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アンソロジー
事件のようですね Side:美星×瑠奈 立成10年5月
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立成10年の初夏、三年生になり生徒会執行部でいられるのもあと数ヶ月といった時期になった私、佐倉美星と恋人の紫雲寺瑠奈が詰める生徒会室に一人の生徒がやってきた。
「あら、警部どのじゃない」
やってきたのは風紀副委員長の刑部誠ちゃん。両親が警察官で正義感に溢れる女の子。そんな家庭事情と苗字とをあれこれして警部なんてあだ名がつくほど、風紀委員でも活躍している。その活躍もあって、高等部一年に上がったばかりだけど副委員長に任命されたほどだ。
「……やや申し上げにくいのですが、その、フライングディスク部で乱交騒ぎが発生しまして」
「ら、乱交? 乱闘ではなく……?」
「乱闘であれば生徒会まで報告しませんよ。今は新條先輩が取り調べ中です。お二人にも加わっていただきたいのですが」
「構いませんわ。……にしても取り調べ担当に新條ですか。相良委員長は何を?」
乱交問題なんて少なくとも私の在学中には見聞きしてないし、校内でえっちして叱られる人はまあいるけど、そういった事案の対応は極力高等部の上級生が担当している。風紀委員長なんてまさしくこういった場面で仕事をしなければだというのに。
「あの人はその……純情拗らせているので……あはは」
スカート丈の鬼なんて呼ぶ人もいるらしい相良美織ちゃん。色事に不慣れなのは風紀委員長として幸か不幸か。そんなわけで人手不足そうな風紀委員のお手伝いに向かうことになった私と瑠奈ちゃん。後輩に留守と数枚の書類を託し部室棟に向かう。確かフライングディスク部は総勢8名の小規模部活。内訳は高三の部長と副部長、高二が一人、高一が三人で中三と二が一人ずつ。大規模な大会がないことから成果を上げられず部費削減のあおりをくらっている団体でもある。一先ずは刑部さんの指示に従って取り調べに加わるとしましょうか。
騒動の発覚から一夜、彼女ら八名の処遇は生徒会に委ねられた。もちろん先生方のチェックが何重にもされるけど、ある程度の自治権が生徒会にはあるためこういう体制になっている。一応、部員全員に昨日の時点で三日間の謹慎を言い渡してある。丁度、水木金の三日間。この間に正式な処分を取り決める。
一応、ことの発端を整理すると、もともとフライングディスク部は有名無実化しつつあった部活なのだが、経験者の現部長――私たちの同級生でもある大宮なずなちゃんが立て直した部で、他の部員は実質彼女のファンクラブのようなものだった。そんな中、彼女に心酔していた高一の生徒が特殊なアロマを焚き、理性で抑えきれずことに至ったようだ。他の部員もそんな彼女に追従してしまい、気付けば乱交状態。廊下にまで洩れた匂いと喘ぎ声から風紀委員に通報され発覚。
「アロマを持ち出した生徒については……提携校への転校を薦めざるを得ないわね。大宮が卒業すれば確かに再発はないでしょうけど、調書をまとめると大宮に対して全員というわけでもなく、彼女以外の生徒達でもことに至っている以上、隔離はしょうがないわね」
なずなちゃんには大学への推薦取消、副部長の内申にも当然のように悪影響が及ぶ。高二の生徒は寮を菊花から桜花に降格、高一のうち、アロマを持ち込んだ娘に転校要請、他二人は寮のルームメイトでもあったため部屋割の再編、中学生二人には外部進学を打診。また、フライングディスク部は取りつぶし。最終的な処分はこういう形に落ち着いた。他にはアロマの入手ルートとして浮上したモモアワセなるサイトについても調査報告が必要だという判断がされた。
「最後の大仕事ってところかしら?」
「そう……かもね。はぁ、好きだって気持ちを真っ直ぐに伝えたらよかったのに、どうしてアロマに手を出しちゃったんだろう。なんか、うーん」
少しもやもやとした気持ちを抱くけど、大好きな人が隣にいてくれることがどれだけ幸運なことかと考えると、やっぱり言葉には出来なかった。
「あら、警部どのじゃない」
やってきたのは風紀副委員長の刑部誠ちゃん。両親が警察官で正義感に溢れる女の子。そんな家庭事情と苗字とをあれこれして警部なんてあだ名がつくほど、風紀委員でも活躍している。その活躍もあって、高等部一年に上がったばかりだけど副委員長に任命されたほどだ。
「……やや申し上げにくいのですが、その、フライングディスク部で乱交騒ぎが発生しまして」
「ら、乱交? 乱闘ではなく……?」
「乱闘であれば生徒会まで報告しませんよ。今は新條先輩が取り調べ中です。お二人にも加わっていただきたいのですが」
「構いませんわ。……にしても取り調べ担当に新條ですか。相良委員長は何を?」
乱交問題なんて少なくとも私の在学中には見聞きしてないし、校内でえっちして叱られる人はまあいるけど、そういった事案の対応は極力高等部の上級生が担当している。風紀委員長なんてまさしくこういった場面で仕事をしなければだというのに。
「あの人はその……純情拗らせているので……あはは」
スカート丈の鬼なんて呼ぶ人もいるらしい相良美織ちゃん。色事に不慣れなのは風紀委員長として幸か不幸か。そんなわけで人手不足そうな風紀委員のお手伝いに向かうことになった私と瑠奈ちゃん。後輩に留守と数枚の書類を託し部室棟に向かう。確かフライングディスク部は総勢8名の小規模部活。内訳は高三の部長と副部長、高二が一人、高一が三人で中三と二が一人ずつ。大規模な大会がないことから成果を上げられず部費削減のあおりをくらっている団体でもある。一先ずは刑部さんの指示に従って取り調べに加わるとしましょうか。
騒動の発覚から一夜、彼女ら八名の処遇は生徒会に委ねられた。もちろん先生方のチェックが何重にもされるけど、ある程度の自治権が生徒会にはあるためこういう体制になっている。一応、部員全員に昨日の時点で三日間の謹慎を言い渡してある。丁度、水木金の三日間。この間に正式な処分を取り決める。
一応、ことの発端を整理すると、もともとフライングディスク部は有名無実化しつつあった部活なのだが、経験者の現部長――私たちの同級生でもある大宮なずなちゃんが立て直した部で、他の部員は実質彼女のファンクラブのようなものだった。そんな中、彼女に心酔していた高一の生徒が特殊なアロマを焚き、理性で抑えきれずことに至ったようだ。他の部員もそんな彼女に追従してしまい、気付けば乱交状態。廊下にまで洩れた匂いと喘ぎ声から風紀委員に通報され発覚。
「アロマを持ち出した生徒については……提携校への転校を薦めざるを得ないわね。大宮が卒業すれば確かに再発はないでしょうけど、調書をまとめると大宮に対して全員というわけでもなく、彼女以外の生徒達でもことに至っている以上、隔離はしょうがないわね」
なずなちゃんには大学への推薦取消、副部長の内申にも当然のように悪影響が及ぶ。高二の生徒は寮を菊花から桜花に降格、高一のうち、アロマを持ち込んだ娘に転校要請、他二人は寮のルームメイトでもあったため部屋割の再編、中学生二人には外部進学を打診。また、フライングディスク部は取りつぶし。最終的な処分はこういう形に落ち着いた。他にはアロマの入手ルートとして浮上したモモアワセなるサイトについても調査報告が必要だという判断がされた。
「最後の大仕事ってところかしら?」
「そう……かもね。はぁ、好きだって気持ちを真っ直ぐに伝えたらよかったのに、どうしてアロマに手を出しちゃったんだろう。なんか、うーん」
少しもやもやとした気持ちを抱くけど、大好きな人が隣にいてくれることがどれだけ幸運なことかと考えると、やっぱり言葉には出来なかった。
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