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ファイル08 車庫証明を作ろう 4月10日日曜日
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日曜日の昼下がり、今日も三咲ちゃんは内見で出かけていて私が店番をしていた。
社長と専務は別件があるらしく同じく出かけているので、店にいるのは私と部長だけだ。正直まだ部長とは全然話せていない。知っていることは専務と親子であることと、榊詩織という名前だけは分かっている。それも本人から聞いたのではなく、ネームプレートを見て知っただけなのだが。
「部長は、どうしてリリィエステートへ?」
意を決して私が声をかけた瞬間、玄関ドアの開く音がした。
「いらっしゃいませ」
小走りで出迎えると、若い夫婦とおぼしき男女が来店した。ご新規のお客さんかと思って席へ案内すると、
「車庫証明をお願いしたいんですけど」
「しゃ、車庫証明ですね……えっと」
手渡された書類には保管場所使用承諾証明書と書かれていた。
「この前、車を買い替えたからディーラーさんからこれを書いてもらうように言われて持ってきたんだ」
「そうなんですね、ありがとうございます。どちらの物件にお住まいか伺っても?」
どうやらこの書類は車に関係する書類らしい。初めて見るからまだ詳細が把握しきれていないが、とにかくこのお客様はすでにうちで物件を契約して住んでいる方のようだ。
「シティリバーハイツのB棟205に住んでいる津田といいます」
「津田さまですね、少々お待ちください」
書類を持って榊部長のところへ向かう。仕事のことでは少し話しているから……教えてはくれるだろう。
「会社か物件のオーナーさんの印鑑を押すから今すぐは無理。……明日以降になることと、2200円かかることを伝えて今日は……お引き取りいただいて」
「は、はい。分かりました」
私がそのことをお客様に伝えると――
「できれば早く欲しいんだがなぁ」
「明日にはご用意できると思います」
「いやぁ、平日は仕事だし。郵送してくれる?」
「あ、郵送……か、よろしければ直接お持ちしても?」
「んじゃあ、姉ちゃん受け取っておいて」
どうやらご夫婦ではなく姉弟らしい。
「2200円は車庫証明を受け取った時に払えばいいね」
「はい、よろしくお願いします」
津田様が帰られてから十五分くらいというタイミングで三咲ちゃんが帰社してきた。
「み――建原係長、車庫証明を発行して欲しいというお客様が来ました」
「物件はどこ? あぁ、シティリバーハイツね。じゃあ社長が戻ってきたらできるから、覚えてね」
車庫証明とは、自分が所有する車を他人名義の土地に駐車するために必要な書類で、警察が発行するものをいう。車庫証明とひとくくりで言いがちだけれど、私たち不動産屋さんが発行するのは保管場所使用承諾証明書という、この場所に車を置くことを許していますよという書類のようだ。
リリィエステートが貸しているなら、会社の印鑑だし、仲介を任されているだけなら大家さんの印鑑が必要になる。今回はというと――
「管理契約書の台帳からシティリバーハイツの管理契約書を持ってきて」
三咲ちゃんの指示通り、分厚い書類の束からシティリバーハイツの管理契約書を引っ張り出す。
どうやらシティリバーハイツは川沿いにあるとかそういうわけではなく、大家さんが市川さんというらしい。市がシティで川がリバー……なるほどだ。
「管理物件の場合は会社が代理として承諾書にサインできるの。そのためには、ちゃんと管理を委託されてますよっていう契約書のコピーを添えてあげないとね」
あとは物件の地図と駐車場なら配置図をセットにして提出するらしい。
「そうそう、これが会社の印鑑を押してもらうための請求簿だよ。ここに、会社の実印、銀行印、社長の実印って並んでいるでしょう? 今回は会社の実印にチェックを入れて、書類を挟んで、これでOKだよ」
取り敢えずまた一つ新しい業務を覚えた。次は……一人でできるといいな。
社長と専務は別件があるらしく同じく出かけているので、店にいるのは私と部長だけだ。正直まだ部長とは全然話せていない。知っていることは専務と親子であることと、榊詩織という名前だけは分かっている。それも本人から聞いたのではなく、ネームプレートを見て知っただけなのだが。
「部長は、どうしてリリィエステートへ?」
意を決して私が声をかけた瞬間、玄関ドアの開く音がした。
「いらっしゃいませ」
小走りで出迎えると、若い夫婦とおぼしき男女が来店した。ご新規のお客さんかと思って席へ案内すると、
「車庫証明をお願いしたいんですけど」
「しゃ、車庫証明ですね……えっと」
手渡された書類には保管場所使用承諾証明書と書かれていた。
「この前、車を買い替えたからディーラーさんからこれを書いてもらうように言われて持ってきたんだ」
「そうなんですね、ありがとうございます。どちらの物件にお住まいか伺っても?」
どうやらこの書類は車に関係する書類らしい。初めて見るからまだ詳細が把握しきれていないが、とにかくこのお客様はすでにうちで物件を契約して住んでいる方のようだ。
「シティリバーハイツのB棟205に住んでいる津田といいます」
「津田さまですね、少々お待ちください」
書類を持って榊部長のところへ向かう。仕事のことでは少し話しているから……教えてはくれるだろう。
「会社か物件のオーナーさんの印鑑を押すから今すぐは無理。……明日以降になることと、2200円かかることを伝えて今日は……お引き取りいただいて」
「は、はい。分かりました」
私がそのことをお客様に伝えると――
「できれば早く欲しいんだがなぁ」
「明日にはご用意できると思います」
「いやぁ、平日は仕事だし。郵送してくれる?」
「あ、郵送……か、よろしければ直接お持ちしても?」
「んじゃあ、姉ちゃん受け取っておいて」
どうやらご夫婦ではなく姉弟らしい。
「2200円は車庫証明を受け取った時に払えばいいね」
「はい、よろしくお願いします」
津田様が帰られてから十五分くらいというタイミングで三咲ちゃんが帰社してきた。
「み――建原係長、車庫証明を発行して欲しいというお客様が来ました」
「物件はどこ? あぁ、シティリバーハイツね。じゃあ社長が戻ってきたらできるから、覚えてね」
車庫証明とは、自分が所有する車を他人名義の土地に駐車するために必要な書類で、警察が発行するものをいう。車庫証明とひとくくりで言いがちだけれど、私たち不動産屋さんが発行するのは保管場所使用承諾証明書という、この場所に車を置くことを許していますよという書類のようだ。
リリィエステートが貸しているなら、会社の印鑑だし、仲介を任されているだけなら大家さんの印鑑が必要になる。今回はというと――
「管理契約書の台帳からシティリバーハイツの管理契約書を持ってきて」
三咲ちゃんの指示通り、分厚い書類の束からシティリバーハイツの管理契約書を引っ張り出す。
どうやらシティリバーハイツは川沿いにあるとかそういうわけではなく、大家さんが市川さんというらしい。市がシティで川がリバー……なるほどだ。
「管理物件の場合は会社が代理として承諾書にサインできるの。そのためには、ちゃんと管理を委託されてますよっていう契約書のコピーを添えてあげないとね」
あとは物件の地図と駐車場なら配置図をセットにして提出するらしい。
「そうそう、これが会社の印鑑を押してもらうための請求簿だよ。ここに、会社の実印、銀行印、社長の実印って並んでいるでしょう? 今回は会社の実印にチェックを入れて、書類を挟んで、これでOKだよ」
取り敢えずまた一つ新しい業務を覚えた。次は……一人でできるといいな。
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