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#1 入学式
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立成九年、四月五日。私立星花女子学園では入学式が行われていた。中高一貫校である星花女子の入学式は中等部一年として受験を突破してきた150余名と、高等部に進学した者に加えて編入組の50名強の200余名が主役だ。中等部一年が61期生で高等部一年が58期生か。かくいう私、佐倉美星は57期生の高校二年。生徒会に所属していて、今日もお仕事ということで恋人の紫雲寺瑠奈ちゃんとともにステージ脇で待機している。今、壇上で挨拶をしているのが56代目生徒会長の小館冬奈先輩。先輩の演説が終わると、理事長がやってくる。のんびりとしたおばさんののんびりとした話が終わり、入学式は閉会となった。しかし、生徒会の仕事はここから始まると言ってもいい。
「さて、片付けを始めようか」
女子校である星花に男手はない。講堂の椅子は据え置きだから運ぶ必要はないが、入学式と書かれたプレートや大きな花瓶、講壇なんかを運ばねばならない。生徒会役員だけで。
「優寿と邑はそっち頼む。あたしと二年コンビはこっちだ。中学生らは取り敢えず花運んでくれ。花瓶はこっちでやるから」
てきぱきと指示を出す会長に従って仕事を進める。ステージから講壇を動かして倉庫へ戻る。大きなプレートも同様に運び出す。
「美星、平気?」
「大丈夫だよ」
そう声をかけてきてくれたのが、私の恋人の紫雲寺瑠奈ちゃん。真っ直ぐに伸びた黒髪は腰ほどの長さで、新雪のように白い肌と整った目鼻立ちがクールなお嬢様然としていて瑠奈ちゃんらしい。
「頑張ってる美星に後でご褒美あげるね」
そう言って微笑む瑠奈ちゃんに私も相好を崩す。
「ほいそこ、いちゃついてないてないで働け」
会長にちょっと怒られながら、お仕事を頑張りましょうかと意識を切り替える……つもりなのだが瑠奈ちゃんのご褒美に期待が募る。まぁ、キスだろうなぁていう気はしているんだけど。この学校の生徒の半数ほどは女の子が恋愛対象、そうでないにしても、どっちもアリかどっちもナシってタイプが多い。中等部から瑠奈ちゃんと一緒で、高校生になるちょっと前に恋仲になった。それまでも友達同士が付き合い始めたり、先輩に告白して断られたりした同級生をよく見てきた。生徒会はそんな生徒達の割合が比較的高く、小館先輩は白崎優寿先輩と親友以上の仲を公言してるし、逆に倉田邑先輩は誰とも付き合わないことを明言こそしていないけれど雰囲気から察せられる。中学生の後輩はノンケを自称してるけど、別の女の子の猛アタックに陥落寸前って感じ。文芸部と生徒会を掛け持つ私にはけっこういい空間だったりする。
「はい、じゃあ仕事終わり! お疲れ、解散!!」
そうこうしているうちに仕事も終わり、今日は入学式だけで授業もないので帰路に就くことになる。荷物を取りに生徒会室まで向かう。生徒会室は校舎二階西側にあり、敷地の東端にある講堂からだとやや遠い。まぁ、昇降口方向だからしょうがないんだけど。そんなことを考えながら生徒会室にたどり着き、ドアを開けて荷物はどこだったかと見渡していると、瑠奈ちゃんはすぐに持ってきてくれた・
「美星、帰りましょう?」
こういった気配りがお姉さんっぽくて憧れる。
「私は子供っぽい可愛い美星を愛してるよ」
「もう、何でもお見通しなんだから……」
「二人とも、生徒会室でいちゃいちゃ禁止!」
「「は、はい……」」
会長に怒られたので私たちは二人ならんで帰宅することになった。星花女子学園には中等部高等部それぞれに桜花寮と菊花寮という二つの寮がある。桜花は一般的な生徒が過ごす二人部屋で、菊花は優秀な生徒が集まる寮で個室が与えられる。とはいえ、菊花寮への移動は強制ではないため、学習面で上位な私と瑠奈ちゃんでも桜花に留まることが出来る。二人部屋の方が好都合なこと、いろいろあるからね。
「ちょっと寄り道しよう」
瑠奈ちゃんに手を引かれて向かったのは、敷地内に植えられた大きな桜の樹の側。
「美星……」
桜の樹の陰、誰からも見られない位置で私を見つめる瑠奈ちゃん。何も言わなくても分かる。満開の桜の下、そっと口づけを交わす。
「「ちゅ……ん」」
瑠奈ちゃんの瑞々しい唇から私の唇へ繋がる銀糸。導かれるように再び唇を重ねる。
「「ん、ちゅぅ……ちゅぱ、んちゅ、ちゅ」」
さっきより情熱的に、溶けるような一体感を味わう。瑠奈ちゃんの舌に口腔内を犯されて、少し腰が引ける。
「美星、続きは今夜にしましょうか」
「……うん。帰ろう」
明日は土曜日だから、きっと今夜は……。
「さて、片付けを始めようか」
女子校である星花に男手はない。講堂の椅子は据え置きだから運ぶ必要はないが、入学式と書かれたプレートや大きな花瓶、講壇なんかを運ばねばならない。生徒会役員だけで。
「優寿と邑はそっち頼む。あたしと二年コンビはこっちだ。中学生らは取り敢えず花運んでくれ。花瓶はこっちでやるから」
てきぱきと指示を出す会長に従って仕事を進める。ステージから講壇を動かして倉庫へ戻る。大きなプレートも同様に運び出す。
「美星、平気?」
「大丈夫だよ」
そう声をかけてきてくれたのが、私の恋人の紫雲寺瑠奈ちゃん。真っ直ぐに伸びた黒髪は腰ほどの長さで、新雪のように白い肌と整った目鼻立ちがクールなお嬢様然としていて瑠奈ちゃんらしい。
「頑張ってる美星に後でご褒美あげるね」
そう言って微笑む瑠奈ちゃんに私も相好を崩す。
「ほいそこ、いちゃついてないてないで働け」
会長にちょっと怒られながら、お仕事を頑張りましょうかと意識を切り替える……つもりなのだが瑠奈ちゃんのご褒美に期待が募る。まぁ、キスだろうなぁていう気はしているんだけど。この学校の生徒の半数ほどは女の子が恋愛対象、そうでないにしても、どっちもアリかどっちもナシってタイプが多い。中等部から瑠奈ちゃんと一緒で、高校生になるちょっと前に恋仲になった。それまでも友達同士が付き合い始めたり、先輩に告白して断られたりした同級生をよく見てきた。生徒会はそんな生徒達の割合が比較的高く、小館先輩は白崎優寿先輩と親友以上の仲を公言してるし、逆に倉田邑先輩は誰とも付き合わないことを明言こそしていないけれど雰囲気から察せられる。中学生の後輩はノンケを自称してるけど、別の女の子の猛アタックに陥落寸前って感じ。文芸部と生徒会を掛け持つ私にはけっこういい空間だったりする。
「はい、じゃあ仕事終わり! お疲れ、解散!!」
そうこうしているうちに仕事も終わり、今日は入学式だけで授業もないので帰路に就くことになる。荷物を取りに生徒会室まで向かう。生徒会室は校舎二階西側にあり、敷地の東端にある講堂からだとやや遠い。まぁ、昇降口方向だからしょうがないんだけど。そんなことを考えながら生徒会室にたどり着き、ドアを開けて荷物はどこだったかと見渡していると、瑠奈ちゃんはすぐに持ってきてくれた・
「美星、帰りましょう?」
こういった気配りがお姉さんっぽくて憧れる。
「私は子供っぽい可愛い美星を愛してるよ」
「もう、何でもお見通しなんだから……」
「二人とも、生徒会室でいちゃいちゃ禁止!」
「「は、はい……」」
会長に怒られたので私たちは二人ならんで帰宅することになった。星花女子学園には中等部高等部それぞれに桜花寮と菊花寮という二つの寮がある。桜花は一般的な生徒が過ごす二人部屋で、菊花は優秀な生徒が集まる寮で個室が与えられる。とはいえ、菊花寮への移動は強制ではないため、学習面で上位な私と瑠奈ちゃんでも桜花に留まることが出来る。二人部屋の方が好都合なこと、いろいろあるからね。
「ちょっと寄り道しよう」
瑠奈ちゃんに手を引かれて向かったのは、敷地内に植えられた大きな桜の樹の側。
「美星……」
桜の樹の陰、誰からも見られない位置で私を見つめる瑠奈ちゃん。何も言わなくても分かる。満開の桜の下、そっと口づけを交わす。
「「ちゅ……ん」」
瑠奈ちゃんの瑞々しい唇から私の唇へ繋がる銀糸。導かれるように再び唇を重ねる。
「「ん、ちゅぅ……ちゅぱ、んちゅ、ちゅ」」
さっきより情熱的に、溶けるような一体感を味わう。瑠奈ちゃんの舌に口腔内を犯されて、少し腰が引ける。
「美星、続きは今夜にしましょうか」
「……うん。帰ろう」
明日は土曜日だから、きっと今夜は……。
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