11 / 20
#10
しおりを挟む
「真っ二つ……ブイ」
「そうだね」
雨月がVサインを私に見せてくる。ドラゴンは尻尾こそ多少繋がっているが、頭から胴体はぱっくり真っ二つだ。イメージ的にはアジフライに近い。
外側が上に倒れてくれたおかげで、ドラゴンの中身は見えていない。流石に内臓とか見たくないし。気づけば包丁はすっかり元の姿に戻っていて、雨月の手にも握られていた。剣(包丁)と魔法の世界、不思議なことだらけだ。
「お見事です!! さすがは英雄様方ですね」
エレノアもようやく安心したのかテンションが上がってきた。
「ありがとう! エレノアのおかげだよ」
「うん……。ありがと」
二人でエレノアにお礼を言った後、
「さてと、やろっか」
「うん」
私と雨月はドラゴンの解体を始めた。
「……これでよし」
鱗や皮、肉を切り取り、血抜きをする。ドラゴンの血を浴びると不死になるなんて伝説が地球にはあるが、普通にドラゴンが存在するこちら側ではそんなことはないらしい。昨日のうちにエレノアから教わったことだ。とはいえ、エレノアがくれたポーションのようにマジカルなアイテムを作る上ではかなりいい素材になるらしい。ポーションの空き瓶に血を流し込む。立派な三本角や牙もドラゴンが絶命した影響かあっさり回収できた。
「あの……このドラゴンは素材であっても食材ではありませんよ?」
「分かってるよ。でも、私達は食べたいから」
ドラゴンの肉を食べたという話は聞いたことがないけど、それでも私達には必要なのだ。
うちの食堂は以前、テレビ番組の企画で増えすぎた外来種を調理したことがあるお店なのだ。その時、せっかくなのでということで私たちも食べさせてもらった。その時の食材はカミツキガメとソウギョだった。どちらも驚くほど美味しかった。こうして命をいただいた以上、食べられる部分は食べるのが料理人としての流儀なのだ。手持ち無沙汰そうに解体の光景を眺めるエレノアに一つお願いをすることにした。
「解体に時間かかりそうだから、エレノアは洞窟の外にいる兵士さんたちに報告をお願い。ついでに、運び出すための人手も借りたい」
「分かりました。……その、初めて解体するのに手際がいいですね」
「うーん、生物の構造って超大雑把に言えばほぼ同じだし。どこに筋肉があって、どこが可食部位か、とか。じゃあ、よろしく」
洞窟を後にするエレノアを見送りながら、二人きりになったことで改めて雨月に問う。
「キスの時にさ……大好きって言ってくれたじゃん。その、どうしてかなーって」
「ずっと言いたかったから……。今だって思って。それでどうだった? 初めての感想は」
恥ずかしいから答えにくい質問をさらっとしてくる雨月。
「……よかった、かも」
「そっかぁ。じゃあさ、もう一回……」
「えっ!?もうちょっと待って……!」
雨月が私の首に腕を回してきて、ぐいっと引き寄せられる。そのまま唇を重ねようとした瞬間、
「お二人ともー。洞窟内が静かになったから兵士の皆さんけっこう近くまで来てました……よ?」
思ったより早く兵士さんたちを連れてエレノアが戻ってきてしまった。
「「あっ」」
お互いに顔を真っ赤にして離れる私達に、エレノアと兵士達はしばらくぽかんとしていた。
「ごめんなさい」
「すみません」
「いえ、その、大丈夫ですよ。皆さん、これがあの氷龍だったんですよ。ハルヒとウヅキが倒してくれたんです!!」
話を逸らすように、エレノアが解体途中のドラゴンを兵士たちに改めて見せる。あのドラゴンが討伐されたことを再認識した兵士の皆さんが勝どきを挙げる。
ふらっとやってきた異世界で、けっこうすごいことを成し遂げて、これだけの人の生活を守ったんだと、そういう実感がやっと私にも沸いてきた。
さて、解体ももうひと踏ん張りだし、頑張ろうか!
「そうだね」
雨月がVサインを私に見せてくる。ドラゴンは尻尾こそ多少繋がっているが、頭から胴体はぱっくり真っ二つだ。イメージ的にはアジフライに近い。
外側が上に倒れてくれたおかげで、ドラゴンの中身は見えていない。流石に内臓とか見たくないし。気づけば包丁はすっかり元の姿に戻っていて、雨月の手にも握られていた。剣(包丁)と魔法の世界、不思議なことだらけだ。
「お見事です!! さすがは英雄様方ですね」
エレノアもようやく安心したのかテンションが上がってきた。
「ありがとう! エレノアのおかげだよ」
「うん……。ありがと」
二人でエレノアにお礼を言った後、
「さてと、やろっか」
「うん」
私と雨月はドラゴンの解体を始めた。
「……これでよし」
鱗や皮、肉を切り取り、血抜きをする。ドラゴンの血を浴びると不死になるなんて伝説が地球にはあるが、普通にドラゴンが存在するこちら側ではそんなことはないらしい。昨日のうちにエレノアから教わったことだ。とはいえ、エレノアがくれたポーションのようにマジカルなアイテムを作る上ではかなりいい素材になるらしい。ポーションの空き瓶に血を流し込む。立派な三本角や牙もドラゴンが絶命した影響かあっさり回収できた。
「あの……このドラゴンは素材であっても食材ではありませんよ?」
「分かってるよ。でも、私達は食べたいから」
ドラゴンの肉を食べたという話は聞いたことがないけど、それでも私達には必要なのだ。
うちの食堂は以前、テレビ番組の企画で増えすぎた外来種を調理したことがあるお店なのだ。その時、せっかくなのでということで私たちも食べさせてもらった。その時の食材はカミツキガメとソウギョだった。どちらも驚くほど美味しかった。こうして命をいただいた以上、食べられる部分は食べるのが料理人としての流儀なのだ。手持ち無沙汰そうに解体の光景を眺めるエレノアに一つお願いをすることにした。
「解体に時間かかりそうだから、エレノアは洞窟の外にいる兵士さんたちに報告をお願い。ついでに、運び出すための人手も借りたい」
「分かりました。……その、初めて解体するのに手際がいいですね」
「うーん、生物の構造って超大雑把に言えばほぼ同じだし。どこに筋肉があって、どこが可食部位か、とか。じゃあ、よろしく」
洞窟を後にするエレノアを見送りながら、二人きりになったことで改めて雨月に問う。
「キスの時にさ……大好きって言ってくれたじゃん。その、どうしてかなーって」
「ずっと言いたかったから……。今だって思って。それでどうだった? 初めての感想は」
恥ずかしいから答えにくい質問をさらっとしてくる雨月。
「……よかった、かも」
「そっかぁ。じゃあさ、もう一回……」
「えっ!?もうちょっと待って……!」
雨月が私の首に腕を回してきて、ぐいっと引き寄せられる。そのまま唇を重ねようとした瞬間、
「お二人ともー。洞窟内が静かになったから兵士の皆さんけっこう近くまで来てました……よ?」
思ったより早く兵士さんたちを連れてエレノアが戻ってきてしまった。
「「あっ」」
お互いに顔を真っ赤にして離れる私達に、エレノアと兵士達はしばらくぽかんとしていた。
「ごめんなさい」
「すみません」
「いえ、その、大丈夫ですよ。皆さん、これがあの氷龍だったんですよ。ハルヒとウヅキが倒してくれたんです!!」
話を逸らすように、エレノアが解体途中のドラゴンを兵士たちに改めて見せる。あのドラゴンが討伐されたことを再認識した兵士の皆さんが勝どきを挙げる。
ふらっとやってきた異世界で、けっこうすごいことを成し遂げて、これだけの人の生活を守ったんだと、そういう実感がやっと私にも沸いてきた。
さて、解体ももうひと踏ん張りだし、頑張ろうか!
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
凶器は透明な優しさ
楓
恋愛
入社5年目の岩倉紗希は、新卒の女の子である姫野香代の教育担当に選ばれる。
初めての後輩に戸惑いつつも、姫野さんとは良好な先輩後輩の関係を築いていけている
・・・そう思っていたのは岩倉紗希だけであった。
姫野の思いは岩倉の思いとは全く異なり
2人の思いの違いが徐々に大きくなり・・・
そして心を殺された
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
虹の架け橋とふたりの乙女
月森あいら
ファンタジー
わかれて育った王女である姉と出会い、惹かれる心を抑えられない巫女の少女。甘く、せつなく、ハッピーエンドの百合物語です。ソフト百合なので、未経験のかたにも。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
攻撃特化と守備特化、無敵の双子は矛と盾!
天眼鏡
ファンタジー
とある辺境の地で母とともに暮らす双子の姉妹。
一見、普通の女の子としか思えない二人だが……?
「どこの世界に単なる貧乏ゆすりで地震を起こす餓鬼がいるんだよ!!」
「何で崩落に巻き込まれておいて身体どころか髪や服にすら傷一つ無いのよ!!」
そう、残念ながら彼女たちは普通ではなかった。
これは、攻撃に特化しすぎている為に異常なほど魔法が効きすぎてしまう脳筋な姉と。
守備に特化しすぎている為にナイフやフォークより重い物は全く持てない馬鹿真面目な妹の。
ほんのり姉妹百合風味なドタバタ冒険譚である。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ウロボロス「竜王をやめます」
ケモトカゲ
ファンタジー
100年に1度蘇るという不死の竜「ウロボロス」
強大な力を持つが故に歴代の勇者たちの試練の相手として、ウロボロスは蘇りと絶命を繰り返してきた。
ウロボロス「いい加減にしろ!!」ついにブチギレたウロボロスは自ら命を断ち、復活する事なくその姿を消した・・・ハズだった。
・作者の拙い挿絵付きですので苦手な方はご注意を
・この作品はすでに中断しており、リメイク版が別に存在しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる