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#18 布陣
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関ケ原の東側にある垂井という町にあるかつての運動公園に第三魔導学園は急ごしらえの拠点を構えている。
「藤城隊の皆さんね……待っていたわ。心から」
拠点で私たちを出迎えたのは第三魔導学園所属の岸原隊、副隊長の朝霞少佐であった。氷属性を得意とするメイガスとしては指折りの実力者として有名だ。怜悧な印象の人だと思っていたが、今は随分と憔悴している。
「隊長の岸原以下十七名が死亡、四名が今でも音信不通、そして二十二名が程度の差はあれ今のところは継戦不能よ」
朝霞少佐と彼女の班で副官をしているという能美中尉と結歌ちゃん、私――そして幸村少佐という五人で引継ぎを兼ねたミーティングを始め、その開口一番で朝霞少佐が告げた内容はあまりに絶望的なものだった。
「岸原隊の総人数って……」
「六十四人よ。壊滅といっても過言ではないわ。指定討伐魔獣丙種が出たのよ。白虎型だった。岸原は大佐で、率いる班にも左官が数名いたこともあり交戦を開始、一体は討伐したわ。けれど……もう三体いたのよ。丙種といえど指定討伐魔獣が四体も戦場にいるなんて異常よ。結局、三体倒した時点で部隊は壊滅……撤退中に全滅したわ。最後の通信は……退却の命令だったわ」
そんな魔境に来てしまったのか。とはいえ、私たち藤城隊は先遣隊。後詰にやってくるのは正規軍の大規模な部隊だ。それに、西側からは第四魔導学園の舞台が布陣している。かの関ケ原の合戦と違って共通の敵を東西から攻めるのだ。人類の勝利は揺るぎない……。
「私を班長とする朝霞班は藤城隊の麾下に入ります。おそらく今回の敗戦の責任を取るため階級を落とされるでしょうから……」
「少佐……」
岸原隊といえば外征の花形で第三魔導学園にとっては憧れの存在であった。隊長の岸原千歳大佐は光属性魔法のエキスパートで聖騎士の二つ名でかたられるほどの傑物だった。そんな人物を喪えば……士気も落ちるか。
「少しいいかしら。残った五人はどうするつもり?」
幸村少佐が手を挙げて質問を投げかける。死者行方不明者とこの場に残る人、合計して……そうか、まだ五十九名か。
「残った五人は負傷者を連れて名古屋へ戻ってもらいます。その部隊は……能美中尉に率いてもらいます」
「そ、そんな! 最後まで貴女の側でお仕えさせてください!!」
「馬鹿なことを言わないで。まだ中等部の子だっている。彼女たちを率いていつか戦うために、今は君をここに残すわけにはいかないんだ。本当ならもっと段階的に指揮を教えたかったけど……今は無理だわ。この関ケ原で魔物を掃討しなければ戦地が広がってしまう。それは……阻止しなければならない」
これから先の未来を手繰り寄せるためにも、この戦場で勝利を掴まなければならない。決意を新たに、関ケ原の夜は暮れていく。
「藤城隊の皆さんね……待っていたわ。心から」
拠点で私たちを出迎えたのは第三魔導学園所属の岸原隊、副隊長の朝霞少佐であった。氷属性を得意とするメイガスとしては指折りの実力者として有名だ。怜悧な印象の人だと思っていたが、今は随分と憔悴している。
「隊長の岸原以下十七名が死亡、四名が今でも音信不通、そして二十二名が程度の差はあれ今のところは継戦不能よ」
朝霞少佐と彼女の班で副官をしているという能美中尉と結歌ちゃん、私――そして幸村少佐という五人で引継ぎを兼ねたミーティングを始め、その開口一番で朝霞少佐が告げた内容はあまりに絶望的なものだった。
「岸原隊の総人数って……」
「六十四人よ。壊滅といっても過言ではないわ。指定討伐魔獣丙種が出たのよ。白虎型だった。岸原は大佐で、率いる班にも左官が数名いたこともあり交戦を開始、一体は討伐したわ。けれど……もう三体いたのよ。丙種といえど指定討伐魔獣が四体も戦場にいるなんて異常よ。結局、三体倒した時点で部隊は壊滅……撤退中に全滅したわ。最後の通信は……退却の命令だったわ」
そんな魔境に来てしまったのか。とはいえ、私たち藤城隊は先遣隊。後詰にやってくるのは正規軍の大規模な部隊だ。それに、西側からは第四魔導学園の舞台が布陣している。かの関ケ原の合戦と違って共通の敵を東西から攻めるのだ。人類の勝利は揺るぎない……。
「私を班長とする朝霞班は藤城隊の麾下に入ります。おそらく今回の敗戦の責任を取るため階級を落とされるでしょうから……」
「少佐……」
岸原隊といえば外征の花形で第三魔導学園にとっては憧れの存在であった。隊長の岸原千歳大佐は光属性魔法のエキスパートで聖騎士の二つ名でかたられるほどの傑物だった。そんな人物を喪えば……士気も落ちるか。
「少しいいかしら。残った五人はどうするつもり?」
幸村少佐が手を挙げて質問を投げかける。死者行方不明者とこの場に残る人、合計して……そうか、まだ五十九名か。
「残った五人は負傷者を連れて名古屋へ戻ってもらいます。その部隊は……能美中尉に率いてもらいます」
「そ、そんな! 最後まで貴女の側でお仕えさせてください!!」
「馬鹿なことを言わないで。まだ中等部の子だっている。彼女たちを率いていつか戦うために、今は君をここに残すわけにはいかないんだ。本当ならもっと段階的に指揮を教えたかったけど……今は無理だわ。この関ケ原で魔物を掃討しなければ戦地が広がってしまう。それは……阻止しなければならない」
これから先の未来を手繰り寄せるためにも、この戦場で勝利を掴まなければならない。決意を新たに、関ケ原の夜は暮れていく。
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