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ファイル03 社用車の管理を覚えよう 4月3日日曜日
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「お電話ありがとうございます。リリィエステート、有働が承ります」
三日目ともなれば電話と取ることには慣れつつあった。ただ、やはりまだ物件名とか地元なのに細かい地名とかが覚えきれないこともあって、こういう電話にはまだ慣れずにいた。
『今さぁ、南町のなんかオレンジ色のアパートの前にいるんだけど、おたくの看板があって、それで電話したんだけど、ここって空いてる部屋ある?』
朝十時に聞くにはあまりにギャンギャンするギャルっぽいお姉さんからの電話だった。まだ物件に詳しくないので、ひとまず保留して三咲ちゃんに聞く。南町ってどこに対して南なんだろう。
「今、看板を見て電話してくださったお客様から、南町のオレンジ色のアパートに問い合わせが」
「あぁ、それならそのままオレンジハイツ南町だね。空の宮駅からちょっと南にあるんだよ。取り敢えず代わるね。――お電話代わりました営業の建原です。はい、二階の角部屋に空きがございまして、間取りは2LDKでお家賃が五万三千円となっております。……はい、ご覧になりますか? ……えぇ、では十五分でお伺いいたしますので、はい。よろしくお願いいたします。――ふぅ、じゃあ鍵の出し方教えるね」
電話の対応がスマートではやり三咲ちゃんはかっこいいなぁと思いつつ、鍵の出し方を教わる。大家さんによっては不動産屋さんであるうちに、鍵を預けてくれることがある。
「鍵はこの引き出しに入ってるよ。この引き出しの鍵は私と専務が持ってるから、必要な時は声をかけてね」
三咲ちゃんが事務所の北東の隅にある引き出しを開ける。この引き出し、ラベルに自社とか管理とか一般とか書いてある。
「オレンジハイツはリリィエステートの管理物件だから、鍵はぜーんぶ、うちが持ってるよ。絶対に紛失しないようにね」
管理物件とは大家さんから一棟まるごと管理を依頼されている物件で、大家さんから毎年管理料として一定の金額をいただいている。他の不動産屋さんは直接大家さんと賃貸の交渉ができず、うちを通さねばならないらしい。賃貸がメインの不動産屋さんにとって、管理物件を増やすことは経営安定の定石らしい。
「三咲ちゃん内見? じゃあシグ使って。帰りに給油もお願い」
「分かりました、社長。では内見行ってきます!!」
三咲ちゃんを見送ってから、社長に一つ質問する。
「シグってなんのことですか?」
「あぁ、そっか。社有車の話、し忘れてたっけ。実際に見ながら話そうか」
社長に言われ玄関を出て南側に広がる駐車場に出る。ちょうど、シルバーの小さい車が敷地を出て行ったところだ。あれが三咲ちゃんが乗った車だろうか。
「あれはシグネットっていう車で、私が勝手にシグって呼んでる。オーダーメイドとか限定車を除けば世界屈指のレア車だよ」
「え? でも何となくあの形の車を見たことあるような……」
「それは多分iQっていうシグのベースになった車だよ。シグはね……百数十台しか売れなかったらしくてね、母からおさがりでもらったけど、何のつもりで買ったかちょっと今でも意味不明」
スマホで調べてみるとどうやらイギリスの車らしい。小さいけれど軽自動車ではないようだ。
「だいたい物件を見に行く時とか、一人で乗る時に使ってもらってる。軽より幅はあるけど、小回りはすごくいいし高級感もあって私はそれなりに気に入ってる。まぁ、ルーちゃんの方が好きだけど。あれ、オレンジ色の車がルーテシア。四人までならあれで充分。大所帯で来てそのまま移動ってこと、ほぼないし」
あれはどうやらフランス車らしい。日本の街並みにも合うおしゃれ可愛い車だなって思った。オレンジ色がいいのかもしれない。
「一応、上客というかお金持ちの中にはセダンを好むお客さんもいるから、あのシルバーの車がESってやつなんだけど六代目ESはちょっと古い車なんだよね。とはいえ七代目がちょっと見た目がギラギラし過ぎだから、六代目の方が上品な気がするのよね」
あのエンブレムは流石に見たことがある。レクサスだ。社長、若いのにこんなに高そうな車並べて……一体何者なんだろうか。
「ちなみに、土日に給油すると箱ティッシュもらえるから給油は土日ね」
……そこはケチケチしてるのね。庶民派の感覚もお持ちと。
「てなわけで、ガソリンの減りを確認して半分切ってたら給油お願い。鍵はさっき教わってた物件の鍵棚の横にフックでつるしてあるよ。スタンドはここから南に150メートルくらいのところにあるし、カードはそれぞれ車に入ってるから。……セルフのガソリンスタンド行ったことあるよね?」
「……それは大丈夫ですけど、高い車を運転するの……緊張しますね」
さっきやたら調べたせいで金額まで見てしまったのだ。私が乗っているのは中古車な上に新車でも200万円くらいだから……二倍以上の価格の車たちだ。普通に緊張する。
「それは慣れだよ。頑張って!!」
ルーテシアとESのエンジンをかけてみたところ、ルーテシアだけガソリンの残量が半分を切っていたので給油することになった。……緊張は快適さと相殺できたので、普通にいい車だなって思いながら運転したのだった。
三日目ともなれば電話と取ることには慣れつつあった。ただ、やはりまだ物件名とか地元なのに細かい地名とかが覚えきれないこともあって、こういう電話にはまだ慣れずにいた。
『今さぁ、南町のなんかオレンジ色のアパートの前にいるんだけど、おたくの看板があって、それで電話したんだけど、ここって空いてる部屋ある?』
朝十時に聞くにはあまりにギャンギャンするギャルっぽいお姉さんからの電話だった。まだ物件に詳しくないので、ひとまず保留して三咲ちゃんに聞く。南町ってどこに対して南なんだろう。
「今、看板を見て電話してくださったお客様から、南町のオレンジ色のアパートに問い合わせが」
「あぁ、それならそのままオレンジハイツ南町だね。空の宮駅からちょっと南にあるんだよ。取り敢えず代わるね。――お電話代わりました営業の建原です。はい、二階の角部屋に空きがございまして、間取りは2LDKでお家賃が五万三千円となっております。……はい、ご覧になりますか? ……えぇ、では十五分でお伺いいたしますので、はい。よろしくお願いいたします。――ふぅ、じゃあ鍵の出し方教えるね」
電話の対応がスマートではやり三咲ちゃんはかっこいいなぁと思いつつ、鍵の出し方を教わる。大家さんによっては不動産屋さんであるうちに、鍵を預けてくれることがある。
「鍵はこの引き出しに入ってるよ。この引き出しの鍵は私と専務が持ってるから、必要な時は声をかけてね」
三咲ちゃんが事務所の北東の隅にある引き出しを開ける。この引き出し、ラベルに自社とか管理とか一般とか書いてある。
「オレンジハイツはリリィエステートの管理物件だから、鍵はぜーんぶ、うちが持ってるよ。絶対に紛失しないようにね」
管理物件とは大家さんから一棟まるごと管理を依頼されている物件で、大家さんから毎年管理料として一定の金額をいただいている。他の不動産屋さんは直接大家さんと賃貸の交渉ができず、うちを通さねばならないらしい。賃貸がメインの不動産屋さんにとって、管理物件を増やすことは経営安定の定石らしい。
「三咲ちゃん内見? じゃあシグ使って。帰りに給油もお願い」
「分かりました、社長。では内見行ってきます!!」
三咲ちゃんを見送ってから、社長に一つ質問する。
「シグってなんのことですか?」
「あぁ、そっか。社有車の話、し忘れてたっけ。実際に見ながら話そうか」
社長に言われ玄関を出て南側に広がる駐車場に出る。ちょうど、シルバーの小さい車が敷地を出て行ったところだ。あれが三咲ちゃんが乗った車だろうか。
「あれはシグネットっていう車で、私が勝手にシグって呼んでる。オーダーメイドとか限定車を除けば世界屈指のレア車だよ」
「え? でも何となくあの形の車を見たことあるような……」
「それは多分iQっていうシグのベースになった車だよ。シグはね……百数十台しか売れなかったらしくてね、母からおさがりでもらったけど、何のつもりで買ったかちょっと今でも意味不明」
スマホで調べてみるとどうやらイギリスの車らしい。小さいけれど軽自動車ではないようだ。
「だいたい物件を見に行く時とか、一人で乗る時に使ってもらってる。軽より幅はあるけど、小回りはすごくいいし高級感もあって私はそれなりに気に入ってる。まぁ、ルーちゃんの方が好きだけど。あれ、オレンジ色の車がルーテシア。四人までならあれで充分。大所帯で来てそのまま移動ってこと、ほぼないし」
あれはどうやらフランス車らしい。日本の街並みにも合うおしゃれ可愛い車だなって思った。オレンジ色がいいのかもしれない。
「一応、上客というかお金持ちの中にはセダンを好むお客さんもいるから、あのシルバーの車がESってやつなんだけど六代目ESはちょっと古い車なんだよね。とはいえ七代目がちょっと見た目がギラギラし過ぎだから、六代目の方が上品な気がするのよね」
あのエンブレムは流石に見たことがある。レクサスだ。社長、若いのにこんなに高そうな車並べて……一体何者なんだろうか。
「ちなみに、土日に給油すると箱ティッシュもらえるから給油は土日ね」
……そこはケチケチしてるのね。庶民派の感覚もお持ちと。
「てなわけで、ガソリンの減りを確認して半分切ってたら給油お願い。鍵はさっき教わってた物件の鍵棚の横にフックでつるしてあるよ。スタンドはここから南に150メートルくらいのところにあるし、カードはそれぞれ車に入ってるから。……セルフのガソリンスタンド行ったことあるよね?」
「……それは大丈夫ですけど、高い車を運転するの……緊張しますね」
さっきやたら調べたせいで金額まで見てしまったのだ。私が乗っているのは中古車な上に新車でも200万円くらいだから……二倍以上の価格の車たちだ。普通に緊張する。
「それは慣れだよ。頑張って!!」
ルーテシアとESのエンジンをかけてみたところ、ルーテシアだけガソリンの残量が半分を切っていたので給油することになった。……緊張は快適さと相殺できたので、普通にいい車だなって思いながら運転したのだった。
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