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ファイル17 初めての契約 4月23日土曜日
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今日はいよいよ寺島様の契約日だ。実は入社してから既に何件かの契約をリリィエステートでは交わしているのだけれど、駐車場だったり書類を郵送でやり取りしていたり、そもそも他社が客付けを行っていたりと、店舗にお客様をお迎えしての契約というのは、私が入社してからだと初めてなのである。
「初めてだし、隣で聞いていてくれればいいから」
三咲ちゃんにそう言われ、私はこくりと頷いた。
約束していた時間になり、寺島様たちが来店する。私はテーブルへ案内し、飲み物の準備に取り掛かる。賃貸物件の契約は三十分から一時間ほどかかるという。大学には実家から通っていたから、自分自身がお部屋を借りた経験がないので、正直なところ流れもよく分かっていない。
「寺島様、本日はご契約のため来店いただき誠にありがとうございます。では、重要事項から説明させていただきます。私、建原三咲が担当いたします。こちらが宅地建物取引士証でございます」
宅建士の資格がないとできない業務に重要事項の説明がある。重要事項説明書という書類があるのだが、建物の権利に関する事項とか法律上の制限をうけているかとかライフラインについてとか、とにかく大量に説明しなくてはならない事柄が記載された大変重要な書類なのだ。
私も一応、大学時代に資格自体は取ったのだけれど、ここから実際に業務に仕える免許証を入手するまでが非常に大変なのだ。とりわけ私の場合は実務の経験がないため講習を受ける必要があるのだけれど、その講習も宅建の合格発表後に集中しているので、私はわざわざ県西部の湖濱津まで行って一泊二日で講習に行かねばならないのだ。しかも五月の下旬に。会社が交通費を支給してくれるというのでありがたく行かせてもらうけれど、そこから先もまだまだかかるのだがここでは割愛。
「では続きまして契約書の説明に入らせていただきます。一部、重要事項説明書と重複する部分がございますがご容赦ください。まずは紛争防止のための説明書としてこちら――」
重要事項説明書と違って契約書は宅建士の資格がなくてもお客様へ説明していい。まぁ、私はまだ経験がないから今回は三咲ちゃんの説明を聞くに徹するのだが。三咲ちゃんの説明はスラスラと堂に入ったものなのだが、どこか学校で授業を聞いているような感覚になってしまい、少しだけ眠気に誘われる。寺島様の妹、菜月様も若干眠そうにしている。
「建物の契約書についての説明は以上となりますが、ここまでで何か質問はございますか?」
「私からは何も。菜月、あんたちゃんと聞いてた?」
「え? ……うん、だいじょぶ」
……大丈夫かな? ひとまず三咲ちゃんが書類を一旦片付ける。お部屋の契約に際してまだまだ説明しなきゃいけないことがたくさんあるのだ。
「では次に保証会社の契約書ですね。今回ご利用いただく保証会社は毎月二十六日にお客様が指定した口座からお家賃の引き落としをいたします。先ほど契約書でもご説明した通り、万が一残高不足で引き落とせなかった場合は、手数料を上乗せして請求してきますのでご注意を。では、口座の登録なのですが二次元コードの読み取りでも可能ですが、いかがですか?」
口座番号を手書きして銀行員を押すよりはインターネット上で登録した方が簡単そうだ。菜月様が登録の処理を進めてくれた。
「こちら、ご加入いただく保険のパンフレットです。先日、ショートメッセージで加入の案内をいたしましたが、こちら保証会社と連動しておりまして、保険料の17,000円は初回引き落とし時に一緒に請求となります。今回、四月の日割りと五月分賃料を契約金と一緒にいただきますので、五月の二十六日に六月分のお家賃と一緒に引かれます」
さて、ここまでくれば契約も大詰めだ。
「あとはこちら、紹介程度ですが引っ越しやその他サービスの案内となっております。必要に応じてご連絡いただければと思います。それでは、捺印をお願いいたします」
私が印鑑を押してもらうページを順番に提示して、寺島様がテンポよく押印していく。
「はい、これで本日の契約は以上でございます。重要事項説明書と入居のしおり、こちらはお持ちください。契約書については貸主様より証明捺印をいただきましたら、郵送にてお送りいたします。本日はありがとうございました」
長いようなあっという間なような、ともあれ無事に契約は完了したのだった。
「初めてだし、隣で聞いていてくれればいいから」
三咲ちゃんにそう言われ、私はこくりと頷いた。
約束していた時間になり、寺島様たちが来店する。私はテーブルへ案内し、飲み物の準備に取り掛かる。賃貸物件の契約は三十分から一時間ほどかかるという。大学には実家から通っていたから、自分自身がお部屋を借りた経験がないので、正直なところ流れもよく分かっていない。
「寺島様、本日はご契約のため来店いただき誠にありがとうございます。では、重要事項から説明させていただきます。私、建原三咲が担当いたします。こちらが宅地建物取引士証でございます」
宅建士の資格がないとできない業務に重要事項の説明がある。重要事項説明書という書類があるのだが、建物の権利に関する事項とか法律上の制限をうけているかとかライフラインについてとか、とにかく大量に説明しなくてはならない事柄が記載された大変重要な書類なのだ。
私も一応、大学時代に資格自体は取ったのだけれど、ここから実際に業務に仕える免許証を入手するまでが非常に大変なのだ。とりわけ私の場合は実務の経験がないため講習を受ける必要があるのだけれど、その講習も宅建の合格発表後に集中しているので、私はわざわざ県西部の湖濱津まで行って一泊二日で講習に行かねばならないのだ。しかも五月の下旬に。会社が交通費を支給してくれるというのでありがたく行かせてもらうけれど、そこから先もまだまだかかるのだがここでは割愛。
「では続きまして契約書の説明に入らせていただきます。一部、重要事項説明書と重複する部分がございますがご容赦ください。まずは紛争防止のための説明書としてこちら――」
重要事項説明書と違って契約書は宅建士の資格がなくてもお客様へ説明していい。まぁ、私はまだ経験がないから今回は三咲ちゃんの説明を聞くに徹するのだが。三咲ちゃんの説明はスラスラと堂に入ったものなのだが、どこか学校で授業を聞いているような感覚になってしまい、少しだけ眠気に誘われる。寺島様の妹、菜月様も若干眠そうにしている。
「建物の契約書についての説明は以上となりますが、ここまでで何か質問はございますか?」
「私からは何も。菜月、あんたちゃんと聞いてた?」
「え? ……うん、だいじょぶ」
……大丈夫かな? ひとまず三咲ちゃんが書類を一旦片付ける。お部屋の契約に際してまだまだ説明しなきゃいけないことがたくさんあるのだ。
「では次に保証会社の契約書ですね。今回ご利用いただく保証会社は毎月二十六日にお客様が指定した口座からお家賃の引き落としをいたします。先ほど契約書でもご説明した通り、万が一残高不足で引き落とせなかった場合は、手数料を上乗せして請求してきますのでご注意を。では、口座の登録なのですが二次元コードの読み取りでも可能ですが、いかがですか?」
口座番号を手書きして銀行員を押すよりはインターネット上で登録した方が簡単そうだ。菜月様が登録の処理を進めてくれた。
「こちら、ご加入いただく保険のパンフレットです。先日、ショートメッセージで加入の案内をいたしましたが、こちら保証会社と連動しておりまして、保険料の17,000円は初回引き落とし時に一緒に請求となります。今回、四月の日割りと五月分賃料を契約金と一緒にいただきますので、五月の二十六日に六月分のお家賃と一緒に引かれます」
さて、ここまでくれば契約も大詰めだ。
「あとはこちら、紹介程度ですが引っ越しやその他サービスの案内となっております。必要に応じてご連絡いただければと思います。それでは、捺印をお願いいたします」
私が印鑑を押してもらうページを順番に提示して、寺島様がテンポよく押印していく。
「はい、これで本日の契約は以上でございます。重要事項説明書と入居のしおり、こちらはお持ちください。契約書については貸主様より証明捺印をいただきましたら、郵送にてお送りいたします。本日はありがとうございました」
長いようなあっという間なような、ともあれ無事に契約は完了したのだった。
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