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#2 魔剣
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リノリウムの効いた床にキュッという足音が響く。ラボラトリーには武器職人や研究者が詰めている。乾教官のブースへ行くと、彼女はコーヒーを飲んでいた。
「よく来たね。君ほどの優秀な討伐者が今更どうして魔剣なんかを?」
「追いつきたい人がいるので」
私が短くそう答えると、乾教官は人の心は難しいと零し立ち上がった。多分……私は単純な方だと思うのだけれど。立ち上がった乾教官に案内され、戦闘訓練すら出来る広い実験室へと通された。私は一階部分へ。教官は二階部分から放送で私に声を送る。
「事前に提出してもらったDNAサンプルで魔剣のデータベースと照合したところ、一番の適合可能性を示した武器がこれだ」
すると床面の一部が開き、地下から箱がせり出してくる。格納されていたのは象牙色の刀身……およそ金属らしい光沢がないそれは帯びる魔力の属性による影響だった。
「光属性でありながら罪……強欲の名を冠すグリーディ・メイデン。適合率は約80%」
欲深い乙女、かぁ。魔剣は誰にだって扱える代物ではなく、データベースがはじき出した適合率の一次審査と実際に振るってみてどうかという二次審査を通らないと所有者権限を委譲してもらえない。
「固有魔法は翼状のエネルギー波を放出する魔法。代償は欲望の解放。さあ、持ってみなさい」
柄は金色、象牙色の刀身はよくよく見れば確かに翼のような形をしている。魔力を流し込んだ途端、身体が熱くなってきた。呼吸が少しだけ浅くなる。欲望の解放? なんの欲だというのだろうか。
「訓練用のドールを出してください」
「あいよ」
気の抜けた教官の声がしてから、三体のドールが現われた。力を込めて横薙ぎに振るうと固有魔法が発動する。ドールの崩壊を視認すると同時に、心臓が強く脈打つ感覚に襲われる。下腹部がもぞもぞする。なんなの……この感覚は。
「露辺、腹減ったか? 眠くは……なさそうだな」
「空腹感はありませんが、何かを渇望しているような……気分です」
「なるほど、お前の場合は性欲が解放されたわけか。グリーディ・メイデンは持ち主の最も拗らせた欲望を解放する傾向がある。むっつりだったのか。確かにお前、乳でかいからな」
「乾教官!!」
私が性欲を拗らせている……? まさか。だって私が一番愛しているのは結歌ちゃんだ。彼女に歪んだ感情を抱いているわけがない。この気持ちが欲望であるはずがない……。でも、今……すごく結歌ちゃんに会いたい。彼女を抱きしめて、髪を撫でてあげたい。
「ハァ……ハァ……っく、ふぅ……」
グリーディ・メイデンを鞘に戻すと、少しだけ気が楽になった。けれど、これでは戦闘どころではないのかもしれない。力は欲しい……欲しいが。これでは二次審査を通るとは思えない。
「適合率は86%と優秀。固有魔法の発動も問題なし。持って行け」
「いいん、ですか?」
「これまでその剣で睡眠欲や食欲を解放された事例は目撃しているが、性欲を解放された事例は見ていない。私が許可する上で、それ以上の理由などないさ」
……マッドサイエンティストめ。けれど今は素直に喜ぼう。私の新しい……力。
「通常の武器も携帯することだな。常に魔剣で対応しなければならない敵ばかりではない」
「……それくらいは、分かります」
「私は登録やら諸々の手続きをしておく。下がっていいぞ」
「はい、失礼しました」
そう言って、やや内股気味になりながら実験室を辞した。
「よく来たね。君ほどの優秀な討伐者が今更どうして魔剣なんかを?」
「追いつきたい人がいるので」
私が短くそう答えると、乾教官は人の心は難しいと零し立ち上がった。多分……私は単純な方だと思うのだけれど。立ち上がった乾教官に案内され、戦闘訓練すら出来る広い実験室へと通された。私は一階部分へ。教官は二階部分から放送で私に声を送る。
「事前に提出してもらったDNAサンプルで魔剣のデータベースと照合したところ、一番の適合可能性を示した武器がこれだ」
すると床面の一部が開き、地下から箱がせり出してくる。格納されていたのは象牙色の刀身……およそ金属らしい光沢がないそれは帯びる魔力の属性による影響だった。
「光属性でありながら罪……強欲の名を冠すグリーディ・メイデン。適合率は約80%」
欲深い乙女、かぁ。魔剣は誰にだって扱える代物ではなく、データベースがはじき出した適合率の一次審査と実際に振るってみてどうかという二次審査を通らないと所有者権限を委譲してもらえない。
「固有魔法は翼状のエネルギー波を放出する魔法。代償は欲望の解放。さあ、持ってみなさい」
柄は金色、象牙色の刀身はよくよく見れば確かに翼のような形をしている。魔力を流し込んだ途端、身体が熱くなってきた。呼吸が少しだけ浅くなる。欲望の解放? なんの欲だというのだろうか。
「訓練用のドールを出してください」
「あいよ」
気の抜けた教官の声がしてから、三体のドールが現われた。力を込めて横薙ぎに振るうと固有魔法が発動する。ドールの崩壊を視認すると同時に、心臓が強く脈打つ感覚に襲われる。下腹部がもぞもぞする。なんなの……この感覚は。
「露辺、腹減ったか? 眠くは……なさそうだな」
「空腹感はありませんが、何かを渇望しているような……気分です」
「なるほど、お前の場合は性欲が解放されたわけか。グリーディ・メイデンは持ち主の最も拗らせた欲望を解放する傾向がある。むっつりだったのか。確かにお前、乳でかいからな」
「乾教官!!」
私が性欲を拗らせている……? まさか。だって私が一番愛しているのは結歌ちゃんだ。彼女に歪んだ感情を抱いているわけがない。この気持ちが欲望であるはずがない……。でも、今……すごく結歌ちゃんに会いたい。彼女を抱きしめて、髪を撫でてあげたい。
「ハァ……ハァ……っく、ふぅ……」
グリーディ・メイデンを鞘に戻すと、少しだけ気が楽になった。けれど、これでは戦闘どころではないのかもしれない。力は欲しい……欲しいが。これでは二次審査を通るとは思えない。
「適合率は86%と優秀。固有魔法の発動も問題なし。持って行け」
「いいん、ですか?」
「これまでその剣で睡眠欲や食欲を解放された事例は目撃しているが、性欲を解放された事例は見ていない。私が許可する上で、それ以上の理由などないさ」
……マッドサイエンティストめ。けれど今は素直に喜ぼう。私の新しい……力。
「通常の武器も携帯することだな。常に魔剣で対応しなければならない敵ばかりではない」
「……それくらいは、分かります」
「私は登録やら諸々の手続きをしておく。下がっていいぞ」
「はい、失礼しました」
そう言って、やや内股気味になりながら実験室を辞した。
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