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#6 忍び寄る脅威
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結歌ちゃんたちと合流した私たちは、中型種の魔獣に近付きながら隊列を整える。前衛は結歌ちゃん、中村准尉、西川少尉、志島少尉、中衛に私、渡辺伍長、赤松曹長、田中少尉、後衛に野村軍曹、木戸准尉、大宮少尉、宮下中尉という布陣だ。
「いましたね、中型種……角牛型ですね」
大型の闘牛にも似た巨躯と雄々しい一対の角、見た目通りのタフネスと突進の攻撃力から中型種の中でも強力な魔獣だ。しかし側面からの攻撃に弱いため、側面を一気呵成に叩くことが作戦の定跡とされている。
「よし、一体目に攻撃開始!」
四人の一斉攻撃に魔獣が怯む、その一瞬の隙を私たち二陣が攻め込む。小型種ならこの一撃で屠ることが出来るが、中型種はそう生半可ではない。雄叫びをあげ、その巨大な角を振り回す。
「っきゃ!」
「大宮先輩! あやねちゃんの援護を、みほちゃん準備いい!」
「はい! 灼熱の火球よ、燃えさかれ!!」
角の先端に引っ掛けられ、伍長の小柄な体躯が宙を舞う。結歌ちゃんの指示で大宮少尉が抱き止めに向かう。それから、この隊唯一の遠距離型メイガスである野村軍曹の火炎魔法が炸裂する。より一層暴れる魔獣は、前足を蹴り結歌ちゃん目がけて突進する。それを結歌ちゃんは刀で受け止め重力操作で地面に叩きつける。動きは封じた、今!
「舞美ちゃん!」
結歌ちゃんの声に合せて大上段からの斬撃を振り下ろす。魔獣に血は流れておらず、黒褐色の魔力が霧となって霧散する。
「次!」
完全に沈黙した一体目を脇目に、一キロほどの距離にいる二体目に視線を送る。倒れ伏した角牛型魔獣越しに見えるその横顔が……私は大嫌いで大好きなんだ。また、剣客の顔をしている。私は、笑顔の結歌ちゃんを見たくて戦っているのに……。
「宮下先輩、なかっち!」
二体目の角牛種へ、結歌ちゃん、私、宮下中尉、中村准尉で一斉攻撃を行う。加えて槍使い志島少尉の投擲した槍が眉間へ突き刺さる。
「オッケー、ゆんちゃん!」
「サンキュー、りーちゃん!」
志島少尉の投げた槍を足場に、田中少尉が跳躍。真上から刀を突き立てる。魔獣の雄叫びに中村准尉が転倒するが被害は軽微、このまま作戦通り……。
「止めてみせますわ!!」
障壁魔法のメイガス、宮下中尉が角牛型魔獣の突進を押し止める。そして、ガラ空きの側面を赤松曹長と西川少尉が切り裂く。両サイドから魔力を吹き上げながら、魔獣は倒れ伏していった。
『中型種二体の討伐を確認、皆さん流石ですね! 帰投をお待ちしてお――――え? 想定外の大型種が戦闘区域へ接近中……』
端末から伊藤オペレーターの困惑した声が聞こえてくる。小型種の一匹や二匹ならまだしも、大型種を見過ごすなんて普通ありえない。
『なるほど、紀伊で偵察班が殉職した原因となった魔獣か……。指定討伐魔獣乙種……黒獅子型です!』
隊に動揺が広がる。大型種の魔獣はもはや災害と言っても過言では無いほどに凶暴で獰猛、尉官に満たない学生討伐者は戦闘を禁じられている。そのサイズたるや、大型トレーラーを二台横並びにした大きさに匹敵する。
挙げ句、大型種はメイガスのように魔法を操る魔獣が多くいる。中でも危険な魔獣が指定討伐魔獣として甲乙丙に分類される。乙種は佐官級の学生かガーデンを卒業した陸軍魔獣討伐局特殊討伐班の正規軍人でなければ対応してはならないことになっている。つまるところ、私たちでは手出しできない……。
「総員撤退、宮下先輩……後を頼みます。時間を稼ぎますから。木戸ちゃん、しんがりは任せたから」
「た、隊長……正気ですか?」
「いくらなんでも無謀です!」
全く以て二人が正しい。乙種魔獣は一人二人でどうにか出来るものではない。それに……彼女に指揮を委譲した時点で、私は結歌ちゃんと一緒に行動するのだと分かる。
「舞美ちゃん……側にいてくれるよね?」
あぁ、無邪気で傲慢で我が儘な結歌ちゃん。何も言わずにいる私に、肯定の言葉を求めるなんて。
「当たり前よ。……死ぬまで一緒にいるんだから」
「えへへ、死んでも離さないよ。舞美ちゃん」
どうして、そう私が欲しがるような言葉を使うんだろう。私の一生なんて、とっくに結歌ちゃんのものだから。また、グリーディ・メイデンが震える。きっと、もうすぐ抜かれることを察しているのだろう。
「おかしな人たちですわ。……承りました、総員撤退!」
野村軍曹が、自分の魔法なら役に立てると時間稼ぎ役を志願するが、結歌ちゃんは静かに首を振るだけだった。宮下中尉がそんな彼女を諫める。
「大丈夫、倒そうなんて思ってないよ。危なくなったら逃げるから。さぁ、行って!」
なおも渋る隊員に、結歌ちゃんが言い聞かせる。隊員十人が地下シェルターへ向かう。ここまで過程を見守ってくれた伊藤オペレーターから通信が入る。
『第四魔導学園から情報の提供がありました。黒獅子型は手負いで右前肢を負傷して爪による攻撃が不可能となっております。闇属性のブレスが要注意です。会敵まで残り十分』
どちらからともなく、お互いの手を握る。その温もりが、確かな繋がり。結歌ちゃんのためなら、私の命は惜しくない。
「いましたね、中型種……角牛型ですね」
大型の闘牛にも似た巨躯と雄々しい一対の角、見た目通りのタフネスと突進の攻撃力から中型種の中でも強力な魔獣だ。しかし側面からの攻撃に弱いため、側面を一気呵成に叩くことが作戦の定跡とされている。
「よし、一体目に攻撃開始!」
四人の一斉攻撃に魔獣が怯む、その一瞬の隙を私たち二陣が攻め込む。小型種ならこの一撃で屠ることが出来るが、中型種はそう生半可ではない。雄叫びをあげ、その巨大な角を振り回す。
「っきゃ!」
「大宮先輩! あやねちゃんの援護を、みほちゃん準備いい!」
「はい! 灼熱の火球よ、燃えさかれ!!」
角の先端に引っ掛けられ、伍長の小柄な体躯が宙を舞う。結歌ちゃんの指示で大宮少尉が抱き止めに向かう。それから、この隊唯一の遠距離型メイガスである野村軍曹の火炎魔法が炸裂する。より一層暴れる魔獣は、前足を蹴り結歌ちゃん目がけて突進する。それを結歌ちゃんは刀で受け止め重力操作で地面に叩きつける。動きは封じた、今!
「舞美ちゃん!」
結歌ちゃんの声に合せて大上段からの斬撃を振り下ろす。魔獣に血は流れておらず、黒褐色の魔力が霧となって霧散する。
「次!」
完全に沈黙した一体目を脇目に、一キロほどの距離にいる二体目に視線を送る。倒れ伏した角牛型魔獣越しに見えるその横顔が……私は大嫌いで大好きなんだ。また、剣客の顔をしている。私は、笑顔の結歌ちゃんを見たくて戦っているのに……。
「宮下先輩、なかっち!」
二体目の角牛種へ、結歌ちゃん、私、宮下中尉、中村准尉で一斉攻撃を行う。加えて槍使い志島少尉の投擲した槍が眉間へ突き刺さる。
「オッケー、ゆんちゃん!」
「サンキュー、りーちゃん!」
志島少尉の投げた槍を足場に、田中少尉が跳躍。真上から刀を突き立てる。魔獣の雄叫びに中村准尉が転倒するが被害は軽微、このまま作戦通り……。
「止めてみせますわ!!」
障壁魔法のメイガス、宮下中尉が角牛型魔獣の突進を押し止める。そして、ガラ空きの側面を赤松曹長と西川少尉が切り裂く。両サイドから魔力を吹き上げながら、魔獣は倒れ伏していった。
『中型種二体の討伐を確認、皆さん流石ですね! 帰投をお待ちしてお――――え? 想定外の大型種が戦闘区域へ接近中……』
端末から伊藤オペレーターの困惑した声が聞こえてくる。小型種の一匹や二匹ならまだしも、大型種を見過ごすなんて普通ありえない。
『なるほど、紀伊で偵察班が殉職した原因となった魔獣か……。指定討伐魔獣乙種……黒獅子型です!』
隊に動揺が広がる。大型種の魔獣はもはや災害と言っても過言では無いほどに凶暴で獰猛、尉官に満たない学生討伐者は戦闘を禁じられている。そのサイズたるや、大型トレーラーを二台横並びにした大きさに匹敵する。
挙げ句、大型種はメイガスのように魔法を操る魔獣が多くいる。中でも危険な魔獣が指定討伐魔獣として甲乙丙に分類される。乙種は佐官級の学生かガーデンを卒業した陸軍魔獣討伐局特殊討伐班の正規軍人でなければ対応してはならないことになっている。つまるところ、私たちでは手出しできない……。
「総員撤退、宮下先輩……後を頼みます。時間を稼ぎますから。木戸ちゃん、しんがりは任せたから」
「た、隊長……正気ですか?」
「いくらなんでも無謀です!」
全く以て二人が正しい。乙種魔獣は一人二人でどうにか出来るものではない。それに……彼女に指揮を委譲した時点で、私は結歌ちゃんと一緒に行動するのだと分かる。
「舞美ちゃん……側にいてくれるよね?」
あぁ、無邪気で傲慢で我が儘な結歌ちゃん。何も言わずにいる私に、肯定の言葉を求めるなんて。
「当たり前よ。……死ぬまで一緒にいるんだから」
「えへへ、死んでも離さないよ。舞美ちゃん」
どうして、そう私が欲しがるような言葉を使うんだろう。私の一生なんて、とっくに結歌ちゃんのものだから。また、グリーディ・メイデンが震える。きっと、もうすぐ抜かれることを察しているのだろう。
「おかしな人たちですわ。……承りました、総員撤退!」
野村軍曹が、自分の魔法なら役に立てると時間稼ぎ役を志願するが、結歌ちゃんは静かに首を振るだけだった。宮下中尉がそんな彼女を諫める。
「大丈夫、倒そうなんて思ってないよ。危なくなったら逃げるから。さぁ、行って!」
なおも渋る隊員に、結歌ちゃんが言い聞かせる。隊員十人が地下シェルターへ向かう。ここまで過程を見守ってくれた伊藤オペレーターから通信が入る。
『第四魔導学園から情報の提供がありました。黒獅子型は手負いで右前肢を負傷して爪による攻撃が不可能となっております。闇属性のブレスが要注意です。会敵まで残り十分』
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