはすれ違う。でも、こうして覚悟を決めればわだかまりなんて、あっという間に瓦解する。この後に喰らった平手打ちが、私と志保の仲直りの証だった。
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