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The Second Night 雪絵×咲桜
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新年のお祝いムードも少しは落ち着いてきた一月某日、私――佐伯雪絵は寮の私室に恋人の白雪咲桜を呼び出していた。
咲桜とは去年の文化祭直前に付き合い始め、もう三か月が経った。先月のクリスマスは彼女に実家へと招かれ、私たちは肌を重ねこれまで以上に深く繋がることができた。お互いに初めてで、ぎこちなくて、それでも愛おしくて満たされた夜だった。
けれど、どうしても納得できないことがある。初めてキスをした頃は初心な反応を見せた咲桜が、あの夜はあっという間に私の敏感なところを見つけて、あっけなく私は果ててしまった。年上としてのプライドは粉々に砕け散った。親友二人の顔が脳裏をよぎる。あの二人も彼女は年下で、そんな年下の彼女相手にすっかりネコになってしまっているという。でも、私だけは、自分から告白した矜持がある。私の全身全霊で咲桜を絶頂に導きたい。この二回目の夜に私は決意を固めていた。
――コンコン――
扉をノックする音が聞こえたのでのぞき窓で確認すると、そこにいたのは咲桜だった。ドアを開けると、
「ごきげんよう、雪絵。今夜は下着姿じゃないのね」
開口一番これだ。気がはやった私が以前、下着姿で彼女を部屋に迎え入れたことをいまだに蒸し返してくるのだ。そういう小憎たらしいところが……可愛くて好きなんだけれども。
「ちゃんとゴムもってきた?」
「もちろん。ふふ、今夜も使うのはわたしかしら」
「いいえ。今度は私が使うんだからね」
「えぇ~なんでよぉ?」
懐いた猫みたいに私の腕にすり寄ってくる咲桜からはほのかにフローラな香りが漂う。ちゃんと入浴も済ませてきてくれたようだ。
「雪絵の蕩けきった顔が好きなんだけどなぁ。もっと、普段から柔らかい表情した方が可愛いのに」
私を見つめるその目には挑発的で生意気な光が宿っていた。瞼に口づけを落とすと、私は簡単にホットレモンを二人分用意した。
夜はまだ長いのだから、がっつく必要はない。
「ていうか、受験生がこんなことしてていいの?」
咲桜が現実を突き付けてくる。ここ、星花女子学園には系列の女子大があるのだが、私はもっと高みを目指したいと思って、とある国立大学の教育学部を狙うことにした。正直こんなことをしている場合ではないけど、あの夜の咲桜が脳裏をちらついて集中できないというのもまた事実。
「仕方ないなぁ。試験前の雪絵が頭をパァにしないためにも、今夜はおとなしく抱かれてあげますか」
「もう、ほんっとそういうところ可愛げないよね」
「えぇ? こんな可愛い格好してきたのにぃ」
そう話す咲桜はまぁ確かに可愛い服装をしている。淡いピンクのブラウスと真っ黒なハイウエストのサスペンダースカート。いわゆる地雷系を意識したチョイスなんだろう。清楚な服装も似合うのに、こういうちょっと悪い子みたいな格好をしていても可愛いなんて、私の彼女はずるいなあ。
ホットレモンをちびちび飲みながら、咲桜が服を脱ぐ様子を眺める。まだ経験の少ない私たちは互いを脱がせながら睦言を交わすなんてことはできない。ネイビーの下着は真っ白な咲桜の肌によく映え大人っぽい印象を与える。
「ねぇ、今夜の主導権はあげるけどさ、一個頼みを聞いてよね」
「なによ?」
「雪絵が一人でシているとこ、見たいなぁ」
「は、はぁ!?」
私が唐突な提案に驚くと、咲桜は四つん這いになって私の目をのぞき込む。わずかにできた谷間が私の視線を誘導する。
「大丈夫。わたしも一緒にするから。そしたら、こっちの準備も整うし」
すっと唇を奪われ、このままでは押し倒されかねないといったん身を引く。
一人でシているところを見せあうなんて、普通なら頭が沸騰しそうだけど、でも……咲桜がシている姿を見たら、彼女が感じる場所を知ることができるかもしれない。それに、見たい。私だって、見たい。
「わ、分かったわよ。でも、準備があるからちょっと待ってて」
立ち上がった私は残りのホットレモンを飲み干すと、そのままシンクへ持って行って流しでまずは手を入念に洗い、きちんと水分を拭う。
「ふぅん、ルーティンみたいなのがあるのね」
「そ、そんな大仰なものじゃないわよ」
咲桜も同じように手を洗ったのを確認したら、ラベンダーの香りがするアロマをストーンに一滴たらし、部屋の電気を消してランプの間接照明だけにする。バスタオルを一枚持ってベッドに潜り込もうとすると、咲桜から待ったがかかった。
「ちょっと、布団まで被ったらわたしから見えないじゃない」
「……そうよね、えぇ、わかったわ」
普段の体勢と変わってしまうが、ヘッドボードに枕をかませて背もたれにし、咲桜と向かい合うように座って、脚を開く。
「夜目が利いてきたわ。雪絵のあそこ、よく見えるわ」
「う……さ、咲桜だって綺麗に見えてるわよ」
咲桜の裸体は何度見ても綺麗で、薄暗い部屋で脚を開いているその姿だけで、十分に絵になると思った。
「ふふ、人物画は専門外だけど、雪絵の裸婦画だったら、何枚でも描けそうよ。ねぇ、雪絵は? わたしの裸で創作意欲が沸く? それとも……性欲かな?」
「ど、どっちも……よ」
まるで名画を鑑賞するように、咲桜の視線が私をねっぷりとなぞる。それだけで体温が上がり、鼓動が高鳴る。私が右手をそっと股の間に動かすと、咲桜は左手を動かし始めた。まさかと思い、左手で胸に触れると、咲桜は右手を胸元に動かした。
「鏡にでもなったつもり?」
「そうよ。雪絵が触れたようにわたしも触るの。その方が面白いじゃない?」
両足を絡ませ、すぐ触れられる距離に恋人がいるのに、まだ自分にしか触れないなんて……なんという生殺しか。
「ん……ぅ……」
私と同じ挙動で、咲桜が陰唇に指を這わす。親指の腹で肉芽に触れながら、中指で入口の周りをなぞる。自分自身を焦らしながら、咲桜を焦らす。ビラビラを擦っているうちに、どちらからともなくクチュクチュと音が立ち始める。互いの呼吸が荒くなっていく。入れたい、入れたいけれど、もう少し我慢。左手で乳首を責めながら、咲桜の顔を見やる。……まだ、余裕そうだ。
「はぁ……ぁん……雪絵の触り方、慣れてる、感じ、だよね……」
「べ、別に……いいでしょ、ストレス解消、なんだから……」
初めて自分で触れたのがいつか……思い出さないことにする。これ以上、咲桜に弱みを握られるのも癪だ。
「ん、んぅ……っ」
背筋に快感が奔り下腹部がひくひくする。もう、準備はできている。私は中指と薬指をそっと自らの内側に滑り込ませる。
「は……ぁん」
目の前から聞こえる咲桜の甘い吐息に私の胸はますます高鳴る。私自身も、とっくにびしょびしょで、指を動かすと愛液が披裂から溢れ出てしまう。
「あぁ……あなたに、見られていると、私、どんどん……えっちになっちゃう……はしたない、かな……みっともない、かな……でも、我慢、できないの……」
指先がナカで敏感なところに触れて腰が浮くほどの快感が全身に迸る。咲桜の方を見ると、利き手ではない左手での自慰が難しかったのか、熱っぽい視線をこちらに返してくる。
「……雪絵」
不意に腕を引かれ、仰向けになった彼女の胸に倒れ込んだ。小柄なわりにしっかりと存在感を主張する膨らみが目の前にある。呼吸とともに上下するそれを見ながら、私は咲桜の心音を聞く。力強くて、少しだけ速い。興奮してくれているのだろうか。だとしたら……嬉しい。
「雪絵はさ、堅苦しく考えすぎだよ。えっちってさ、別に片方がもう片方を気持ちよくしてあげなきゃいけないってものじゃないでしょう? コミュニケーションの延長戦っていうか、延長線上にあるというか……分かる?」
「分かってるわよ。それでも、私は……尽くしたいのよ」
そう言って、咲桜の蕾に舌を這わせる。何かが出るわけでも、ましてや美味しいわけでもないのに、ただ愛おしいからそれを口に含み、もう片方は指先で抓んだり、軽く引っかいたりする。
「ぁぅ……ちょ、雪絵ぇ……今、大事な、ひゃん! はな、し……してんのに」
私は両腕をついて咲桜に覆いかぶさるように見下ろす。小柄な身体にとてつもない才能と情熱を秘めた、絵を描くために生まれてきたような彼女と、私は恋人になった。それがどれほど特別なことか、改めて実感する。その想いが伝わるよう、そっと口づけを落とす。
「「ん……ちゅ、じゅ……ぬぷ、っちゅ」」
舌を絡ませながら、彼女のもう一つの唇に、そっと指を伸ばす。
「もう、フィンドムはいらないの?」
「だ、だって……今から準備しなおしたら、ムードがないじゃない」
今から手を洗って、きっちり拭いて、パッケージから取り出して指に付ける。きっと手元が見えなくて電気も点けるでしょう。そんなことをしているうちに、気持ちがすっと落ち着いてしまうかもしれない。今はこの熱い気持ちをそのまま彼女にぶつけたい。
「……ダメかしら」
「なんていうかさぁ……雪絵って、童貞だよね」
「んな!?」
……全く想定していなかった言葉に、熱がさぁっと引いていく。
「あーあ、解散。かいさーん」
思わずベッドを下りて部屋の電気を点ける。あぁ、怒る言葉がとくに出てこないというのは、惚れた弱みだろうか。まったく、今日を逃せばもう受験シーズンで、チャンスなんてないと思っていたのになぁ。
「ちょ、ごめんってば。あぁ、何て言ったらいいかな。こう、雪絵はさ、『よそ様の娘さんに手を出すなんて自分はとんでもないことをしてしまっている』みたいなこと……思ってそうだね?」
図星ではあるが、だからなんだと言うのだ。
「恋人同士なんだからさ、遠慮とかしないでよ。あと、一から十まで大人ぶらなくなっていいじゃん。そりゃ、雪絵の方が年上で、先輩で、告白だってそっちからしてくれたけどさ、たった二歳の差じゃん。別に雪絵がえっち下手でも、すぐイっちゃおうと、嫌いになんてならないからさ」
咲桜の目は真剣だった。私は、単に嫌われたくなかっただけなのか。尽くすことが愛情だと思っていた。手放したくないと、必死になって……空回りしていたのかもしれない。
「っくし!」
「咲桜……」
小さめにくしゃみをした彼女をぎゅっと抱きしめる。互いの熱を感じながら、口づけを交わし、電気を消す。引き倒すように、咲桜の身体を私に重ねる。互いの胸に指を這わせながら、そっと太ももを咲桜の恥部にあてがう。
「ん、しょ」
私の肩を押して咲桜が上体を起こすと、二人の陰唇がキスをしてかすかに水音を立てる。
「貝合わせ、初めてだよね?」
「そ、そうね……」
一緒に気持ちよくなるための行為に、少しだけ緊張してしまう。よほど相性がよくないと、貝合わせで二人とも感じるというのは難しい……らしい。
咲桜が私の左脚を抱えるように、支えにするように、腰をくねらせる。イイところがあたるように、私も少し身体をよじりながら、互いの花弁を擦り合わせる。指や舌とは違う、確かなつながりを感じる。
「あぁ、んぁ……」
「ふっ……んぐ、ぅ」
時折触れる陰核同士がしびれるような快感をくれる。一方が尽くすだけじゃない、二人だから得られる気持ちよさがもっと欲しくて、徐々に腰つきが激しくなっていく。
「そろそろ……イキそう……」
咲桜が私に擦りつけるようにひねりを加えた動きを繰り返す。内側から湧き上がる熱を吹き出してしまいたいと、下腹部が疼いて仕方ない。
「さく、ら……一緒に……一緒にぃ」
お互いにちょっとだけ上体を起こして、手を繋ぐ。指を絡めて、見つめ合って、お互いを引き寄せあうように、強く、密着する。
「「んぁぁあ!!」」
先に果てたのは私だったかもしれない。でも、絶頂の震えが咲桜に伝播して、彼女もまた背を反らす。部屋を包むのは、二人の荒い吐息と、むわっとした雌のにおい……私にかぶさるように、咲桜が倒れこんできた。
「あぁ……最高だったよ」
「ふふ、よかった。何より、貴女が途中で絵筆を取りに行かなくて、本当によかった」
「だって……その表情はわたしの思い出だけに残したいから」
真っ直ぐなその言葉に、思わず胸が高鳴る。でも、このドキドキは私だけのものじゃない。重なった咲桜の鼓動が私にも伝わってくる。
「……ねぇ、もう一回だけしない?」
「だめだよ。これ以上は、雪絵の頭がパァになっちゃう。ううん、わたしが抑えきれなくなっちゃうの。だから……受験が終わるまでお預け」
「でも……」
国公立大学の二次試験は二月の下旬、ひょっとしたら三月の後期試験だって受けるかもしれない。その頃、私はもう寮にいない。実家は湖濱津だし、進学先は県外。物件探しに引っ越しと慌ただしくて、咲桜には会えないかもしれないのに……。
「大丈夫。雪絵がどこに行こうとわたしが会いに行くから。だって、どうせ国内でしょう? フランスよりよっぽど近いじゃない」
「咲桜……」
「だから、今夜はもう寝ましょう? 大丈夫、ずっと側にいるから」
手を繋いだまま目を閉じると、ほどよい疲労感と咲桜の温もりがあいまって、すっと眠気の波が寄せてくる。
「ありがと……大好きよ」
「えぇ、おやすみなさい」
雪と桜のその間 After Episode 完
咲桜とは去年の文化祭直前に付き合い始め、もう三か月が経った。先月のクリスマスは彼女に実家へと招かれ、私たちは肌を重ねこれまで以上に深く繋がることができた。お互いに初めてで、ぎこちなくて、それでも愛おしくて満たされた夜だった。
けれど、どうしても納得できないことがある。初めてキスをした頃は初心な反応を見せた咲桜が、あの夜はあっという間に私の敏感なところを見つけて、あっけなく私は果ててしまった。年上としてのプライドは粉々に砕け散った。親友二人の顔が脳裏をよぎる。あの二人も彼女は年下で、そんな年下の彼女相手にすっかりネコになってしまっているという。でも、私だけは、自分から告白した矜持がある。私の全身全霊で咲桜を絶頂に導きたい。この二回目の夜に私は決意を固めていた。
――コンコン――
扉をノックする音が聞こえたのでのぞき窓で確認すると、そこにいたのは咲桜だった。ドアを開けると、
「ごきげんよう、雪絵。今夜は下着姿じゃないのね」
開口一番これだ。気がはやった私が以前、下着姿で彼女を部屋に迎え入れたことをいまだに蒸し返してくるのだ。そういう小憎たらしいところが……可愛くて好きなんだけれども。
「ちゃんとゴムもってきた?」
「もちろん。ふふ、今夜も使うのはわたしかしら」
「いいえ。今度は私が使うんだからね」
「えぇ~なんでよぉ?」
懐いた猫みたいに私の腕にすり寄ってくる咲桜からはほのかにフローラな香りが漂う。ちゃんと入浴も済ませてきてくれたようだ。
「雪絵の蕩けきった顔が好きなんだけどなぁ。もっと、普段から柔らかい表情した方が可愛いのに」
私を見つめるその目には挑発的で生意気な光が宿っていた。瞼に口づけを落とすと、私は簡単にホットレモンを二人分用意した。
夜はまだ長いのだから、がっつく必要はない。
「ていうか、受験生がこんなことしてていいの?」
咲桜が現実を突き付けてくる。ここ、星花女子学園には系列の女子大があるのだが、私はもっと高みを目指したいと思って、とある国立大学の教育学部を狙うことにした。正直こんなことをしている場合ではないけど、あの夜の咲桜が脳裏をちらついて集中できないというのもまた事実。
「仕方ないなぁ。試験前の雪絵が頭をパァにしないためにも、今夜はおとなしく抱かれてあげますか」
「もう、ほんっとそういうところ可愛げないよね」
「えぇ? こんな可愛い格好してきたのにぃ」
そう話す咲桜はまぁ確かに可愛い服装をしている。淡いピンクのブラウスと真っ黒なハイウエストのサスペンダースカート。いわゆる地雷系を意識したチョイスなんだろう。清楚な服装も似合うのに、こういうちょっと悪い子みたいな格好をしていても可愛いなんて、私の彼女はずるいなあ。
ホットレモンをちびちび飲みながら、咲桜が服を脱ぐ様子を眺める。まだ経験の少ない私たちは互いを脱がせながら睦言を交わすなんてことはできない。ネイビーの下着は真っ白な咲桜の肌によく映え大人っぽい印象を与える。
「ねぇ、今夜の主導権はあげるけどさ、一個頼みを聞いてよね」
「なによ?」
「雪絵が一人でシているとこ、見たいなぁ」
「は、はぁ!?」
私が唐突な提案に驚くと、咲桜は四つん這いになって私の目をのぞき込む。わずかにできた谷間が私の視線を誘導する。
「大丈夫。わたしも一緒にするから。そしたら、こっちの準備も整うし」
すっと唇を奪われ、このままでは押し倒されかねないといったん身を引く。
一人でシているところを見せあうなんて、普通なら頭が沸騰しそうだけど、でも……咲桜がシている姿を見たら、彼女が感じる場所を知ることができるかもしれない。それに、見たい。私だって、見たい。
「わ、分かったわよ。でも、準備があるからちょっと待ってて」
立ち上がった私は残りのホットレモンを飲み干すと、そのままシンクへ持って行って流しでまずは手を入念に洗い、きちんと水分を拭う。
「ふぅん、ルーティンみたいなのがあるのね」
「そ、そんな大仰なものじゃないわよ」
咲桜も同じように手を洗ったのを確認したら、ラベンダーの香りがするアロマをストーンに一滴たらし、部屋の電気を消してランプの間接照明だけにする。バスタオルを一枚持ってベッドに潜り込もうとすると、咲桜から待ったがかかった。
「ちょっと、布団まで被ったらわたしから見えないじゃない」
「……そうよね、えぇ、わかったわ」
普段の体勢と変わってしまうが、ヘッドボードに枕をかませて背もたれにし、咲桜と向かい合うように座って、脚を開く。
「夜目が利いてきたわ。雪絵のあそこ、よく見えるわ」
「う……さ、咲桜だって綺麗に見えてるわよ」
咲桜の裸体は何度見ても綺麗で、薄暗い部屋で脚を開いているその姿だけで、十分に絵になると思った。
「ふふ、人物画は専門外だけど、雪絵の裸婦画だったら、何枚でも描けそうよ。ねぇ、雪絵は? わたしの裸で創作意欲が沸く? それとも……性欲かな?」
「ど、どっちも……よ」
まるで名画を鑑賞するように、咲桜の視線が私をねっぷりとなぞる。それだけで体温が上がり、鼓動が高鳴る。私が右手をそっと股の間に動かすと、咲桜は左手を動かし始めた。まさかと思い、左手で胸に触れると、咲桜は右手を胸元に動かした。
「鏡にでもなったつもり?」
「そうよ。雪絵が触れたようにわたしも触るの。その方が面白いじゃない?」
両足を絡ませ、すぐ触れられる距離に恋人がいるのに、まだ自分にしか触れないなんて……なんという生殺しか。
「ん……ぅ……」
私と同じ挙動で、咲桜が陰唇に指を這わす。親指の腹で肉芽に触れながら、中指で入口の周りをなぞる。自分自身を焦らしながら、咲桜を焦らす。ビラビラを擦っているうちに、どちらからともなくクチュクチュと音が立ち始める。互いの呼吸が荒くなっていく。入れたい、入れたいけれど、もう少し我慢。左手で乳首を責めながら、咲桜の顔を見やる。……まだ、余裕そうだ。
「はぁ……ぁん……雪絵の触り方、慣れてる、感じ、だよね……」
「べ、別に……いいでしょ、ストレス解消、なんだから……」
初めて自分で触れたのがいつか……思い出さないことにする。これ以上、咲桜に弱みを握られるのも癪だ。
「ん、んぅ……っ」
背筋に快感が奔り下腹部がひくひくする。もう、準備はできている。私は中指と薬指をそっと自らの内側に滑り込ませる。
「は……ぁん」
目の前から聞こえる咲桜の甘い吐息に私の胸はますます高鳴る。私自身も、とっくにびしょびしょで、指を動かすと愛液が披裂から溢れ出てしまう。
「あぁ……あなたに、見られていると、私、どんどん……えっちになっちゃう……はしたない、かな……みっともない、かな……でも、我慢、できないの……」
指先がナカで敏感なところに触れて腰が浮くほどの快感が全身に迸る。咲桜の方を見ると、利き手ではない左手での自慰が難しかったのか、熱っぽい視線をこちらに返してくる。
「……雪絵」
不意に腕を引かれ、仰向けになった彼女の胸に倒れ込んだ。小柄なわりにしっかりと存在感を主張する膨らみが目の前にある。呼吸とともに上下するそれを見ながら、私は咲桜の心音を聞く。力強くて、少しだけ速い。興奮してくれているのだろうか。だとしたら……嬉しい。
「雪絵はさ、堅苦しく考えすぎだよ。えっちってさ、別に片方がもう片方を気持ちよくしてあげなきゃいけないってものじゃないでしょう? コミュニケーションの延長戦っていうか、延長線上にあるというか……分かる?」
「分かってるわよ。それでも、私は……尽くしたいのよ」
そう言って、咲桜の蕾に舌を這わせる。何かが出るわけでも、ましてや美味しいわけでもないのに、ただ愛おしいからそれを口に含み、もう片方は指先で抓んだり、軽く引っかいたりする。
「ぁぅ……ちょ、雪絵ぇ……今、大事な、ひゃん! はな、し……してんのに」
私は両腕をついて咲桜に覆いかぶさるように見下ろす。小柄な身体にとてつもない才能と情熱を秘めた、絵を描くために生まれてきたような彼女と、私は恋人になった。それがどれほど特別なことか、改めて実感する。その想いが伝わるよう、そっと口づけを落とす。
「「ん……ちゅ、じゅ……ぬぷ、っちゅ」」
舌を絡ませながら、彼女のもう一つの唇に、そっと指を伸ばす。
「もう、フィンドムはいらないの?」
「だ、だって……今から準備しなおしたら、ムードがないじゃない」
今から手を洗って、きっちり拭いて、パッケージから取り出して指に付ける。きっと手元が見えなくて電気も点けるでしょう。そんなことをしているうちに、気持ちがすっと落ち着いてしまうかもしれない。今はこの熱い気持ちをそのまま彼女にぶつけたい。
「……ダメかしら」
「なんていうかさぁ……雪絵って、童貞だよね」
「んな!?」
……全く想定していなかった言葉に、熱がさぁっと引いていく。
「あーあ、解散。かいさーん」
思わずベッドを下りて部屋の電気を点ける。あぁ、怒る言葉がとくに出てこないというのは、惚れた弱みだろうか。まったく、今日を逃せばもう受験シーズンで、チャンスなんてないと思っていたのになぁ。
「ちょ、ごめんってば。あぁ、何て言ったらいいかな。こう、雪絵はさ、『よそ様の娘さんに手を出すなんて自分はとんでもないことをしてしまっている』みたいなこと……思ってそうだね?」
図星ではあるが、だからなんだと言うのだ。
「恋人同士なんだからさ、遠慮とかしないでよ。あと、一から十まで大人ぶらなくなっていいじゃん。そりゃ、雪絵の方が年上で、先輩で、告白だってそっちからしてくれたけどさ、たった二歳の差じゃん。別に雪絵がえっち下手でも、すぐイっちゃおうと、嫌いになんてならないからさ」
咲桜の目は真剣だった。私は、単に嫌われたくなかっただけなのか。尽くすことが愛情だと思っていた。手放したくないと、必死になって……空回りしていたのかもしれない。
「っくし!」
「咲桜……」
小さめにくしゃみをした彼女をぎゅっと抱きしめる。互いの熱を感じながら、口づけを交わし、電気を消す。引き倒すように、咲桜の身体を私に重ねる。互いの胸に指を這わせながら、そっと太ももを咲桜の恥部にあてがう。
「ん、しょ」
私の肩を押して咲桜が上体を起こすと、二人の陰唇がキスをしてかすかに水音を立てる。
「貝合わせ、初めてだよね?」
「そ、そうね……」
一緒に気持ちよくなるための行為に、少しだけ緊張してしまう。よほど相性がよくないと、貝合わせで二人とも感じるというのは難しい……らしい。
咲桜が私の左脚を抱えるように、支えにするように、腰をくねらせる。イイところがあたるように、私も少し身体をよじりながら、互いの花弁を擦り合わせる。指や舌とは違う、確かなつながりを感じる。
「あぁ、んぁ……」
「ふっ……んぐ、ぅ」
時折触れる陰核同士がしびれるような快感をくれる。一方が尽くすだけじゃない、二人だから得られる気持ちよさがもっと欲しくて、徐々に腰つきが激しくなっていく。
「そろそろ……イキそう……」
咲桜が私に擦りつけるようにひねりを加えた動きを繰り返す。内側から湧き上がる熱を吹き出してしまいたいと、下腹部が疼いて仕方ない。
「さく、ら……一緒に……一緒にぃ」
お互いにちょっとだけ上体を起こして、手を繋ぐ。指を絡めて、見つめ合って、お互いを引き寄せあうように、強く、密着する。
「「んぁぁあ!!」」
先に果てたのは私だったかもしれない。でも、絶頂の震えが咲桜に伝播して、彼女もまた背を反らす。部屋を包むのは、二人の荒い吐息と、むわっとした雌のにおい……私にかぶさるように、咲桜が倒れこんできた。
「あぁ……最高だったよ」
「ふふ、よかった。何より、貴女が途中で絵筆を取りに行かなくて、本当によかった」
「だって……その表情はわたしの思い出だけに残したいから」
真っ直ぐなその言葉に、思わず胸が高鳴る。でも、このドキドキは私だけのものじゃない。重なった咲桜の鼓動が私にも伝わってくる。
「……ねぇ、もう一回だけしない?」
「だめだよ。これ以上は、雪絵の頭がパァになっちゃう。ううん、わたしが抑えきれなくなっちゃうの。だから……受験が終わるまでお預け」
「でも……」
国公立大学の二次試験は二月の下旬、ひょっとしたら三月の後期試験だって受けるかもしれない。その頃、私はもう寮にいない。実家は湖濱津だし、進学先は県外。物件探しに引っ越しと慌ただしくて、咲桜には会えないかもしれないのに……。
「大丈夫。雪絵がどこに行こうとわたしが会いに行くから。だって、どうせ国内でしょう? フランスよりよっぽど近いじゃない」
「咲桜……」
「だから、今夜はもう寝ましょう? 大丈夫、ずっと側にいるから」
手を繋いだまま目を閉じると、ほどよい疲労感と咲桜の温もりがあいまって、すっと眠気の波が寄せてくる。
「ありがと……大好きよ」
「えぇ、おやすみなさい」
雪と桜のその間 After Episode 完
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