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#7 黒獣の咆吼
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『もう目視で見えますよね。お二人のどちらかにバイタル低下が見受けられ次第、撤退するよう指示をします。今現在、討伐班の人員を大至急策定中ですから、確定し次第速やかに名古屋から向かわせます。お願いですから無理はしないでくださいね。……では、ご武運を』
通信を終える。私は魔剣――グリーディ・メイデンを抜剣した。
「なーんか、わくわくするね」
「結歌ちゃんだけだと思うよ。そんなこと言うの」
普通なら死の危険に身の縮む思いになるんだろうけど、結歌ちゃんと一緒だからだね。何も怖くないや。グリーディ・メイデンに魔力を流し込む。下腹部が疼き心臓が一段と強く脈打つ。その高揚感もあってか、私たちを視認した黒獅子の咆吼にも何も感じない。
「やるよ」
「うん!」
多くの言葉は不要。私たちは回り込むように駆けだした。その巨体を斬りつけると、魔力が噴き出す。表皮はさほど硬くなく、斬撃が通用することに安堵する。何度も何度も斬りつける私たちを、まるで羽虫を払うように身をよじってぶつかってくる。
その巨体だ、少しぶつかるだけで身体に叩きつけられる衝撃は尋常では無い。さらに光属性の攻撃を嫌ってか、その巨体でこれまでの振り払いとは違う、一拍の溜を置いた体当たりを私にする。街路樹に叩きつけられるも、なんとか立ち上がる。魔力繊維で出来た制服を着ていなければ昏倒していただろう。
「ふぅ……」
間合いが開いたということもあり、固有魔法の発動をすべくグリーディ・メイデンを腰だめに構える。一人で相対することになった結歌ちゃんは、自身の重力を軽減し宙を舞いながら戦う。その度に風に踊るツインテールと翻るスカート、その奥の真っ白な腿と淡い色の下着が私を欲情させる。
『露辺中尉、脈拍が異常です。大丈夫ですか!?』
「平気よ、魔剣の代償だから……結歌ちゃん!」
その一声で、結歌ちゃんがふわりと私の背後に着地する。裂帛の気合いと共に魔剣を振り抜く。魔剣という概念、そしてその名に似つかわしくない光輝の翼が黒獅子を襲う。身体からごっそり魔力が抜け落ちる感覚、そして苦しくなる呼吸。
「あぁ……っく、ハァ、ん……ふぅ。ど、どう?」
「まだみたい。舞美ちゃん、辛かったら離れていいからね」
お断りだね、いっそ抱きしめてしまいたいくらいだよ。薄桃色に靄がかかる頭を振り、剣を構える。再び宙へ浮き上がる結歌ちゃんにつられ、視線を上げる魔獣の足下――既に傷を負っている右前足へと刺突を繰り出す。
「危ない!」
異変に気付いた結歌ちゃんが叫ぶ。魔獣は結歌ちゃんを追って上を向いたのではなく、ブレスを吐く溜めを作るべく上を向いたのだ。魔獣の口元に闇色の炎がちらつく。このままでは格好の的になってしまうが、もう止められない。
「上がれぇ!!」
結歌ちゃんの重力操作は、自身か斬りつけた対象にのみ有効。大型の魔獣には効き目が弱いが、結歌ちゃんは懸命に頭部だけでも操作しようと頑張っている。……私の、ために!
「せりゃぁ!!!」
グリーディ・メイデンに魔力を注ぐ。ブレスの下半分、その闇属性の魔力を魔剣の光属性で相殺して無力化していく。そのブレスを超えて、刀身を目標へ突き立てる。仰け反る魔獣から飛び退き、地べたに這う私を抱き起こしてくれる結歌ちゃん。軽く触れられただけで、刺激が奔って目の前がチリチリしてしまう。
「ハァ……ゆい、か……ちゃん」
結歌ちゃんの唇から目が離せない。奪いたい、貪りたい……。熱に浮かされた思考を、かすかに残った理性で抑えこむ。けれど、こんな腰砕けじゃまともに戦えない。
「どうしちゃったの舞美ちゃん!?」
視界の端で警戒してこちらを睨む魔獣を捉える。迷ってる暇はない……結歌ちゃんの右手を掴み私の胸に押し付ける。驚いて半開きになった結歌ちゃんの花唇に私のを重ねる。
「「んちゅ……ぬぷ、ずちゅ……」」
『キマシタワー!!』
通信のノイズがうるさい。私はずっと前からこうしたかった。本当は二人の部屋かベッドの上、あるいは景色のいい場所でしたかったし、何なら結歌ちゃんからして欲しかった。それかキスしていいか聞かれて、返事としてキスするのもありだった。戦場で無理矢理だなんて論外だ。
「「じゅるるぅ……ん、むぅ。……ぁん」」
全身を駆け巡る快楽に溺れながら、薄目で結歌ちゃんの表情を見る。幸い、嫌そうな顔はしてなかった。驚いたけど、少しだけ気持ちよさそうな表情。あぁ、結歌ちゃんもこんな顔するんだ。魔剣の代償なんて関係なく、劣情に駆られる。下着はおろかスカートにすら染みていそうだが、もう関係ない。
「ごめん、後で全部話すから今はあれ……を?」
「え、あ……だ、誰?」
満たされたことで頭はすっきりした。魔力は残り僅かだが戦える、そう思って再び魔剣を構えた時、翠緑の一閃が魔獣の首を落とした。
「今際の刻みに交わす口づけだったかしら? にしては淫らね」
「ほんとに、誰?」
ぽかんとする結歌ちゃんの問いに、深緑のセーラー服その裾を上げ優雅に一礼した彼女はこう名乗った。
「第四魔導学園高等部二年、幸村ひかり少佐よ。あの魔獣を追ってきたのだけれど、面白いものが見られたわね」
納刀しながらたおやかに微笑む幸村ひかり少佐。私は魔力の使いすぎと戦闘の疲労、そして何よりキスを見られた恥ずかしさのあまり意識を手放してしまった。
通信を終える。私は魔剣――グリーディ・メイデンを抜剣した。
「なーんか、わくわくするね」
「結歌ちゃんだけだと思うよ。そんなこと言うの」
普通なら死の危険に身の縮む思いになるんだろうけど、結歌ちゃんと一緒だからだね。何も怖くないや。グリーディ・メイデンに魔力を流し込む。下腹部が疼き心臓が一段と強く脈打つ。その高揚感もあってか、私たちを視認した黒獅子の咆吼にも何も感じない。
「やるよ」
「うん!」
多くの言葉は不要。私たちは回り込むように駆けだした。その巨体を斬りつけると、魔力が噴き出す。表皮はさほど硬くなく、斬撃が通用することに安堵する。何度も何度も斬りつける私たちを、まるで羽虫を払うように身をよじってぶつかってくる。
その巨体だ、少しぶつかるだけで身体に叩きつけられる衝撃は尋常では無い。さらに光属性の攻撃を嫌ってか、その巨体でこれまでの振り払いとは違う、一拍の溜を置いた体当たりを私にする。街路樹に叩きつけられるも、なんとか立ち上がる。魔力繊維で出来た制服を着ていなければ昏倒していただろう。
「ふぅ……」
間合いが開いたということもあり、固有魔法の発動をすべくグリーディ・メイデンを腰だめに構える。一人で相対することになった結歌ちゃんは、自身の重力を軽減し宙を舞いながら戦う。その度に風に踊るツインテールと翻るスカート、その奥の真っ白な腿と淡い色の下着が私を欲情させる。
『露辺中尉、脈拍が異常です。大丈夫ですか!?』
「平気よ、魔剣の代償だから……結歌ちゃん!」
その一声で、結歌ちゃんがふわりと私の背後に着地する。裂帛の気合いと共に魔剣を振り抜く。魔剣という概念、そしてその名に似つかわしくない光輝の翼が黒獅子を襲う。身体からごっそり魔力が抜け落ちる感覚、そして苦しくなる呼吸。
「あぁ……っく、ハァ、ん……ふぅ。ど、どう?」
「まだみたい。舞美ちゃん、辛かったら離れていいからね」
お断りだね、いっそ抱きしめてしまいたいくらいだよ。薄桃色に靄がかかる頭を振り、剣を構える。再び宙へ浮き上がる結歌ちゃんにつられ、視線を上げる魔獣の足下――既に傷を負っている右前足へと刺突を繰り出す。
「危ない!」
異変に気付いた結歌ちゃんが叫ぶ。魔獣は結歌ちゃんを追って上を向いたのではなく、ブレスを吐く溜めを作るべく上を向いたのだ。魔獣の口元に闇色の炎がちらつく。このままでは格好の的になってしまうが、もう止められない。
「上がれぇ!!」
結歌ちゃんの重力操作は、自身か斬りつけた対象にのみ有効。大型の魔獣には効き目が弱いが、結歌ちゃんは懸命に頭部だけでも操作しようと頑張っている。……私の、ために!
「せりゃぁ!!!」
グリーディ・メイデンに魔力を注ぐ。ブレスの下半分、その闇属性の魔力を魔剣の光属性で相殺して無力化していく。そのブレスを超えて、刀身を目標へ突き立てる。仰け反る魔獣から飛び退き、地べたに這う私を抱き起こしてくれる結歌ちゃん。軽く触れられただけで、刺激が奔って目の前がチリチリしてしまう。
「ハァ……ゆい、か……ちゃん」
結歌ちゃんの唇から目が離せない。奪いたい、貪りたい……。熱に浮かされた思考を、かすかに残った理性で抑えこむ。けれど、こんな腰砕けじゃまともに戦えない。
「どうしちゃったの舞美ちゃん!?」
視界の端で警戒してこちらを睨む魔獣を捉える。迷ってる暇はない……結歌ちゃんの右手を掴み私の胸に押し付ける。驚いて半開きになった結歌ちゃんの花唇に私のを重ねる。
「「んちゅ……ぬぷ、ずちゅ……」」
『キマシタワー!!』
通信のノイズがうるさい。私はずっと前からこうしたかった。本当は二人の部屋かベッドの上、あるいは景色のいい場所でしたかったし、何なら結歌ちゃんからして欲しかった。それかキスしていいか聞かれて、返事としてキスするのもありだった。戦場で無理矢理だなんて論外だ。
「「じゅるるぅ……ん、むぅ。……ぁん」」
全身を駆け巡る快楽に溺れながら、薄目で結歌ちゃんの表情を見る。幸い、嫌そうな顔はしてなかった。驚いたけど、少しだけ気持ちよさそうな表情。あぁ、結歌ちゃんもこんな顔するんだ。魔剣の代償なんて関係なく、劣情に駆られる。下着はおろかスカートにすら染みていそうだが、もう関係ない。
「ごめん、後で全部話すから今はあれ……を?」
「え、あ……だ、誰?」
満たされたことで頭はすっきりした。魔力は残り僅かだが戦える、そう思って再び魔剣を構えた時、翠緑の一閃が魔獣の首を落とした。
「今際の刻みに交わす口づけだったかしら? にしては淫らね」
「ほんとに、誰?」
ぽかんとする結歌ちゃんの問いに、深緑のセーラー服その裾を上げ優雅に一礼した彼女はこう名乗った。
「第四魔導学園高等部二年、幸村ひかり少佐よ。あの魔獣を追ってきたのだけれど、面白いものが見られたわね」
納刀しながらたおやかに微笑む幸村ひかり少佐。私は魔力の使いすぎと戦闘の疲労、そして何よりキスを見られた恥ずかしさのあまり意識を手放してしまった。
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