夜空に咲くは百合の花

楠富 つかさ

文字の大きさ
上 下
1 / 14

#1 入学式

しおりを挟む
 立成九年、四月五日。私立星花女子学園では入学式が行われていた。中高一貫校である星花女子の入学式は中等部一年として受験を突破してきた150余名と、高等部に進学した者に加えて編入組の50名強の200余名が主役だ。中等部一年が61期生で高等部一年が58期生か。かくいう私、佐倉美星は57期生の高校二年。生徒会に所属していて、今日もお仕事ということで恋人の紫雲寺瑠奈ちゃんとともにステージ脇で待機している。今、壇上で挨拶をしているのが56代目生徒会長の小館冬奈先輩。先輩の演説が終わると、理事長がやってくる。のんびりとしたおばさんののんびりとした話が終わり、入学式は閉会となった。しかし、生徒会の仕事はここから始まると言ってもいい。

「さて、片付けを始めようか」

 女子校である星花に男手はない。講堂の椅子は据え置きだから運ぶ必要はないが、入学式と書かれたプレートや大きな花瓶、講壇なんかを運ばねばならない。生徒会役員だけで。

「優寿と邑はそっち頼む。あたしと二年コンビはこっちだ。中学生らは取り敢えず花運んでくれ。花瓶はこっちでやるから」

 てきぱきと指示を出す会長に従って仕事を進める。ステージから講壇を動かして倉庫へ戻る。大きなプレートも同様に運び出す。

「美星、平気?」
「大丈夫だよ」

 そう声をかけてきてくれたのが、私の恋人の紫雲寺瑠奈ちゃん。真っ直ぐに伸びた黒髪は腰ほどの長さで、新雪のように白い肌と整った目鼻立ちがクールなお嬢様然としていて瑠奈ちゃんらしい。

「頑張ってる美星に後でご褒美あげるね」

 そう言って微笑む瑠奈ちゃんに私も相好を崩す。

「ほいそこ、いちゃついてないてないで働け」

 会長にちょっと怒られながら、お仕事を頑張りましょうかと意識を切り替える……つもりなのだが瑠奈ちゃんのご褒美に期待が募る。まぁ、キスだろうなぁていう気はしているんだけど。この学校の生徒の半数ほどは女の子が恋愛対象、そうでないにしても、どっちもアリかどっちもナシってタイプが多い。中等部から瑠奈ちゃんと一緒で、高校生になるちょっと前に恋仲になった。それまでも友達同士が付き合い始めたり、先輩に告白して断られたりした同級生をよく見てきた。生徒会はそんな生徒達の割合が比較的高く、小館先輩は白崎優寿先輩と親友以上の仲を公言してるし、逆に倉田邑先輩は誰とも付き合わないことを明言こそしていないけれど雰囲気から察せられる。中学生の後輩はノンケを自称してるけど、別の女の子の猛アタックに陥落寸前って感じ。文芸部と生徒会を掛け持つ私にはけっこういい空間だったりする。

「はい、じゃあ仕事終わり! お疲れ、解散!!」

 そうこうしているうちに仕事も終わり、今日は入学式だけで授業もないので帰路に就くことになる。荷物を取りに生徒会室まで向かう。生徒会室は校舎二階西側にあり、敷地の東端にある講堂からだとやや遠い。まぁ、昇降口方向だからしょうがないんだけど。そんなことを考えながら生徒会室にたどり着き、ドアを開けて荷物はどこだったかと見渡していると、瑠奈ちゃんはすぐに持ってきてくれた・

「美星、帰りましょう?」

 こういった気配りがお姉さんっぽくて憧れる。

「私は子供っぽい可愛い美星を愛してるよ」
「もう、何でもお見通しなんだから……」
「二人とも、生徒会室でいちゃいちゃ禁止!」
「「は、はい……」」

 会長に怒られたので私たちは二人ならんで帰宅することになった。星花女子学園には中等部高等部それぞれに桜花寮と菊花寮という二つの寮がある。桜花は一般的な生徒が過ごす二人部屋で、菊花は優秀な生徒が集まる寮で個室が与えられる。とはいえ、菊花寮への移動は強制ではないため、学習面で上位な私と瑠奈ちゃんでも桜花に留まることが出来る。二人部屋の方が好都合なこと、いろいろあるからね。

「ちょっと寄り道しよう」

 瑠奈ちゃんに手を引かれて向かったのは、敷地内に植えられた大きな桜の樹の側。

「美星……」

 桜の樹の陰、誰からも見られない位置で私を見つめる瑠奈ちゃん。何も言わなくても分かる。満開の桜の下、そっと口づけを交わす。

「「ちゅ……ん」」

 瑠奈ちゃんの瑞々しい唇から私の唇へ繋がる銀糸。導かれるように再び唇を重ねる。

「「ん、ちゅぅ……ちゅぱ、んちゅ、ちゅ」」

 さっきより情熱的に、溶けるような一体感を味わう。瑠奈ちゃんの舌に口腔内を犯されて、少し腰が引ける。

「美星、続きは今夜にしましょうか」
「……うん。帰ろう」

 明日は土曜日だから、きっと今夜は……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

星空の花壇 ~星花女子アンソロジー~

楠富 つかさ
恋愛
なろう、ハーメルン、アルファポリス等、投稿サイトの垣根を越えて展開している世界観共有百合作品企画『星花女子プロジェクト』の番外編短編集となります。 単体で読める作品を意識しておりますが、他作品を読むことによりますます楽しめるかと思います。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

実る果実に百合を添えて

楠富 つかさ
恋愛
私、佐野いちごが入学した女子校には生徒が思い思いのメンバーを集めてお茶会をする文化があって、私が誘われた”果実会”はフルーツに縁のある名前の人が集まっている。 そんな果実会にはあるジンクスがあって……それは”いちご”の名前を持つ生徒と付き合えば幸せになれる!? 待って、私、女の子と付き合うの!?

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

僕(じゃない人)が幸せにします。

暇魷フミユキ
恋愛
【副題に☆が付いている話だけでだいたい分かります!】 ・第1章  彼、〈君島奏向〉の悩み。それはもし将来、恋人が、妻ができたとしても、彼女を不幸にすることだった。  そんな彼を想う二人。  席が隣でもありよく立ち寄る喫茶店のバイトでもある〈草壁美頼〉。  所属する部の部長でたまに一緒に帰る仲の〈西沖幸恵〉。  そして彼は幸せにする方法を考えつく―――― 「僕よりもっと相応しい人にその好意が向くようにしたいんだ」  本当にそんなこと上手くいくのか!?  それで本当に幸せなのか!?  そもそも幸せにするってなんだ!? ・第2章  草壁・西沖の二人にそれぞれの相応しいと考える人物を近付けるところまでは進んだ夏休み前。君島のもとにさらに二人の女子、〈深町冴羅〉と〈深町凛紗〉の双子姉妹が別々にやってくる。  その目的は―――― 「付き合ってほしいの!!」 「付き合ってほしいんです!!」  なぜこうなったのか!?  二人の本当の想いは!?  それを叶えるにはどうすれば良いのか!? ・第3章  文化祭に向け、君島と西沖は映像部として広報動画を撮影・編集することになっていた。  君島は西沖の劇への参加だけでも心配だったのだが……  深町と付き合おうとする別府!  ぼーっとする深町冴羅!  心配事が重なる中無事に文化祭を成功することはできるのか!? ・第4章  二年生は修学旅行と進路調査票の提出を控えていた。  期待と不安の間で揺れ動く中で、君島奏向は決意する―― 「僕のこれまでの行動を二人に明かそうと思う」  二人は何を思い何をするのか!?  修学旅行がそこにもたらすものとは!?  彼ら彼女らの行く先は!? ・第5章  冬休みが過ぎ、受験に向けた勉強が始まる二年生の三学期。  そんな中、深町凛紗が行動を起こす――  君島の草津・西沖に対するこれまでの行動の調査!  映像部への入部!  全ては幸せのために!  ――これは誰かが誰かを幸せにする物語。 ここでは毎日1話ずつ投稿してまいります。 作者ページの「僕(じゃない人)が幸せにします。(「小説家になろう」投稿済み全話版)」から全話読むこともできます!

君の瞳のその奥に

楠富 つかさ
恋愛
地方都市、空の宮市に位置する中高一貫の女子校『星花女子学園』で繰り広げられる恋模様。それは時に甘く……時に苦い。 失恋を引き摺ったまま誰かに好意を寄せられたとき、その瞳に映るのは誰ですか? 片想いの相手に彼女が出来た。その事実にうちひしがれながらも日常を送る主人公、西恵玲奈。彼女は新聞部の活動で高等部一年の須川美海と出会う。人の温もりを欲する二人が出会い……新たな恋が芽吹く。

処理中です...