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第2話 星花女子学園落語研究会 高座その1
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「いやぁ、後輩たちのおかげで皆さんだいぶ温まってきたんじゃないですかぁ?
ここからは私、星花亭舞黒にお付き合いください」
ここはとある高齢者施設。私――武藤和珠音は高校の落語研究会に所属していて、海の日が絡んだ三連休に、こうして落語の発表に来たのだ。星花亭という屋号は星花女子学園という学校名にちなんでいて、高座名の舞黒は小柄な私に先輩たちがつけてくれたものだ。
「さぁて夏も本番、暑くて暑くてたまりませんね。この星花亭舞黒、マイクロビキニで落語をしようかと思ったのですが、どうにも先輩たちから大反対されまして。それはさておき、夏のお楽しみの一つに夏祭りがありますよね。そんな祭と縁深いのが太鼓、今日はそんな太鼓にちなんで火焔太鼓というお話をしたいと思います」
ここ羽織代わりのサマーカーディガンを脱ぐ。大きく息を吸い込んで、語り始める。
「今の時代、買い物と言えばほとんどネット、お店に足を運ぶにしたってスーパーやデパートで何でもそろう時代。ですが昔は野菜なら八百屋、布なら反物屋などと専門のお店が多かったんですよね。
そんな中でも扱う品物が幅広かったのが道具屋
蔵前辺りにはずらりと道具屋さんばかりが軒を並べて商売をしていた街があったそうですな。その一軒にちょいと夫婦仲の悪い道具屋がありまして、何を隠そう金銭感覚が違うってんだから喧嘩ばかり。
おや、さっそくその喧嘩が聞こえてきましたね。
ちょっと、どうしてお前さんはそう商売が下手なんだよ!
な……何がだよ
何がじゃないよ! 何だっていまの、あのお客を逃がしちゃうの!
何だって……向こうがいらねぇって言うもんだから、追っかけて売るってわけにはいかないだろうが
何を言ってんだよ、向こうがいらなくなるような言い方をするからさね。あのお客はね、うちのお店の箪笥をみて惚れ込んで入って来たんだよ、えぇ。ニコニコ、ニコニコしながら入ってきて、お前さんのところへ行ったじゃないか。そんでもって、お客が道具屋、この箪笥、いい箪笥だねぇって言ったとき、お前さん、なんて答えたよ。
ええ、いい箪笥ですよ。うちに十六年ありますから……あんたねぇ、そんなことを自慢する人があるかい? 十六年も売れ残ってる箪笥を買う人がどこにいるよ!?
ちょっと開けてみてくれないかってったら……
いえ、これがすぐに開くくらいなら、とうに売れてます
じゃ開かないのかい?
いや、開かないわけじゃないんですけど、開けようとして何人か下敷きになっちまったよ
そんな危ない箪笥は買うわけにゃいかないねって帰っちまったじゃあないか」
身振り手振りを交えながら話を続ける。話は店主が火鉢を売ってしまったこと、そして煤けた太鼓を買ってきたことへと続いていく。
道具屋の店主は煤けた太鼓をはたきで掃除するよう丁稚に伝え、私は扇子を持って手首を振る。
「ドンドンドンドンドンドンドン
ドドドン、ドドドン、ドドドン、ドン」
その太鼓の音につられてやってきたのは、とあるお武家様。そのお武家様の仕える主が太鼓の音を気に入ったというから、持って来いというじゃありませんか。話はいよいよ中盤、道具屋の店主が太鼓を背負って武家の屋敷へと訪れた。
「えー、お頼み申します! えぇ、ど、道具屋でございます
よく参った。まあ、こちらへ上がれ。遠慮せずともよい。で、太鼓は持って参ったか?
も、持って来ましたよ。持って来ましたよ!持って来ちゃぁいけねぇってんですかい!?
な、何を怒っておる。たいそう気が高ぶっておるな。いや、拙者の方が持って参れと申したのじゃ。お前ひとりが来たのでは何もならん。今一度、拙者があらためる。こちらへ出しなさい。ほほぅ、さきほど店先で見たときよりも一段と時代がついておるな。
じ、時代……そうでございますなぁ、ここからここまでは時代で、ここからここは時代じゃないなんてことはございませんからなぁ
まったく、さっきから変な道具屋じゃな。さて、殿にお見せせねばな。どっこらせ
え!? この太鼓、殿様に見せるんすかぁ!? よしましょうや、そりゃだめだ。ね、お侍さん、あぁた、買ってください
いや、拙者か買うわけには参らん。殿がお求めになる。とにかく殿にお見せする間、ここで待っていなさい
ありゃあ、だめだ……買わねぇな。こんな汚いってのが聞こえたら、ダーッと逃げちゃおう。そしたら太鼓と風呂敷を損してそれっきりだ。命には代えられねぇよ」
ここでちょいと小休止。夏場は水分をこまめに取らないと話すのもままならないからね。
ここからは私、星花亭舞黒にお付き合いください」
ここはとある高齢者施設。私――武藤和珠音は高校の落語研究会に所属していて、海の日が絡んだ三連休に、こうして落語の発表に来たのだ。星花亭という屋号は星花女子学園という学校名にちなんでいて、高座名の舞黒は小柄な私に先輩たちがつけてくれたものだ。
「さぁて夏も本番、暑くて暑くてたまりませんね。この星花亭舞黒、マイクロビキニで落語をしようかと思ったのですが、どうにも先輩たちから大反対されまして。それはさておき、夏のお楽しみの一つに夏祭りがありますよね。そんな祭と縁深いのが太鼓、今日はそんな太鼓にちなんで火焔太鼓というお話をしたいと思います」
ここ羽織代わりのサマーカーディガンを脱ぐ。大きく息を吸い込んで、語り始める。
「今の時代、買い物と言えばほとんどネット、お店に足を運ぶにしたってスーパーやデパートで何でもそろう時代。ですが昔は野菜なら八百屋、布なら反物屋などと専門のお店が多かったんですよね。
そんな中でも扱う品物が幅広かったのが道具屋
蔵前辺りにはずらりと道具屋さんばかりが軒を並べて商売をしていた街があったそうですな。その一軒にちょいと夫婦仲の悪い道具屋がありまして、何を隠そう金銭感覚が違うってんだから喧嘩ばかり。
おや、さっそくその喧嘩が聞こえてきましたね。
ちょっと、どうしてお前さんはそう商売が下手なんだよ!
な……何がだよ
何がじゃないよ! 何だっていまの、あのお客を逃がしちゃうの!
何だって……向こうがいらねぇって言うもんだから、追っかけて売るってわけにはいかないだろうが
何を言ってんだよ、向こうがいらなくなるような言い方をするからさね。あのお客はね、うちのお店の箪笥をみて惚れ込んで入って来たんだよ、えぇ。ニコニコ、ニコニコしながら入ってきて、お前さんのところへ行ったじゃないか。そんでもって、お客が道具屋、この箪笥、いい箪笥だねぇって言ったとき、お前さん、なんて答えたよ。
ええ、いい箪笥ですよ。うちに十六年ありますから……あんたねぇ、そんなことを自慢する人があるかい? 十六年も売れ残ってる箪笥を買う人がどこにいるよ!?
ちょっと開けてみてくれないかってったら……
いえ、これがすぐに開くくらいなら、とうに売れてます
じゃ開かないのかい?
いや、開かないわけじゃないんですけど、開けようとして何人か下敷きになっちまったよ
そんな危ない箪笥は買うわけにゃいかないねって帰っちまったじゃあないか」
身振り手振りを交えながら話を続ける。話は店主が火鉢を売ってしまったこと、そして煤けた太鼓を買ってきたことへと続いていく。
道具屋の店主は煤けた太鼓をはたきで掃除するよう丁稚に伝え、私は扇子を持って手首を振る。
「ドンドンドンドンドンドンドン
ドドドン、ドドドン、ドドドン、ドン」
その太鼓の音につられてやってきたのは、とあるお武家様。そのお武家様の仕える主が太鼓の音を気に入ったというから、持って来いというじゃありませんか。話はいよいよ中盤、道具屋の店主が太鼓を背負って武家の屋敷へと訪れた。
「えー、お頼み申します! えぇ、ど、道具屋でございます
よく参った。まあ、こちらへ上がれ。遠慮せずともよい。で、太鼓は持って参ったか?
も、持って来ましたよ。持って来ましたよ!持って来ちゃぁいけねぇってんですかい!?
な、何を怒っておる。たいそう気が高ぶっておるな。いや、拙者の方が持って参れと申したのじゃ。お前ひとりが来たのでは何もならん。今一度、拙者があらためる。こちらへ出しなさい。ほほぅ、さきほど店先で見たときよりも一段と時代がついておるな。
じ、時代……そうでございますなぁ、ここからここまでは時代で、ここからここは時代じゃないなんてことはございませんからなぁ
まったく、さっきから変な道具屋じゃな。さて、殿にお見せせねばな。どっこらせ
え!? この太鼓、殿様に見せるんすかぁ!? よしましょうや、そりゃだめだ。ね、お侍さん、あぁた、買ってください
いや、拙者か買うわけには参らん。殿がお求めになる。とにかく殿にお見せする間、ここで待っていなさい
ありゃあ、だめだ……買わねぇな。こんな汚いってのが聞こえたら、ダーッと逃げちゃおう。そしたら太鼓と風呂敷を損してそれっきりだ。命には代えられねぇよ」
ここでちょいと小休止。夏場は水分をこまめに取らないと話すのもままならないからね。
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