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楠富 つかさ

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ファイル19 お客様のお仕事は……? 4月25日月曜日

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 不動産屋さんのお仕事で重要なことの一つに、物件を揃えることがある。一般的な小売店でいうところの品揃えという意味での、揃えるという行為なのだが、基本的に不動産屋さんはその会社でしか募集できない物件と、業者間で融通の利く物件の二通りを取り扱っている。
 リリィエステートでは他の不動産屋さんから「ぜひ紹介してください」と言って資料を送ってもらった物件や、物件を建てたり管理したりするのは得意だが、集客は他の不動産屋さんに任せたいという会社からの許諾のもと、他社の物件も店頭に資料を掲げるなどして紹介している。

「有働さん、物件の登録は順調?」
「はい、ポータルに今日中にもう十五件くらいは入れられそうです」

 最近の私は他社の物件情報を自社のポータルサイトに載せる業務を任せてもらっている。リリィエステートは自社で所有する物件や管理を任せてもらっている物件も数が多いので、あまりポータルサイトの枠に余裕はないのだけれど、空けておくのももったいないということで少しずつ登録している。
 他社でも取り扱える物件を登録するのは品揃えを充実させるという点では非常に有用なのだが、その物件がまだ空いているのかを確認する手間がかかるので要注意だ。既に成約している物件を掲載し続けてしまうと、おとり広告として宅建業法に違反してしまうからだ。まぁ、この辺りは管理はしていないけど貸主様と直接やり取りのある一般物件にも該当する注意事項なのだが。
 そんな作業をしていると、一人のお客様が店内に入ってきた。ちょうど三咲ちゃん……もとい、建原係長が電話を掛け始めてしまったので、私がいらっしゃいませと一声かけて席へ案内する。

「こんちは。物件探しに来ましたー」

 二十歳くらいだろうか、小柄ながら出るところは出た可愛らしい女性だ。飲み物はいらないとのことなので、どんな物件を探しているのかヒアリングを始める。

「どんな物件かぁ。取り敢えず一人暮らしなんだけど、服が多いから二部屋あった方が嬉しいかも。で、出来るだけすぐ入れるお部屋がいいね。それこそ来週から住み始めたい」
「えっと、5月頭ですね……。ちょっと、ゴールデンウィークとの兼ね合いもあって難しいかもしれないんですけど、どういった事情でしょうか」
「あー、そんな時期か。カレンダー気にしてなかったや。えっと、彼女から出て行ってほしいって言われちゃって。厳密にはもう元カノか。一週間はいていいって言われたんだけど……ねぇ」

 女子校出身というか、現在進行形で三咲ちゃんに想いを寄せる身としては彼女が云々で驚きはしない。
 希望する間取りと時期、エリアは駅から近い方がいいというところまでヒアリングした段階で、三咲ちゃんが電話を終えて私の隣に着席した。

「営業の建原です。よろしくお願いいたします」
「あ、どうも。遠藤です。お姉さん、デカいっすね」

 遠藤様が三咲ちゃんの胸を見て一言。三咲ちゃんは咳払い一つで話を進める。

「遠藤様は二十歳ですね、学生さんですか?」
「ううん。風俗嬢。あ、女の子向けのお店だから、よかったら来てよ」
「……それはさておき、夜職の方ですと審査などにお時間かかりますが、よろしいでしょうか」
「あぁ、その辺はまぁ分かるよ。今一緒に住んでる元カノも同業者だし」

 ……何がどうして追い出されるに至ったのか、気になるような、そうでもないような。

「予算は五万円ほど、でしたら……こことか、あるいはこちらなんてどうでしょう」
「へぇ、市内でも海ヶ谷寄りだったら便利だよね。え、ここ仲介手数料ないの?」
「はい、そちら弊社の自社物件ですので仲介手数料無料となっております」

 仲介手数料は貸主さんと借主さんを仲介するための手数料だから自社が貸主となっている賃貸契約にはかからないのだ。

「じゃあ、ここにしようかな。フォンテーヌ・エスト103号室っと。これ両隣人住んでる系?」
「そうですね。お住まいです」
「り。挨拶はちゃんとするから安心して」

 ギャルっぽい印象とは裏腹にけっこう角ばった字ですらすらと申込書を書く遠藤様。リリィエステート用と保証会社用の二枚を書き終えお帰りになられた。

「内見せず決めちゃって大丈夫なんですかね」
「審査に通してどんな結果になるかしら」

 さぁて、物件登録の作業に戻らなくっちゃ。
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