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アンソロジー

星花女子プロジェクト2周年記念短編

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 立成17年の6月。わたし、水藤叶美の周りにはいつの頃からか年下の女の子たちが集まるようになっていた。唯一の同級生も、主催するお茶会には年下の女の子ばかりが集まっているらしい。

「ご飯、どこ行く? 作るには人数多いし」

 そんな同級生、西恵玲奈に言われてはっと時計を見やる。もう八時近い。中間テストの勉強会を始めて既に二時間以上。参加しているのはわたし、水藤叶美と恋人の城咲紅葉ちゃんと北川かおりちゃん、親友の西恵玲奈と恋人の須川美海さん、恵玲奈が主催しているお茶会から蓮園緋咲ちゃんと君嶋知代ちゃんの7人だ。

「みのりちゃん家がいい!」
「あぁ、月見屋食堂さんね。ひーちゃんも賛成」

 かおりちゃんの提案に緋咲ちゃんも乗っかる形で、行き先は月見屋食堂さんになった。そう言えばわたしは行ったことなかったかも。

「学校の近くなんだよね。じゃあ行こっか」

 七人でぞろぞろと談話室をあとにし、通用口を抜けて商店街へ行く。月見屋食堂さんは商店街に入ってすぐの場所にあった。

「いらっしゃいませー」

 扉を開けると、澄んだ女の子の声がした。そして、

「みのりちゃーん!」

 かおりちゃんがダッシュで抱きついていた。なるほど、この娘がみのりちゃんね。クラスメイトなんだっけ。まぁ、かおりちゃんがフレンドリーなのは大体の人に対してそうだからしょうがないんだけど。

「七名様ですね。こちらへどうぞ」

 そんな彼女に通されたのは半個室のお座敷席だった。テスト前で部活動がお休みになっているせいか人が少ないとは、バドミントン部所属の緋咲ちゃんの言。座り位置はわたしの両隣に紅葉ちゃんとかおりちゃん。対面に奥から美海さん、恵玲奈、緋咲ちゃん、知代ちゃんという並びだ。お冷や、おしぼりと一緒に渡されたメニューをもらって見るとその多さに驚く。のんびりおしゃべりをしながらメニューを決めていく。

「注文お願いします」
「はーい」

 わたしのメンチカツ定食、かおりちゃんのエビフライ定食、紅葉ちゃんの味噌煮込みうどん、恵玲奈のエビのアヒージョセット、美海さんの鯖味噌定食、緋咲ちゃんのクリームパスタセット、知代ちゃんのオムライスセットを伝票に書き込んでいくみのりちゃん。注文を復唱して間違いがないことを確認してから厨房へ入っていく彼女の背中を見つつ、もしわたしだったらこれだけのメニューを処理するのにどれだけ時間がかかるだろうと考えていた。揚げ物は揚げる直前で用意があるとしても、アヒージョやうどんみたいに煮込むものや、オムライスみたいに作り置き出来ないものが時間を取るかも。これは流石にけっこう待たされるだろうと思っていた。

「恵玲奈は恵ちゃんに連絡してあるの?」
「それは大丈夫。ぬかりないよ」
「かおりちゃんは? ルームメイトの娘に遅くなるって言ってある?」
「あ! 言ってない! えっと……ケータイ置いて来ちゃった」

 がくっと項垂れるかおりちゃんを見て、緋咲ちゃんが赤いケースのスマホを取り出した。

「ひーちゃんから言っておくわ。その娘、クラスメイトだし」
「ありがと、ひーちゃん」

 紅葉ちゃんが高等部に上がり、かおりちゃんは寮部屋の配置換えで新しいルームメイトを迎えた。わたしはまだ会ったことないけど、一年生の時のクラスメイトだったらしくて、特に不自由はしていないようで安心している。一方の紅葉ちゃんは高校入試と同じ問題を使う中等部の最終テストで高順位につけ高等部の菊花寮に入寮した。わたしと一緒にいられる時間が増えて嬉しい反面、やっぱりかおりちゃんと離れるのは寂しいと言っていた。わたしも、一緒にいられるのは今年で最後だから、三人でいる時間を大事にしたいかな。

「失礼します。こちら、定食とセットの方にサラダをお持ちしました」

 サラダを六つ、お盆に載せてみのりちゃんがやってきた。さらにその奥からお母さんらしき女性がやってきて、

「定食の方にお味噌汁と、オムライスセットの方にスープ、アヒージョセットの方にパンのサービスです」

 てきぱきと食器をテーブルに置いておく女性。注文の時にどの位置に座っている人が何を注文したのか分かるよう書いたのか、それぞれ正確な場所に通された。ここまではまだすぐに出てくるサイドメニューだもんね、そう思っていた。すると、

「こちら味噌煮込みうどんです。大変お熱くなってますので、ご注意くださいね。続きまして、こちらがエビとホタテのクリームパスタです」

 まさに入れ替わり立ち替わりといった様相だった。配膳台にいくつか料理を載せてやってきたみのりちゃんが、うどんとパスタをテーブルに置くと一礼してさらに奥にあるお座敷席へと移動していった。当然のことながら、他にもお客さんがいるわけで……。やっぱり早い。お座敷席からは厨房の様子はうかがい知れないけれど、みのりちゃんのお父さんはどれほどの手際でこんな幅広い料理の注文を処理して調理をしているんだろう。料理のプロにまではなるつもりはないけれど……ちょっと気になる。

「冷めちゃうともったいないから、先に食べてていいよ」
「ありがとうございます。ではお先に、いただきます」
「そんなに待たされないと思うけどね。じゃ、ひーちゃんもいっただきます」

 そう言って食べ始める二人。

「緋咲ちゃんは、部活の後とかにここ、よく来るの?」
「ん。近くて美味しくて、お手頃で食べ応えがあって、しかも注文してからあまり待たされない。ここよりいい定食屋さんなんてそう多くはないんじゃないかしら」
「ほんとここ美味しいよね。美海もここの魚料理が大好きだもんね?」
「そうね。誰かさんの作った煮魚よりよっぽど」
「あはは。いやぁ、素人に魚料理は難しいよ」
「……気持ちは嬉しかったけど」

 照れてる二人をよそに、料理は次々と運ばれてくる。

「こちら、特製オムライスとエビのアヒージョになります」

 テーブルの上がどんどんと賑やかになっている。かおりちゃんと知代ちゃんはアヒージョを知らなかったようで、聞かれた恵玲奈が説明してあげている。次に美海さんの鯖味噌定食が届き、あとはわたしのメンチカツ定食とかおりちゃんのエビフライ定食だけだ。やっぱり揚げ物は時間かかるみたい。

「お待たせしました。こちらメンチで、こっちがエビフライです。どうぞごゆっくり」

 綺麗な円盤形のメンチカツが二つとたくさんの千切りキャベツ、その上に彩りで人参の千切りが少し、ポテトサラダとプチトマト、端にカットレモン。ソースとレモンをかけて箸で一口大に切り分けて口に運ぶと、衣のサクサク感とお肉のジューシーさがダイレクトに伝わってくる。美味しい。確かに美味しい。

「かなみちゃん、あーん」

 かおりちゃんが差し出すエビフライを一口もらう。食感がすごくよくって、タルタルソースとの相性もすごくいい。お礼にメンチカツをあーんしてあげる。

「えへへ。美味しい」
「よかったねぇ」

 みんなで食べるご飯は美味しい。みんなが笑顔で楽しい。そんな時間がゆったりと流れていた。
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