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ファイル04 駐車場を契約しよう 4月4日月曜日
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日曜日のうちに契約書の確認を終え、三咲ちゃんを相手に契約のロールプレイングもした。まぁ、今日の契約は三咲ちゃんが契約書を読み上げるんだけど。
朝いちばんで第七生命の乾さんからお電話があり、契約の時間は午後二時で確定。
「契約の流れ、ちゃんと聞いておいてね。駐車場の契約は宅建士が説明する必要ないし、人によってはこの駐車場を今すぐ契約したいって言ってくる場合もあるから。よっぽそ急ぎじゃなければ翌日に再度来てもらってもいいけど、前の職場は……十分とか十五分で契約書作ってそのまま契約したこともあったっけ」
お昼ご飯を食べ終えた午後一時半ちょっと過ぎ、契約に必要なものの説明をあらためて受ける。
今回は法人である第七生命さんが契約者になるから、ゴム印用に黒いスタンプ台を用意する。さらに、四月分の家賃は現金で受け取るので預かり証を用意するとのこと。
「どうして領収書じゃなくて預かり証なの?」
「このお金を領収するのは大家さんでしょう? 私たちは一時的にお預かりするだけなの。夕方、斎藤さんを訪問して契約書に大家さんの判子を押してもらうんだけど、その時に領収書も書いてもらうよ。そのあと、契約書と領収書を第七生命さんにお渡しして、預かり証は返してもらうの」
契約書は借りる人と貸す人双方の印鑑を押す必要があるから、今日は契約日だけど契約書をお渡ししてはいけないようだ。正直、ずっと実家暮らしでお部屋どころか駐車場も借りたことないのに……不動産屋さんに勤めてるんだよなぁ。
「説明、難しかった?」
「あ、ごめん。大丈夫、ありがとう」
私のリアクションが鈍かったせいで三咲ちゃんに無駄な心配をさせてしまった。反省。ちゃんと返事しないと。
「大家さんから判子もらった後はどうするの?」
「契約書って二部ずつ作ったでしょう? 片方は大家さんにお渡しして、持って帰ってきた片方をコピーして会社に残す台帳を作るの。実際に作るとき説明するよ。控えを作ったら、原本は郵送しよう。明日明後日って定休日だし」
「なるほど。あ、お客様お見えだ」
「乾さんだね。いこうか」
来店したのはパンツスーツをきりっと着こなした三十代半ばくらいの女性。ひとまず席へと案内し、名刺交換をする。名刺交換も三咲ちゃん相手に何度も何度も練習した。先に渡すパターン、先に受けとるパターン、同時に渡すパターンそれぞれ立っている時と着席している時の場合分けもした。
いただいた名刺を自分の名刺入れの上に置いて、契約書を広げても邪魔にならない場所へ置く。
契約そのものは三咲ちゃんのよどみない説明で円滑に完了した。
そしてその日の夕方。
「斎藤さんの話は前にもしたよね? 今回契約した駐車場がかつての実家で、今はアパート建ててその一室に暮らしてるって」
「うん。ハイムUだよね?」
「そう。そのハイムUがこの建物だよ」
三咲ちゃんの運転するルーテシアでやってきたのは、三階建てのよく見るようなコンクリート造の建物だった。
「これってアパートなの?」
「アパートとマンションってけっこう曖昧な定義なんだよね。鉄筋コンクリート造なんだけど、三階建てだからアパートって大家さんはそう言ってる。ここ、高さ制限があるんだよね。七瀬ちゃんも宅建取ってるから分かると思うけど、ここ第二種低層住居専用地域なんだよ。だから四階建てには出来なかったんだって」
「……ごめん、覚えてないや。用途制限があるっていうのは分かるけど、細かくは覚えてない。ちょっと復習したけど、付け焼刃じゃ無理」
取り敢えず、建物には建てられる場所の制限があって、ここは三階建てまでしか建てられなかったらしい。で、マンションと同じ素材で建てられているけれど、三階建てだからアパートって名乗っているらしい。四部屋が三階で十二部屋だとアパートで、三部屋が四階建てなら同じ十二部屋なのにマンション……分からん。
「大家さんは101に住んでるから、とにかく行ってみよう」
インターホンを押すと、すぐに四十代後半くらいの女性がドアを開けてくれた。貸主の斎藤裕子さんだ。名刺を渡して挨拶する。
「あら新人さんね。若いわぁ。建原さんもお姉さんなのね」
「斎藤さん、有働さんは私と同い年ですよ」
ボインな三咲ちゃんと並んだら、高卒の新人ですって紹介されても疑われないかもしれないけど……ぎこちなく頷くことしかできなかった。
何はともあれ判子をいただき、契約書の一冊をお渡ししてハイムUを後にした私たち。
「じゃあ簡単に台帳の説明をするね」
説明された内容は実際に簡単で、ホチキス留めしてある契約書を一旦分解。両面コピーしたら原本は再びホチキスで留める。コピーには表紙として契約した物件の名前、貸主借主双方の名前、契約した日付、そして何の書類が綴じられているかのチェックシートがついている紙も一緒に挟む。こうして完成した台帳はファイルに収めて保管室で保管する。
「原本はこのレターパックで送るよ。今回は預かり証を返す時の封筒も入れてあるから、返してもらう書類がある時は忘れず入れてね。じゃあ、これ向かいのコンビニにポストがあるから投函してきて」
一口に契約といっても、契約するまでも契約してからも、いろんな作業があるんだなぁと思った一日だった。
何はともあれ、明日と明後日はお休みだ!!
朝いちばんで第七生命の乾さんからお電話があり、契約の時間は午後二時で確定。
「契約の流れ、ちゃんと聞いておいてね。駐車場の契約は宅建士が説明する必要ないし、人によってはこの駐車場を今すぐ契約したいって言ってくる場合もあるから。よっぽそ急ぎじゃなければ翌日に再度来てもらってもいいけど、前の職場は……十分とか十五分で契約書作ってそのまま契約したこともあったっけ」
お昼ご飯を食べ終えた午後一時半ちょっと過ぎ、契約に必要なものの説明をあらためて受ける。
今回は法人である第七生命さんが契約者になるから、ゴム印用に黒いスタンプ台を用意する。さらに、四月分の家賃は現金で受け取るので預かり証を用意するとのこと。
「どうして領収書じゃなくて預かり証なの?」
「このお金を領収するのは大家さんでしょう? 私たちは一時的にお預かりするだけなの。夕方、斎藤さんを訪問して契約書に大家さんの判子を押してもらうんだけど、その時に領収書も書いてもらうよ。そのあと、契約書と領収書を第七生命さんにお渡しして、預かり証は返してもらうの」
契約書は借りる人と貸す人双方の印鑑を押す必要があるから、今日は契約日だけど契約書をお渡ししてはいけないようだ。正直、ずっと実家暮らしでお部屋どころか駐車場も借りたことないのに……不動産屋さんに勤めてるんだよなぁ。
「説明、難しかった?」
「あ、ごめん。大丈夫、ありがとう」
私のリアクションが鈍かったせいで三咲ちゃんに無駄な心配をさせてしまった。反省。ちゃんと返事しないと。
「大家さんから判子もらった後はどうするの?」
「契約書って二部ずつ作ったでしょう? 片方は大家さんにお渡しして、持って帰ってきた片方をコピーして会社に残す台帳を作るの。実際に作るとき説明するよ。控えを作ったら、原本は郵送しよう。明日明後日って定休日だし」
「なるほど。あ、お客様お見えだ」
「乾さんだね。いこうか」
来店したのはパンツスーツをきりっと着こなした三十代半ばくらいの女性。ひとまず席へと案内し、名刺交換をする。名刺交換も三咲ちゃん相手に何度も何度も練習した。先に渡すパターン、先に受けとるパターン、同時に渡すパターンそれぞれ立っている時と着席している時の場合分けもした。
いただいた名刺を自分の名刺入れの上に置いて、契約書を広げても邪魔にならない場所へ置く。
契約そのものは三咲ちゃんのよどみない説明で円滑に完了した。
そしてその日の夕方。
「斎藤さんの話は前にもしたよね? 今回契約した駐車場がかつての実家で、今はアパート建ててその一室に暮らしてるって」
「うん。ハイムUだよね?」
「そう。そのハイムUがこの建物だよ」
三咲ちゃんの運転するルーテシアでやってきたのは、三階建てのよく見るようなコンクリート造の建物だった。
「これってアパートなの?」
「アパートとマンションってけっこう曖昧な定義なんだよね。鉄筋コンクリート造なんだけど、三階建てだからアパートって大家さんはそう言ってる。ここ、高さ制限があるんだよね。七瀬ちゃんも宅建取ってるから分かると思うけど、ここ第二種低層住居専用地域なんだよ。だから四階建てには出来なかったんだって」
「……ごめん、覚えてないや。用途制限があるっていうのは分かるけど、細かくは覚えてない。ちょっと復習したけど、付け焼刃じゃ無理」
取り敢えず、建物には建てられる場所の制限があって、ここは三階建てまでしか建てられなかったらしい。で、マンションと同じ素材で建てられているけれど、三階建てだからアパートって名乗っているらしい。四部屋が三階で十二部屋だとアパートで、三部屋が四階建てなら同じ十二部屋なのにマンション……分からん。
「大家さんは101に住んでるから、とにかく行ってみよう」
インターホンを押すと、すぐに四十代後半くらいの女性がドアを開けてくれた。貸主の斎藤裕子さんだ。名刺を渡して挨拶する。
「あら新人さんね。若いわぁ。建原さんもお姉さんなのね」
「斎藤さん、有働さんは私と同い年ですよ」
ボインな三咲ちゃんと並んだら、高卒の新人ですって紹介されても疑われないかもしれないけど……ぎこちなく頷くことしかできなかった。
何はともあれ判子をいただき、契約書の一冊をお渡ししてハイムUを後にした私たち。
「じゃあ簡単に台帳の説明をするね」
説明された内容は実際に簡単で、ホチキス留めしてある契約書を一旦分解。両面コピーしたら原本は再びホチキスで留める。コピーには表紙として契約した物件の名前、貸主借主双方の名前、契約した日付、そして何の書類が綴じられているかのチェックシートがついている紙も一緒に挟む。こうして完成した台帳はファイルに収めて保管室で保管する。
「原本はこのレターパックで送るよ。今回は預かり証を返す時の封筒も入れてあるから、返してもらう書類がある時は忘れず入れてね。じゃあ、これ向かいのコンビニにポストがあるから投函してきて」
一口に契約といっても、契約するまでも契約してからも、いろんな作業があるんだなぁと思った一日だった。
何はともあれ、明日と明後日はお休みだ!!
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