いくら剣道有段者だからって異世界で無双なんてちょっと……

楠富 つかさ

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いくら短編小説だからって急展開なんてちょっと……

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 勇者として戦い始めて二年が経過した。もし、元いた世界でも同じように時間が経っているとしたら、私はもう戻ったところで生活に復帰できるだろうか……。
 こちらの世界では、旅立ってから何人かの仲間を迎えたことがある。でも……その人たちはどうしてか、ここまで生き残ることは叶わなかった。だから結局、ルリアとソニアの二人と旅を続けた。この二年での最大の変化は、ルリアが弓術を習得したことだろうか。

「ヒナギク様。いよいよ、ですね」
「この扉の先に……魔王が」

 二年という歳月をかけて、大陸を縦断し魔王城へと辿り着いた。城にいた多くの上級魔族を打ち倒し、とうとうこの重厚で禍々しい装飾のされた扉の前に辿り着いたのだ。

「開けましょう」

 左手に楯を装備し、身体全体を使ってソニアが扉を開ける。私も既に抜刀を済ませている。ルリアも、弓に矢を番え、いつでも射ることが出来る状態だ。三人が三人とも臨戦態勢を取り、突入。

「ほほぉ、汝らが勇者ということか。我が名はクラリア。この世界の魔を統べる者」

 王座に座るは漆黒のドレスに身を包んだ小柄な人物。声からして女性。いや、もっと幼い……少女だろうか。だが、纏う雰囲気は幼女のそれではない。禍々しいほどの殺気が肌を貫くような感覚だ。

「せい!」

 ご託は聞きたくないとでも言わんばかりに、ルリアが一矢放つ。

「傲慢之鎗・壱式!!」

 放たれた一矢は虚空から出現した鎗によって弾かれる。その鎗はふわりと浮遊しており、そしてクラリアの手にすっぽりと収まった。すかさず私とソニアが逆方向に駆け出す。左右からの挟撃は二対一の常套手段、その上正面からは再びルリアが矢を構える。

「ならばこれでどうだ!!」

 私の横薙ぎとソニアの振り下ろしを、クラリアはいつの間にか握っていた剣と斧で受け止める。だが両手がふさがったことでルリアが眉間めがけて矢を放つ。それでもクラリアの表情は不敵な笑みを浮かべたまま。
 その理由はすぐに分かった。先ほどまで握っていたはずの鎗は上空にあり、回転しながら盾のように射線を塞ぎ、矢を弾いてしまったのだ。
 鍔迫り合いもほどほどにバックステップで間合いを取ると、いつしか剣や斧、鎗、鎌といった七種類の武器が浮遊していた。

「これが魔王の力……」

 視界の右端に、剣を正眼に構えたソニアが見える。彼女も旅の過程で何度も剣を失った。激戦の果てに刀身が崩壊した剣もあった。魔王領に入れば店売りの剣などなく、今は最後に戦った上級魔族を討伐した上で手に入れた魔剣を構えている。
 その魔剣を見て、クラリアはにやにやとした笑みを浮かべた。

「ふふふ、その剣はデューケスのものか。……馬鹿め」

 その言葉がトリガーになったのか、魔族の佩刀とは思えないほど美しい……それこそアメジストのようだった刀身は突如として赤黒く染まってしまった。その上、柄頭からは触手のようなものが這いだし、瞬く間にソニアを包みこもうとする。ソニアも必死で抵抗するが、どうにも手放せないらしい

「何をする!!」
「えい!」

 ルリアも石を柄に当てようと投擲するが、触手に阻まれて命中しない。私はその触手を断ち切らんと駆け寄るが、魔王の剣が足下に飛来し蹈鞴を踏む。

「その魔剣は、今お前の目の前に刺さっているその剣の試作品でな、我の言うことはある程度聞いてくれるのだよ」
「ぐ、やめろ……やメてく……うぅ、ゥヴァァアアアアア!!」
「もっとも、持ち主を喰おうとする厄介者でな、デューケスのような肉体のない魔導人形程度にしか使える代物ではないのだよ」
「グォォ……!!」

 そこにもうソニアの姿はなかった。魔剣に喰われた……敵の姿だった。

「ヒナギク様! ここは……私が!!」

 ルリアが短剣を構える。ルリアは弓も短剣も、食糧を得るための狩りの中で覚えた。本来なら……実戦向きでもなんでもない。なのに……。

「ふふ、君たちの相手は彼女一人で十分そうね」

 黒い双翼を羽ばたかせ、再びふわりと玉座に腰を下ろしたクラリアの姿に、血が上る思いだった。刀を構えて突進する。その私を塞いだのは……ソニアだった。魔剣の横薙ぎが私を襲う。

「くぅ……!」

 バックステップで回避した私を大上段から真っ二つにせんと魔剣が迫り来る。

「――――!!」

 その……ガラ空きになった腹部にナイフを突き立てたのは、ルリアだった。

「ごめんなさい、ソニアさん……!」

 だが、ナイフ一本で魔に堕ちたソニアは斃れなかった。

「や、やめて!!」

 私の声だけが虚しく木霊する。魔剣の一撃で、ルリアの身体は完全に裂けてしまった。言葉すらなく、ルリアだったものが血の海に沈む。
 ……そして私は二年の月日を共にした仲間を手に掛けた。
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