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 我が家の包丁がドラゴンキラーだと発覚してから三日間、母の宣言通り私と雨月は短刀術を死にもの狂いで訓練し続けた。刺し、斬り、順手、逆手とあらゆる技術を叩き込まれ、私も雨月もすっかり戦士になってしまった。
 そして、いよいよ異世界から遠い親戚さんがやってきた。事前知識は二十歳くらいの女性ということだけ。
とりあえず私たち姉妹が自己紹介すると、彼女は異世界から来たとは思えないほど流ちょうな日本語であいさつした。

「はじめまして。エレノア・ウェザルクスといいます」

 エレノアさんは確かに私や雨月より少しお姉さんな感じがする金髪の美人さんだ。想像に容易なほどに分かりやすく黒いローブとつば広のとんがり帽子を被っている。ハロウィンですらこんなに典型的な魔女には出会えないだろう。
 大衆食堂の和風な店内に金髪の魔女……違和感がすごい。

「ハルヒ、ウヅキ、大変なことに巻き込んでしまってすみません。でも……わたしだけの力では、ドラゴンを退治できないんです。だから、お願いします」

 帽子を脱ぎ、深々と頭を下げるエレノアさんに私たちは慌てて顔を上げるよう促す。ついでに立ちっぱなしだったので客席に座ってもらうことにした。

「もう決めたことですから。私と雨月でドラゴンをさくっとやっちゃいますから」
「さすが英雄の子孫。勇ましい限りです。もちろんわたしも魔法を使って全力で支援いたしますから」
「エレノア、魔法って私も使えるようになる?」

 晴日ってばいきなり呼び捨てする?? 思わず晴日の方へ首を向ける。

「わたしのことはエレノアで結構ですよ。魔法は……そうですね、簡単なものならすぐに覚えられると思いますよ」

 火をともしたり水を出したり、冒険で使えるようなものから、敵を攻撃するようなもの、傷を治療するもの、果ては世界を移動するための魔法。魔法を使うには血筋が大きく影響するらしいが、英雄の末裔である私たちは、ちょっとした魔法ならすぐ覚えられるらしい。さすがに、異世界に行くための魔法は覚えられなさそうだし、エレノアでも何度も使えるわけじゃないらしい。

「簡単な魔法って……例えばエレノアが日本語を話しているのは魔法?」
「魔法といえば魔法ですが、魔法の道具によるものです」

 エレノアは耳飾りを触りながら、それに翻訳の魔法が込められているのだと説明してくれた。

「わたしたちの世界にもいくつかの国があって、話す言葉も違いますから、こういうものがあると外交とか旅行とかに便利なんです。この家にある水晶も通信の魔法が込められた魔法の道具なんですよ」

 異世界とすら通信ができるんだからさぞかしすごい道具なのだろう。

「あれは特定の水晶同士で通信するので簡単な魔法ですね。複雑な……それこそ世界間を移動するような魔法を使うには触媒や魔法陣が必要なんです。その準備をするのに時間がかかって、今日やっとこっちに来られたんです」

 ということもあって、私たちが異世界へ行くのは明日。今日はゆっくり休みつつ、荷造りもして明日に備えよう。
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